【声劇台本】俺のタピオカミルクティーどこ!?

かがみ透

俺のタピオカミルクティーどこ!?

<CAST>

生徒会会長:ぽっちゃりで真面目

副会長女子:クールビューティー系

副会長男子:軽音部でチャラい

書記女子:副会長男子が好き。メガネ女子

書記男子:普通

会計女子:しっかりしてる

会計男子:「……ッス」が口癖

教師:適当

本来の会長:超チャラい

ナレーション:


<台本>


   *生徒会室前の廊下


副会長男子:

「ウーッス!」


会長:

「おう」


(*廊下を歩いてきた二人が出会う)

(*生徒会室のドアを開ける。横開き)


   *生徒会室


ナレーション:

 茶髪の軽音部男子は椅子にかけて足を組み、かついできたエレキギターを早速構え、弾き始める。アンプを通さないカスカスとした音だけが鳴る。

 副会長の一人だった。


 もう一人は会長だ。さらっとした七三分けの黒髪にメガネのインテリ風だが、体型的にはぽっちゃりしていて貫禄かんろくがあるなどと言われたこともある。


 そのうち、書記の男子と女子、会計男子・女子がそろい、最後に副会長女子が来た。


会長:

「書記さん、新入生歓迎会のプログラムに載せる各部活の原稿はもうそろってる? 後で原稿を先生に渡して査読さどくしてもらうから」


書記女子:

「はい、会長。スイーツ部のがまだ出てません」


副会長男子:(ウキウキ)

「だったら今、俺がもらってくるよ」


(*ギターを置いて立ち上がる)

(*部屋から出て廊下を歩いていく)


書記男子:(ニマニマ笑う)

「副会長って、スイーツ部にお目当ての女子がいるってウワサですよね」


会計男子:(ニマニマ)

「そうッスね」


書記女子:(ムッとする)


会長:(書類を取り出す)

「僕の挨拶あいさつ文だけど、入学式と新入生歓迎会の分、あいつ戻ってくるまでの時間、みんなに査読さどくしてもらおうかな」


ナレーション:

 残りの五人で書類を回し読みし終えた頃に、副会長が戻ってきた。


副会長女子:(表情を変えずに)

随分ずいぶん遅かったわね」


副会長男子:

「部長が忘れてたみたいで、その場で書いてもらったからさ。ついでにクッキーもらったから、みんなで食べようぜ!」


(ビニール袋の口を開き、机に置く)


副会長女子:

「それなら休憩にしましょ」


ナレーション:

 副会長女子の言葉に、後輩たちが紙ナプキン、紅茶やコーヒー、カフェラテ等のスティックと、スティックシュガーやポーションタイプのミルクとガムシロップをテーブルに用意する。


殺風景な生徒会室も、少しはくつろげるような雰囲気になった。


 それぞれのマイマグカップに、好きな飲み物を作っていく。


 茶髪の副会長男子が、冷蔵庫を開けた時だった。


副会長男子:

「俺のタピオカミルクティーどこ!?」


会長:

「あのいつもコンビニで買ってるヤツか」


副会長男子:

「会長、どこにあるか知ってる!?」


会長:

「いや」


副会長男子:(頭をかかえる)

「ああ、ここであれを飲むのが俺の習慣だったのに!

(ダラーっと)あれがないとやる気が起きない」


ナレーション:

 ガックリと肩を落とし、いつもツンツン立っている茶髪も心なしか下がり気味だ。


会長:

「いつ冷蔵庫に入れた? さっき僕と一緒に来た時は持ってなかったよな?」


副会長男子:

「いつも朝コンビニで買ってここの冷蔵庫に入れてから教室に行くから、今日もそうしたよ」


副会長女子:(腕を組み、副会長女子が冷静に)

「買ったつもりになって、今日は買ってなかったとか?」


副会長男子:

「そんなことないって! 絶対買った!」


副会長女子:

「レシートは?」


副会長男子:

「いつもレジのとこの『いらないレシートはこちらに』ってとこに突っ込んでるから……」


副会長女子:

「じゃあ、本当に買ったかどうかわからないわね」


会長:

「朝来る時に一緒だったヤツとかいる?」


副会長男子:

「いないけど……」


副会長女子:

「だったら、今日あなたがタピオカミルクティーを持って歩いているところを見た人はいないってことね?」


ナレーション:

 副会長と会長の質問に答えていく副会長男子を、残りの四人は静かにながめている。


副会長男子:

「そういえば、コンビニで見かけたの思い出した。な? 書記ちゃん」


(書記の後輩女子を、救いの目で見る)


書記女子:(ハッとする)


副会長男子:

「俺がタピオカミルクティー買ってたの見たんじゃね?」


会長:

「どう? 書記さん、覚えてる?」


書記女子:

「あ……、は、はい」


副会長男子:

「なぁ〜んだ! やっぱそうだったかぁ! 早く証言しょうげんしてくれれば良かったのに!」


書記女子:

「だって、先輩が……そのタピオカミルクティーをコンビニ出たところでスイーツ部の部長にあげてて……いつもあの人とタピッてたんでしょ!?」


副会長男子:

「えっ! なっ、なに言って……!?」


(*書記女子は立ち上がり、つかつかと茶髪副会長の前にまで歩いていく)


書記女子:

「私だって一緒にタピりたかったのに! だったら、なんでバレンタインにチョコ受け取ってくれたんですか!? 一緒にタピる気もないなら、その場でそう言って断ってくれれば良かったのにぃ!」


ナレーション:

 突然の修羅場しゅらばに、周りは目を泳がせる。

 会長と女子の副会長は目を丸くしながらも、冷静に見守っている。


副会長男子:

「そ、そっか、スイーツ部部長にあげたんだったっけ? は、はは、今思い出したわ。後でクッキー差し入れするから、代わりにくれって言われたんだった。


書記ちゃんと一緒にタピるのくらい全然OKだよ! チョコの返事はホワイトデーにするつもりだったんだ。今度一緒にタピろうって」


書記女子:

「え……! せ、先輩……!」

(顔を両手で覆う)


会長:(ふっと口の端を上げて微笑む)

「リア充成立か」


副会長男子:

さわいですんませんでした!」


(頭を下げる)


書記男子:

「いやいや、尊いもの見させてもらいましたよ!」


会計男子:

「おめでとうッス!」


会計女子:

「良かったね! 書記ちゃん!」

(肩をポン)


書記女子:(はにかむ。小さい声で)

「ありがとうございます」


副会長女子:(クールに)

「その場しのぎでつい返事しちゃったんじゃなきゃいいけどね」


副会長男子:(慌てる)

「な、何言ってんだよ、副会長ちゃん。そんなことないって!」


副会長女子:(ふっと笑う)


会計女子:

「じゃあ、お茶の続き続き! ほら、書記ちゃんはセンパイのお隣にどうぞ!」


ナレーション:

 会計女子が二人を隣同士に強引に座らせた。


書記男子・会計男子:

「ひゅー、ひゅー!」

(*拍手とか口笛)


ナレーション:

 そして、全員がそれぞれ椅子に腰かけ、紅茶やコーヒーを飲み始めた時だった。


会計男子:

「あれ? ……オレのナタデココがない。

朝コンビニで買っておいたナタデココがないッス!」


副会長女子:(冷静に)

「本当に買ったの?」


会計男子:

「間違いないッスよ! レシートちゃんとありますし!」


会長:(冷静に)

「ああ、さすが、会計だな」


(皆を見回して)

「誰か知らないか? 副会長、お前がさっきタピオカミルクティーを出そうと冷蔵庫を見た時は、どうだったんだ?」


副会長男子:

「ナタデココなんか、なかったよ」


会計男子:

「ええ〜! 朝ちゃんとここに入れたのに!」


書記男子:(意外そうに)

「会計、お前、ナタデココなんて食うんだ?」


会計男子:

「最近はッス。あれ食うと通じいいから」


会長:

「……まあ、大事だな」


ナレーション:

 どんな時も、会長は冷静に受け止めている。


副会長女子:(腕組みをして見回す)

「この生徒会室に一番に来たのは誰?」


副会長男子:

「俺と会長だよ。……って、まさか、俺たちをうたがってるの!? 俺たちはここに来てから冷蔵庫を開けたのは、ついさっきだぜ? それまでは開けてないよ! な? 会長」


会長:(うなずく)

「ああ」


副会長女子:

「それまで誰も開けてないのだとすると……、朝、ここに来て冷蔵庫を開けた人ってことになるわね」


会計男子:

「いつも朝は先生が鍵を開けてくれるんス。もしかしたら……」


会長:

「生徒会担当の先生に聞いてみるか」


   *職員室前


教師:

「生徒会室の冷蔵庫にあったナタデココ?」


ナレーション:

 男性教員は、職員室の入口で会長と会計男子に呼び出されていた。


会長:

「先生、ご存知ではありませんか?」


教師:

「ああ、あれか! 先生、朝から何も食べてなくてな、フルーツゼリーだと思ってちょっと失敬しっけいしたら、なんか固いの入ってて、なんだこりゃってなってな。

あんま好きじゃないやって思ったけど、なんとか食べたわ」


会計男子:

「えー! ひどいッスよー! あれ俺のナタデココだったのにー!」


教師:

「ああ、ごめんごめん! 買って返すから!」


ナレーション:

 そこへ、早歩きでやってきた会計女子が加わった。


会計女子:

「もしかして、生徒会室のカフェラテ、勝手に飲んだのも先生ですか? スティックが一本足りないんですけど」


教員:

「あっ、バレちゃった?」(笑う)


会計女子:

「もー、ダメって言ってるじゃないですか。あれだって生徒会の予算で買ってるんですから。会計はちゃんとチェックしてます」


教師:

「ああ、もう、ホントにごめん! 今度カフェラテ一箱差し入れするから!」


会計女子:

「お菓子も付けてくださいね♡」


教師:

「さすが、会計ちゃん! しっかりしてるね! いいよ、お菓子も付けるから!」


会計女子:

「わあ〜! ありがとうございます!」


   *生徒会室に向かう廊下


会計男子:

「まったく、人騒ひとさわがせな先生ッスね」


会計女子:(ホッとして)

「だよね! あの冷蔵庫に入れたものはどこかに消えてしまう仕掛けでもあるのかって、一瞬考えちゃったよ」


会長:

「まさか……!」


会計女子:

「え? どうしたんですか? 会長?」


(*早歩きの足音)


ナレーション:

 早歩きの会長の後に、会計の男女が続く。

 廊下は走ってはならない。

 生徒会はどんな時でも学校の規則を守るのだった。


(*ガラッと生徒会室の扉を横に開ける)


会長:

「僕の『』は無事か?」


(言うが早いか、冷蔵庫を開ける)


「……ない」


会計女子:

「ええっ!? 会長もですか!?」


書記男子:

「っていうか、会長、『』なんて食べるんですかっ!?」


会長:

「SNSで見て、昨日自分でひたすら牛乳を煮詰めて作った」


会計男子:

「自分で作ったんスか! すごいッスね!」


会長:

「冷蔵庫に何か入れた人は、今すぐ確認してくれ」


(ガタガタと音を立てて、皆、椅子から立ち上がる)

 

会計女子:

「私は入れてません」


書記女子:

「私、缶コーヒー入れてましたけど、さっき出して飲みました」


ナレーション:

 会計、書記の女子二人が答えた。


書記男子:

「僕のほうじ茶もあります」


ナレーション:

 書記男子がペットボトルのほうじ茶をかかげる。


会長:

「副会長さん、きみは大丈夫か? 冷蔵庫が今はカラだが、何か入れてなかったか?」


副会長女子:

「何も入れてないから大丈夫よ」


ナレーション:

 そう返した副会長は、相変わらず腕を組んで冷静な顔つきだ。


会計男子:

「先生に、『蘇』も食べてないかどうか確認してくるッス!」


(足早に出て行こうとする)


副会長女子:

「その必要はないわ」


会計男子:

「え?」


副会長女子:

「会長の『蘇』を食べたのは、この私よ」


全員:

「ええーーっ!」


ナレーション:

 その場は騒然そうぜんとなった。


     *体育館


書記男子役:

「こんな感じですが、どうですか、会長?」


ナレーション:

 新入生歓迎会に向けて、体育館でリハーサルをする演劇部のステージを見ていた生徒会長は、黒髪をかき上げ、メガネをクイッと持ち上げた。


本来の会長:

「別にいい〜んじゃね! ブラ〜ボ〜! 良かったよぉ〜!」

(拍手)


「俺の役がぽっちゃりさんなのがちょっと残念だから、代わりに俺がやった方が良くね?」


書記男子役:

「ダメですよ! んですから!」

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