第12話 これはデートかデートでないか?
上坂先輩と上映場所から出ながら
「柚希、とても良かったわね。ちょっと涙が出そうになったわ」
「そうですね。俺も良かったです」
「ふふっ、嬉しいな柚希と同じ映画見てそう思えるなんて」
「そうですか」
入口まで行こうとした所で前から来た男の人と先輩がぶつかりそうになった時、俺は直ぐに先輩の肩に手を置いて自分の方に引き付けた。
ぶつからずに済んだが、何故か先輩が赤い顔して下を向いている。
「ゆ、柚希積極的ね。…いいんだけど」
「えっ、あっ」
俺は急いで先輩の肩から手を離すと
「済みません。先輩が前から来た人とぶつかりそうになったので」
「…そうだったの」
映画で気持ちが高ぶって肩を抱かれたのかと思った。でも凄くドキドキしている。前から人が来たとはいえ、いきなり肩を抱いて引き寄せるなんて…こういうの慣れているのかな?そんな雰囲気無いんだけど。
「柚希、お腹空かない。丁度午後十二時過ぎたところ」
「そうですね。食べましょうか。どこ行きます」
高一の俺は母さんから貰っている小遣いは薄給だ。バイトもしていない出来れば安い所に行きたい。でもいきなり安い所行こうなんて言ったら失礼かな。
「柚希、〇ックでもいいよ。行こうか」
「あっ、良いですね」
さっきの映画代それなりに掛かっているし、ここは安い所を選んであげないと。結構顔に出る子。分かり易くていいかも。でも〇ックって久しぶりだな。
映画館のある所から〇ックまで待合せた改札を左に見て通り過ぎると直ぐ左手にある。早速中に入ると
「うわーっ、混んでるわ」
「仕方ないですよ。時間が時間だから」
店内には学生やサラリーマン、OLの姿で一杯だった。
「先輩、何食べます。俺買いますから場所先に取っておいて下さい」
「じゃあ、お願いね」
と言って、千円札を二枚渡してくれた。
「割り勘にしましょう」
「いいの、ご馳走させて。席に見つけに行く」
俺にお金を渡すとサッと席を探しに行ってしまった。
先輩はベジタブルバーガーとシェイク。俺は肉が二重に入っている奴とポテトそれにコークのLを頼んだ。
カウンターで買って席を見渡すと奥の二人席で先輩が手を振っている。
「お待ちどう様です。結構時間かかっちゃいましたね」
「仕方ないよ。さっ食べようか」
先輩と学校の事とか普段休みの日はなにしているとか話していると、待ち時間もあった所為か、いつの間にか午後二時近くになってしまった。
「あっ、先輩こんな時間です。大丈夫ですか?」
「何が大丈夫なの?」
「何がって、何か用事あるんじゃ」
「有るわよ。君と一緒に居る事。この後買いたい物あるんだ。付き合って。それとも柚希が何か用事あるの?」
「いえ、今日は先輩の為に開けて有りますから」
「ふふっ、そうかぁ。私の為に開けてくれているんだ。じゃあずっと一緒に居ようか」
「…………」
俺は先輩に連れられて、通りを挟んで反対側にあるデパートにやって来た。ここは俺が買える様な洋服は置いていない。反対側のビルに入っている。〇〇クロが精一杯だ。
先輩が何店舗か見て回っている。流石に一緒に入れとは言って来ないので助かった…と思ったら
「柚希ちょっと来て。どの洋服が似合うか見て欲しい」
「見て欲しいって言われても…」
「いいから」
手を引いて連れて来られた所は…。試着室。目の前で衣擦れの音がしている。この中で先輩が着替えているのかと思うとちょっと変な想像をしてしまう。いかん。
いきなりカーテンが開いた。
「どうかな」
先輩は新しいブラウスとその上に薄いベージュのジャケットを着ていた。
「とても似合っています」
お世辞でなく似合っている。
「じゃあ、ちょっと待って」
今度は、ジャケットとスカートが青色でジャケットに大きなボタンが付いている。スカートは膝上丈だ。この人何でも着こなせるみたいだ。
「どうかな。どっちがいい」
「両方ともいいです」
「どっちか選んで」
「じゃあ、こっち」
「分かった」
先輩が会計の所に行った。遠目で見ていると諭吉さんを何枚か払っていた。先輩ってお金持ちなのかな?
先輩がお店の入口と言ってもフロアの歩行エリアとお店の仕切りの間だけど、そこでお店の人からお店のロゴが入った大きな袋を手渡されると
「柚希、行こうか」
俺は、先輩が持っている袋を見て
「俺持ちますよ」
「ふふっ、ありがとう」
彼がこうしてくれることが嬉しかった。
映画見て昼食を一緒に食べて買い物も付き合って貰った。彼とはもう少し一緒に居たい。何故そんな気持ちになるのか分からないけど、何故か心が落ち着くというか、このまま別れて帰っても物足りなく感じる気がする。今日が初めて二人で会った日なのに。
「柚希、もう少し一緒にいれないかな?」
「良いですよ。俺で良ければ」
「そういう言い方しない」
そんな事言われても。俺も何となく別れたくないけど、もう用事が無いなら仕方ないと思っていた。
「どうしようか、公園でも行く?それとも私の家に来る?」
「い、いやいや。冗談は止めて下さい」
「なんで?私達友達でしょ」
「そんな事言われても…」
冗談じゃない。上坂先輩の家に行くなんてとんでもない。心の中で不安という気持ちがモアモアと出て来た。
「私は構わないけど。今度にしようか」
「そうですね」
俺達は、上坂先輩と一緒にもう少し他のフロアも見て回る事にした。特に用がある訳でもないが、まだ午後四時。別れるにはちょっと早い気がした。慣れているならもう少し色々話せるのだろうけど。
私、神崎梨音。帰国してまだ二週間しか経っていない。帰国する時、洋服は一通り持って来たが、中学生の時の服だけだ。
だから今日は高校生らしい季節に合った服を買おうと思い午後からデパートに来ていた。
いくつかのお店を回った時、柚希が綺麗な女性と歩いているのを見た。彼の手には明らかに女性の洋服が入っていると分かる大きな紙袋。
二人で楽しそうに会話しながら歩いている。良く見ると女性は高校の上坂先輩。
もしかして、半年しか離れていない間に柚希はもう彼女を作ったの?たった半年なのに。上坂先輩とは付き合っていないって言っていたけど学祭の代休日に二人でデートなんて、付き合っているじゃない。
たった半年、高校に入ってまだ半年しか経っていないのに。なんで…。
二人で七階の催し物展示場から一階までのんびりと回った。買い物が終わってからだいぶ経った気がしたのでスマホで時間を確認すると
「先輩、もう午後五時半です」
「柚希、私と居たく無いの?」
「そんな事無いですけど。先輩女性だし…」
「ふふっ、そんな心配してくれているんだ。じゃあ家まで送ってくれる?」
「えっとそれは…」
流石にこれは無理か。私も家まで送って貰うのはまだ抵抗がある。
「冗談よ。それとー。ねえ二人で居る時位先輩は止めて、瞳って呼んでよ」
「いやそれはちょっと…。付き合っているならともかく、友達なんですから」
「いいじゃない友達だって。ねえ柚希、呼んで」
「でも…。じゃあ上坂さんで」
「それ意味ないでしょ。瞳」
「えーっと、瞳…さん」
「ふふっ、仕方ないな。今はそれでいいわ。じゃあ帰ろうか」
「はい」
俺達は駅の改札に入って、同じホームに上がった。電車を待っている間、遠くに山々が綺麗に見えて夕日が綺麗だ。チラッと先輩の方を見ると夕日を見ている顔がとても綺麗に見えた。腰まである髪の毛が流れる様に輝いている。
こちらを見ると
「ねえ柚希、また会ってくれる」
「いいですよ」
先輩の顔が少しだけ赤くなって見えたのは夕日の所為かな?
同じホームに柚希と上坂先輩が立っている。大分離れた位置だけど良く見える。とても親しそうに夕日を見ている。
本当は私があの位置に立っているはずなのに…。
―――――
何も無く終わるはずだった柚希と瞳のデート。でもその姿を梨音に見られてしまいました。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます