第20話 世の中そんなに思った通りにはいかない


 俺、山神柚希。一昨日の約束で昨日の日曜日も瞳さんと会った。映画を見て食事をして公園を散歩して喫茶店に入って話をした。

 そして帰り道、

「柚希、家まで送ってくれる?」

「良いですよ」


 瞳さんの家は、最寄り駅から歩いて十分。バスも通っていて普段はバスを利用しているらしいが、今日は俺が一緒なので歩く事になった。


 いつもより歩く速度が遅い。繋がれた手がきゅっと強く握られている。


「柚希、私の事好き?」

 どういう意味だろう?


「好きですよ」

「愛している?」

「それはまだ分からないです」

「そうよね…

 私を助けてくれた事も

 私に優しい事も

 いつも私に気を使ってくれている事も

 柚希の容姿も

 少し遠慮がちな所も

 あなたといると心が落ち着く事も

 全部好き

 でもそれが愛なのかどうかは私も分からない。でも柚希の傍にずっと居たい」


 瞳さんどうしたんだろう。とても感傷的になっている。また少し歩くと


「もうすぐだよ私の家。あそこがそう」


 瞳さんが指を差した先に見える家はしっかりとした門構えが有り、その前には車止めもあるとても大きない家だ。


 家の傍に行くと瞳さんは俺に抱き着いて来て

「柚希、好き」


 じっと俺の顔を見た。これって…。



「瞳さんお帰りなさい。お友達?」

「「えっ!」」

 綺麗な女性の人からいきなり声を掛けられた。


「あっ、お母さん」

 スッと俺の体から離れて


「はい、彼は山神柚希君。同じ学校の一年生」

「そう、家の中に入って貰ったら」

 そうか瞳さんのお母さんか、俺をちょっと訝しげに見ている。


「柚希、どうする?」

「いえ、今日は帰ります」


「ふふっ、そうだよね。ところで駅までの道分かる?何となく歩いて来てしまったから」

「実言うと分からないです」

「じゃあ、駅まで送って行ってあげる。帰りはバスで帰って来るから」

「でも…」

「いいの。行こう」


 瞳さんのお母さんに挨拶もせずに帰ってしまった。



「ごめんなさい。まさかあそこでお母さんが出て来るとは思わなかった」

「あははっ、俺も驚きました」

「今度きちんと紹介するね」

「え、ええ」


 瞳さんに駅まで送って貰った後、彼女がバスに乗るまで待ってから別れた。




 翌日、いつもの様に家を出ると詩織が玄関で待っていた。

「柚希おはよう」

「おはよう詩織」

「柚希、昨日の日曜も上坂先輩とデートした?私の友達が映画館の入口で見たって言っていたけど」

「ああ、瞳さんとは映画を見に行っている」

「そうかあ、でも今度はクラスネットにも校内ネットにも上がっていないから、やっぱりあれは偶々の偶然だったのかな」

「そう思いたいよ」



 途中で亮が合流し、梨音も合流した。学校の最寄り駅を降りて学校に向いながら

「亮、詩織、俺これから月、水、金は瞳さんと昼一緒に食べる事になった。その日は下校も一緒だ」

「おーっ、凄い進展だな。おめでとう柚希、ついに学校でもお披露目か」

 亮には先に言ってあるので、上手く合わせてくれた。


「ふーん、良かったじゃない。覚悟出来たんだ」

「まあ、するしかないかなと」



 梨音が驚いた顔で

「柚希、どういう事?」

「梨音、俺と瞳さん先週から恋人として付き合う事にした。だから昼食と下校も一緒にする」

「…………」


 なんて事なの。上坂先輩とは友達と言っていた。だから私と柚希との関係は無理なく進めればいずれ元通りになると思っていたのに。

 それなのに柚希があの先輩と付き合う事にしたなんて。でも諦めない。その為に一人で帰国したんだ。



 梨音が思い切り悲しそうな顔をしているけど仕方ない。いずれ分かる事だし、これがきっかけで他の人を好きになってくれるなら良い事だ。




 そして昼休み。

「柚希」


 瞳さんが教室の入口から入って来た。手にはお弁当箱が入っているのか大きな紙袋を持っている。


「一緒に食べよ」

「はい、瞳さん行きましょうか」


 

「ねえ、今山神君も上坂先輩の事名前呼びしたよね」

「うん、聞いた。それにお昼一緒に食べるって事も。もしかしてあの二人本当は付き合っているの?」

「友達で付き合っているって言っていたけど、なんか違うよね」

「そうそう。もしかして本当は恋人同士!」

「「きゃーっ!」」



 背中に聞こえる雑音を無視して俺達は校舎裏の花壇の前にあるベンチに向かった。俺達が行くとなんと先客が居たのだ。

「どうしようか?」

「屋上に行きますか」

 この学校は放課後までは屋上を開放してくれている。


 もう一度校舎の中に入り四階分を上がると屋上に着いた。既に何組かのカップルや女の子同士で食べている。

「二人だけになりたかったけど、仕方ないわね。食べましょう」

「はい」


 なるべく周りに人がいない所に行って座ると瞳さんがお弁当を入れてある紙袋を開けた。大きな弁当箱が俺で、小さい弁当箱が彼女の様だ。水のボトルも入っている。

 大きな方の弁当箱を開けると


「おーっ、凄い」

 定番鶏唐揚げ、出汁卵焼き、茄子の煮物、蛸さんウィンナーそれに焼き鮭が入っている。ご飯は海苔で覆われている。


「気に入ってくれた?」

「はい」

食べてみるとどれも美味し。


「瞳さんどれもとっても美味しいです」

「ふふっ、作った甲斐があるわ」


 二人で食べているととても視線を感じる。ちらりと周りを見ると屋上で食べている人のほとんどが俺達を見ていた。何かひそひそ話をしている人達もいる。


「柚希気にしないで食べよ」

「はい」



瞳さんは食べながら

「柚希、好きな物、嫌いな物教えて」

「嫌いなものは特にありません。好きな物は、うーん。瞳さんが作ってくれたお弁当」

「ふふふっ、それじゃあ、答えにならない。下校の時までに考えておいて」

「もぐもぐもぐ(分かりました)」



 食べ終わると

「柚希、帰りは下駄箱で待っている。それとも教室まで迎えに行く?」

「下駄箱にしましょう」

 本当は下駄箱でも相当目立つけど、教室から一緒に廊下を歩くよりいいだろう。この時はそう思っていた。



 授業が終わり下校時間になると

「亮悪い、先返るな」

「ああ、先輩待たせる訳に行かないからな」


 梨音が少し悲しそうな顔をしているが、知った事ではない。急いで下駄箱に行くと既に瞳さんは来ていた…のは良かったが、待っている場所が一年生の下駄箱の所だ。

 俺が下駄箱に行くと


「柚希ー!」


 うえっ、いきなり大きな声で呼んで俺の傍に来た。周りの生徒が一斉に俺達を見ている。失敗した。せめて校門にしておけばよかった。これじゃあ、学校を出るまで全校生徒の目に晒されることになる。


「柚希、早く帰ろ」

「は、はい」


 俺が靴を履き替えて歩き始めると直ぐに手を繋いで来た。

「瞳さん、これは」

「良いじゃない。恋人同士なんだから」


「「「恋人同士―――っ!」」」


 あーあ、静かだった池に大石を投げ込んだよ瞳さん。



 手を繋ぎながらグラウンドに出て坂の上の所まで来るまでに運動部や下校中の生徒の注目の的になってしまった。

 特に男子からの視線が凄い。ほとんだが俺に対する妬み、嫉妬の塊だ。


「ふふっ、柚希、みんなその内馴れるわよ」

「慣れるわよって言われても」


 覚悟していたとはいえ、完全に俺の平穏な日常と高校生活は終わった。また喜多神社にお参りしよう。


―――――


 柚希、覚悟が足りないのでは!しかし瞳さん積極的ですね。


次回をお楽しみに

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面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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