第35話 #34
『あなたは今日、10歳の誕生日を迎えた。少しずつ大人になっているあなたの周りにはたくさんの人がいます。その人たちをとても大切にしてください。私ね、生まれてすぐのあなたを抱いた時に確信したんだ。この子の周りには人がいっぱい集まってくれるって。だからね、今のあなたをこの目で見ることは出来ないけど、私は自信を持ってそう言える。今、あなたの横にいるリッカのお父さん、小学校の友だち、先生。それに、習い事で一緒に過ごす友だち。私の勘だけど、リッカはバスケが好きだと思うなぁ。何てったってカケルくんの娘だしね。私、こう見えて勘は鋭い方なんだ』
「父さん! 母さん、すごい! 何で私がバスケが好きなの分かったの?」
「あぁ、この人は本当にすごいよ」
まるでこの未来が分かっているかのように、10年前の彼女はリッカの今を言い当てる。娘共々、目を丸くしながら僕は画面越しのチハルさんを見つめる。
『これからもあなたはたくさんの人と出会うと思います。学校を通して、好きなことを通して。友だちを通して。大人になっていくにつれて、どんどん増えていく自分と関わる人たちをどうか大切にして下さい。人は決して1人では生きていくことは出来ません。誰かを支え、誰かに支えられて生きていきます。時には友だちに迷惑をかけることもあるかもしれない。そんな時は精一杯その友だちに感謝の気持ちを忘れずに迷惑をかけて下さい。本当の友だちならきっと受け入れてくれるはず。だから、友だちに迷惑をかけられることがあってもあなたもそれを許してあげて下さい。あなたなら大丈夫。暖かい心で周りの人たちを大切にしてください。もちろん、父さんのこともね』
しししと笑う彼女の笑顔。昔から変わらない僕の心の拠り所。つられて僕も笑い、リッカにもその笑顔がうつった。リッカの笑顔はやっぱり彼女に似ている。
『じゃあ言いたいことの2つ目。今、リッカには好きな人がいますか? もしいるのなら、とても素晴らしいことです。その人を今言ったみたいに大切にしてく下さい。とっても大切にして下さい。もし、いなかったらこれから出会う人たちの中から絶対に見つけて下さい。好きっていう気持ちが分からなかったら、父さんに聞いてみて下さい。きっと教えてくれると思います』
彼女の無茶振りに驚きを隠しながら僕はリッカと目を合わせる。リッカは不思議そうな顔で僕を見つめる。
『私はね、その好きな人のおかげで今もこうして生きてる。顔がカッコいい人とか、優しい人、面白い人、お金持ちの人なんかはこの世界に意外といっぱいいます。素敵なあなただから、周りには色んな男の人が現れると思う。その中からこの人! って思う人を見つけるのは確かに難しいかもしれない。けどね、本当にこの人! って思った人が現れた時は、頭よりも先に心が反応する。一度その人を見ただけで、まるで自分の中のスイッチが押されたようにドクンと心臓が動くの。運命の出会いって言うと笑われるかもしれないけど、私は本当に運命の出会いはあると信じてる。現に、私とあなたのお父さんは運命のようにある日突然出会ったの。そこで私はすぐに恋に落ちた。ドラマやアニメみたいな話に聞こえるかもしれないけど、あなたも運命の出会いを信じてほしい。そうすれば、きっと素敵な人に出会えるはず。これからも色んな人と出会っていくなかでそんな人を見つけてください。欲を言えば、母さんと父さんみたいにいつかその素敵な人と一緒に人生を歩いてほしいです』
何だか私の方が恥ずかしくなってきちゃったと、顔を赤くしながらチハルさんが笑う。照れ隠しをする時に、瞬きの回数がやたら増えているのは初めて会った頃から変わっていない。僕はそんな彼女を愛でるようにじっと見つめる。
『リッカの好きなタイプ、正直すっごく気になる! もし、いつかあなたと一緒に過ごせる時間があったら、美味しいココアでも飲みながらこっそり教えてほしいな。カケルくんには聞こえない場所で。けど、私の娘だから私のタイプと似てるかもしれないね。むしろ、初恋の相手は父さんだったりして? そうなったら1人の男を取り合うライバルになっちゃうかもね』
未来を思い描くように頷きながら笑って話す彼女。そんな彼女を見ていると、今すぐにでも画面の向こう側に行って彼女を強く抱きしめたくなる。
『とまぁ、少しユーモアも言っちゃったけど。あ、ユーモアって分かるかな? もし分かんなかったら父さん、それも教えてあげてね。じゃあ、私が伝えたいことの最後の1つ。それは』
彼女が人差し指を1本立てて僕らの方を見つめる。僕もリッカも彼女の言葉を聞き逃さないようにじっと画面越しの彼女を見つめる。その時だった。
ピンポーン。ふと誰かが家のドアのインターホンを鳴らした。僕の意識はそっちの方へ気を取られインターホン越しに見える映像を確認しに行く。サプライズの助っ人がこの絶妙なタイミングで来てくれたようで、そこにはハルカさんと娘のチナツちゃん、そしてダイキ、あと2人の間にも生まれた子のツクシちゃんがチナツちゃんと手を繋いで立っていた。ずいぶん見ない間にチナツちゃんも素敵な女性になっていた。僕は急いで玄関へ向かいドアを開けた。
「カケル! 久々だな!」
「カケルくん! 半年ぶりくらいかな? ウチの娘もデカくなったでしょ!」
「カケルおじさんこんばんは」
「こんばんは! カケルくんおじさん!」
4人の中で誰よりも目を輝かせて特徴的な呼び方で僕を呼ぶのが2人の子どもであるツクシちゃんだ。歳はリッカの3つほど下だったろうから大体7歳くらいだろうか。元気すぎるほどはしゃぐツクシちゃんは、見ているだけでこちらも元気をお裾分けしてもらえそうなほどに僕の家に上がってはそこら中を走り回っている。
「こんばんは、みんな。ホントに久々だね。ツクシちゃんもチナツちゃんも大きくなったね」
「ツクシちゃん、こんばんは!」
リッカが目を光らせならツクシちゃんの方を見て言った。
「リッカちゃあん! こんばんはあ! おたんじょおび、おめでとお!」
ツクシちゃんは、ハルカさんの持っているバッグからプレゼントラッピングされた15センチくらいの細長い紙袋を受け取りそれをリッカに渡した。
「ありがとう! ツクシちゃん! プレゼント、開けてもいい?」
「あけてあけてー!」
リッカは紙袋を破らないように丁寧にそれを開けた。すると、中から僕のプレゼントしたキャラクターと同じ、抱きマクラクマがデザインされたシャーペンが入っていた。
「えー! 抱きマクラクマだ! 嬉しい! もらっていいの?」
「うん!リッカちゃんはこのクマさんがすきだから!」
「ありがとう! ツクシちゃん!」
リッカは本当に喜んでいるようで、ツクシちゃんにそれこそ抱き枕のようにぎゅっと抱きついた。ツクシちゃんも嬉しそうな顔でリッカに応えていた。
「フフ! リッカちゃん! 10歳の誕生日おめでとう! ちょっぴり私たち大人に近づいたね!」
「リッカ、おめでとう! 前に見た時よりも可愛くなったぞ!」
ハルカさんとダイキも2人らしい言葉でリッカを祝ってくれた。
「みんな、来てくれてありがとう。ちょうど今、チハルさんからの10年前のビデオレター見てたんだ」
「マジで? それ、私も見たかったんだけど! 最初から見せてよ!」
「ホントだぞ! オレたちが来てから流せよな! カケル!」
「はは、ごめん。何かもう我慢出来なくって」
「でも、ちゃんと10年間見なかったってところはカケルおじさん、流石だね」
チナツちゃんはダイキやハルカさんよりもずっと落ち着いている。鼻や口の形がハルカさんにそっくりになった。
「カケルはいつでも約束を守るやつだからな」
「フフ、じゃあリッカに聞いてみようか。リッカ、ハルカさんとダイキおじさんとチナツちゃんとツクシちゃんも母さんのビデオが見たいって言ってるんだ。もう1回最初から見てもいい?」
「うん! 何回でもいいよ! 何回も母さん見たいし!」
「あーもう、リッカちゃんいい子すぎっ! 私、大好きだ、リッカちゃんのこと!」
「私も好きだよ! ハルカおばさん!」
リッカの言葉に片方の眉毛がピクッと上がったハルカさんに気づいたのか、リッカはすぐに「ハルカお姉さん!」と訂正していた。
「すげえなリッカ。10歳で気も遣えんだな」
「うん、おれなんかよりだいぶしっかりしてると思うよ。まぁ、ハルカさんの怖さは誰もが気づくのかもしれないけどね」
明らかに含みのある笑顔を僕に向けるハルカさんを横目に、僕は気づいていないフリをして映像を最初に戻した。視線が一気に映像に映るチハルさんに集まる。ツクシちゃんは体育の授業中みたいに足を組んで座り、その後ろからリッカが毛布のように覆い被さって画面を見つめている。その微笑ましい画を見つめながら僕もチハルさんを見つめる。さっきも聞いた言葉なのに、それを聞いた僕はやっぱり感情が動いて体が熱くなる。動画が進んでいくうちにハルカさんも指で目を押さえる回数が増え、ダイキはハルカさんにハンカチを渡していた。ツクシちゃんは小さい口をあんぐりと開けながら画面を眺めている。チナツちゃんは何も言わずに画面をじっと見つめている。そして、彼女が伝えたい最後の1つのところまで映像が再び辿り着く。
『じょあ、私が伝えたいことの最後の1つは』
チハルさんはそう言うと、ひとつ深く息を吸って笑った。
『後悔することなく真っ直ぐに生きてください』
言い切ったチハルさんの目が潤んでいる。僕の目もそれに呼応するように滲んだ。僕は何回も何回も、この映像に映るチハルさんに感情を激しく動かされる。そして会いたくなる。
『これからリッカの目の前には、さっきも言ったように色んな人が現れる。それと同時に、色んな道があなたの前に現れる。左の道に行きたいと思うこともあれば、時間が経つと右の道にも行きたくなる。はたまた真っ直ぐ進むとどんな道があるのかも気になるかもしれない。特に、高校に進学する時、もしくは大学に進学、大人になって働く会社を選ぶ時にそういう道があなたの前に現れるはず。そんな時はどうか、自分が一番行きたい道に進んでください。もしも途中で戻りたくなっても、それはそれで1つの選択。間違いじゃない。あなたの人生はこれからいくらでも挑戦することが出来る。最後に辿り着くゴールであなたが心から笑っていてほしい。前に進むことがあれば、立ち止まったり後ろに下がってもいい。その行動に後悔が無ければ私はとても素敵だと思います。どうか、私の分まであなたの人生を精一杯生きてください。一番近い場所からあなたを見守っています。あなたをいつまでも愛しています』
涙を流しながらチハルさんは満面の笑みで画面に映っている。10歳のリッカにもその声は届いているようで、リッカも彼女と同じように大粒の涙を流している。そして僕も同じように涙が流れている。
『ふふ、結局話したいこと、言いすぎちゃった。最後まで聞いていてくれたら私はとっても嬉しいです。多分、カケルくんは私につられて今泣いていると思います。私、勘は良い方だからさ』
彼女が再び微笑む。微笑むという表現が一番似合うくらい穏やかな表情で笑っている。
『あ、あとハルカとダイキくんにもよろしくお伝えください。君たちと過ごした時間も私にとって大切な宝物になっています。いつかみんなも私がこれから行く世界に来てくれたら、また4人でお酒でも飲みましょう。その時はまた、ハルカスペシャルが飲みたいな。私はみんなのおかげでとても幸せでした。これからあっちの世界に旅立つということで、これまでは心に重くのしかかっていた怖さみたいなものが綺麗に無くなりました。心なしか体もとっても軽くなった気がするし、今はとっても心強い。それに何より、カケルくんとリッカにも伝えたいことを伝えられたと思うので私はもう何も思い残すことはありません!』
チハルさんは言葉を伝えてくれるたびに鼻をすすり、両手から流れ出ている涙を指で拭って穏やかな笑顔でカメラに映っている。
『これで本当におしまいです。カケルくん、リッカ。私と家族でいてくれてありがとう。ハルカ、ダイキくん。私と親友でいてくれてありがとう。チナツちゃん、こんな私にいつも笑顔を見せてくれてありがとう。優子さん、トシユキさん、私の親代わりでいてくれてありがとう。ミク。妹みたいな存在でいてくれてありがとう。みんな本当に今までありがとう。また会おうね』
再生時間を見ると15分くらいのものだったけれど、僕にはそれが1時間にも2時間にも思えるぐらい感じた。動画が終わり、DVDプレーヤーのメーカーのロゴがくるくると回る画面で僕らはしばらく何も動けず、何も言葉を出すこともなく、ただそれぞれがそれぞれの涙を流していることだけが分かった。チナツちゃんは声を我慢するように静かに鼻をすすって涙を流している。その横でツクシちゃんがリッカを慰めるように顔にハンカチを添えている光景が目に入って僕は余計に涙が溢れた。すると、毛布のように暖かく、安心感のあるダイキの腕が僕の肩を包み込むように乗った。
「チハルはさ、ちゃんと生きてるよ。オレたちの中で。カケル、お前の心の中にもな。だからさ、これからもオレたちがチハルの分まで精一杯生きてやろうぜ! 世界一可愛い子どもたちも目の前にいるしな!」
「……そうだね。ビデオに映るチハルさんを見て改めて思ったよ。おれは誰よりも幸せな時間を過ごしているって。もちろんダイキもハルカさんもいてくれてるおかげでね。リッカだっているし、チナツちゃんもツクシちゃんもいる。外に出れば優子さんやトシユキさん、ミクちゃんに辻さんだっている。おれの周りにはたくさんの人がいる」
「2人ともセリフがクサすぎるよ! もっとラフな感じで言わないと暑苦しいしチハルにも笑われるよ」
そう言って手を叩いて笑うハルカさんを真似するようにリッカとツクシちゃんも手を叩いて笑っている。僕にはこの光景が何だか夢のように思えた。
「父さん、今からピザ頼もうよ!」
リッカが目を光らせながらそう言って駆け寄ってきた。
「ピ、ピザ!? いいけどこの時間に配達してもらえるかな? てか、リッカお腹に入るのか?」
「カケルくん、『すなっく緋色』の近くにある居酒屋が夜中の3時まで営業してるから、そこならデリバリーも頼めるよ! 私も久々にそこのピザ、食べたいなーって思ってたんだ! リッカちゃん、ナイスチョイスだね!」
「カケルおじさん、私もお腹空いちゃった」
「あー、オレら今日夜メシ少なかったから腹減ってんだよな。カケル、ピザ頼んじゃっていいか?」
「パパ、ママ! アタシもピザたべるー!」
この部屋にいるみんなが、まるでチハルさんのようにキラキラと目を輝かせている。そんなみんなを見ていると、チハルさんが僕の隣で微笑んでくれているように思えた。そういえばチハルさんの好きな食べ物もピザだ。それはもちろんリッカも知っている。
「じゃあ久々に私もハルカスペシャル作っちゃおうか?」
「あ、おれも飲みたいって思ってた。ハルカさん」
「材料あんのか?」
「この家にはね、ちゃんとあるのよ! しかも、とびきり寝かせてあるワインもね! そうでしょ?カケルくん」
「はは。よくご存知で」
チハルさんがずっと住んでいたこの家の事情は、僕よりもハルカさんの方が圧倒的に知り尽くしている。僕はハルカさんに言われたワインと、冷凍庫に入っていた桃と林檎を用意した。
「いつかチハルと飲む約束をしてたワイン、今日開けさせてもらうね」
「うん、今日開けるならチハルさんも怒らないはず」
「なあ、どうせなら優子さんやミク、トシユキさんも誘わないか?」
そんな提案をするダイキの目から時計に視線を移す。仕事を終えている人なら、確実に眠っている時間だった。だが、今日の僕も普段より思いきりは良いようだ。ダイキに促されるままトシユキさんに電話をかけると、奇跡的に『すなっく緋色』に3人ともいるようで、すぐにこっちへ向かってくるとのことだった。
「なんか今日はさ、チハルがみんなを呼び寄せているみたいに全員が集まれそうだな」
「これはあれだね、もう1回さっきの映像流したら、3人とも泣いちゃいそうだよね」
「間違いない! けど、カケルくんもあれでしょ? そういう口実作ってもう1回最初から見たいんでしょ?」
「ち、違うよ! まぁ違わなくはないかもしれないけど、まぁともかくみんなで共有したいじゃんか、チハルさんの言葉をさ」
「リッカはもっかい最初から見たいー!」
「アタシもー! カケルくんおじさんー!」
「カケルおじさん、これはもう見る流れだよ」
「子どもたちの方がずっと素直だな!」
「ダイキうるさいよ」
優しい暖かさを感じる笑い声が耳に届きながら僕は照れ隠しをするようにキッチンへ向かって洗い終わっていた食器を再び準備する。僕は食器を並べたり、棚からグラスを取り出したりしながら、僕の人生を頭の中で振り返ってみた。10年経っても変わらないものがあるとするならば、間違いなく僕はこの人たちとの縁だと自信を持って言える。僕やリッカの周りにはこんなにも素敵な人たちがいる。そして、それはこれからもきっと続いていく。それだけは確信を持っている。そういう風に思えるのは、きっと彼女が側で見守ってくれているからだ。いつもありがとう、チハルさん。それから、おれたちのこと、これからも見守っててね。
「カケルくん! 聞いてる!?」
「え、な、何?」
「優子さんたち、もうすぐ着くって! メッセージ来た!」
「あ、うん。分かった!」
ピンポーン。ハルカさんに大きめの声で返事をした途端に、インターホンがこっちを見ろと言わんばかりに盛大に部屋に鳴り響いた。画面には、太い腕を組んで待ち構える優子さんと赤い薔薇の花束を抱えた黒色のスーツを着たトシユキさん、それに仕事姿でしか見ることのなかったミクちゃんが、今日は大きめのサイズのゆるいグレーのパーカーを着て立っていた。
『おーい! カケルー! リッカー! 開けてくれー!』
優子さんがインターホン越しで耳の鼓膜を破られそうなほど大きな声で僕らを呼んだ。僕は耳を押さえながら返答ボタンを押した。
『今から行きます……! 優子さん、声デカすぎ! 時間考えて!』
リビングのドアが開き、3人が入ってきた。それと同時に、3人とも体の後ろに持っていたクラッカーの紐を引っ張り、僕の耳はまた大きく衝撃を受けることになった。
「リッカぁー! 誕生日おめでとう!」
何も揃っていない3人の声がクラッカーよりも大きく部屋に響いた。それでもリッカはとても喜んでくれているようで、ありがとうー! と言いながら優子さんの足に抱きつきに行った。
「やっぱりリッカは私のことが一番好きなんだね!」
「優子は俺みたいなジジイから、こんなに小さい子どもまで幅広くモテんだな」
「リッカちゃん、誕生日おめでとう。これ、プレゼントね」
リッカはミクちゃんに渡された紙袋を開けた。すると、そこにはハルカさんがプレゼントしてくれた抱きマクラクマのシャーペンと同じものが入っていた。
「これ、さっきハルカお姉ちゃんからもらった!」
「え!? マジで? まさかの被っちゃったパターン?」
「あはは! ミク! やっぱり考えること、同じだね! やっぱり先にプレゼントしたもの言えば良かった?」
「ホントだよ……! リッカちゃん、ごめんね、同じプレゼントで」
「いいの! 私、全部嬉しいから!」
ミクちゃんの方を見て、まるで向日葵がそこに咲いたように明るい笑顔をリッカはミクちゃんへ向けた。僕はたまらなく愛しくなりリッカの頭を優しく撫でた。みんなの笑顔が咲く場所に、チハルさんのピンク色の髪から香っていたあの優しい薔薇の香りが、不意に僕の鼻をくすぐっていった気がした。香りがした方を振り返ると、そこにはテーブルの上で笑顔で写真に映るチハルさんが僕の方を見つめていた。僕は誰にも聞かれないくらい小さな声で彼女へ感謝の言葉をそっと伝えた。
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