魔法の本で『数字』を操れ!『数字の魔法使い』なったので、やりたい放題します😉

鉄弾

プロローグ 「後(のち)の世界で」

 航空自衛隊・百里ひゃくり基地。茨城県いばらきけん小美玉おみたまに位置する航空自衛隊の基地。民間の茨城空港も併設されている。ここは航空自衛隊・第7航空団の司令部があり、関東地方、首都・防空のかなめでもある。


 そんな百里基地で、今日は航空祭が行われている。全国から多くの人が集まる航空祭。ここ数年、来場者数が多い百里基地。その規模は数万人。

 航空祭では空自の航空機が多数参加する。地上で、空で、自衛隊機が間近に観ることができる数少ない機会だ。

 例年、百里基地の航空祭は秋ないし、冬の開催。しかし、今年は政治的な理由から5月後半の開催になっていた。


 今回の航空祭は警備が物々しい。航空自衛隊基地の警備にあたる基地警備隊に加えて、警視庁、茨城県警からSP、機動隊員など、多数の警察官が応援に来ていた。自衛隊と警察による二重の厳戒態勢だ。

 特に基地警備隊員は、20式5.56㎜小銃やMP7を装備して警戒に当たっているので、人々の注目を集めていた。今回、ここまで警備が厳しいのには、航空祭の来賓に関係していた。日本の防衛大臣とが来賓なのだ。


 航空祭に集まった人々にアナウンスが流れた。どうやら、今回の航空祭の主役が来たらしい。百里基地のみなみ方向ほうこうに人々の視線が集中する。


 皆、カメラ、スマホ、タブレットをに向ける。

 すると、ジェット音と共に航空機が百里基地へ迫ってきた。集まった人たちは口々くちぐちに、『キター!』、『来るよ!』と言って、その瞬間に備える。


 轟音と共に現れたのは、ここ百里基地・第3飛行隊所属のラファールJ-E(単座)とラファールJ-F(複座)だ。

 皆、一斉にシャッターを切る。瞬く間に観衆の上を駆け抜けた空自のラファール戦闘機。

 と、すぐに次のジェット音が聞こえてくる。人々はすぐさまカメラを空に向ける。

 なんと、次に現れたのもラファール戦闘機だった。しかし、それは空自のラファール戦闘機ではない。仏海軍空母『シャルル・ド・ゴール』から飛来した仏海軍・航空隊所属のラファール戦闘機だ。

 普段、日本の空では仏海軍・航空隊のラファール戦闘機。人々の興奮が最高潮に達する。


 仏海軍空母のシャルル・ド・ゴールは、海上自衛隊と米海軍との共同訓練参加のため、外房そとぼう付近へ来ていた。これに併せて、今回の百里基地・航空祭のスケジュールが組まれたのだ。

 特別席では防衛大臣とフランス・国防相が華麗に飛び去ったラファール戦闘機を指さして談笑している。

 二人のそばには、MP7を携えた警視庁SPや、完全武装の基地警備隊員が警護にあたる。二人以外にも空自、防衛省関係者が、仏軍や在日仏大使館員と雑談している。その様子を国内外のメディアや一般客が写真に収めていた。


 一般客の中には多数の軍事オタクもいる。彼らは口々に言っていた。「まさか、日本でラファール戦闘機を観る日が来るなんて・・・」、「20年前とかじゃあ、考えられないよな?」

 そんな彼らの話を聞きながら、上木かみき将与しょうよは、感慨深そうにラファール戦闘機を眺めていた。


 航空自衛隊が百里基地に配備しているのは、フランスから購入した輸出版最新型のラファール戦闘機。日本では、『ラファールJ-E(単座型)』、『ラファールJ-F(複座型)』の名で呼ばれている。

 現在の空自は仏製のラファール、米国製のF-35を主力に、F-15を含めて3種類の戦闘機で日本の空を守っている。


 俺のおかげでラファール戦闘機が観られるんだぞ。上木かみきは、そう思いながコーラが入った紙コップを片手に航空祭会場を歩く。

 航空祭会場では、空自の装備品展示、軽食の屋台が出ていた。そして、この会場内には、も紛れている。


 例えば、中国やロシアの工作員。それを監視する警視庁公安部と茨城県警・警備部の捜査員。おまけに、米国の工作員CIAまでいる。さらに極めつけは、使。そう、上木かみき将与しょうよのような魔法使いだ。


 軽食を販売する屋台に目を向ける上木。コーラに合う食べ物といえば何だろう?フランクフルト、焼きそば、ケバブサンド、フライドポテト。屋台のメニューに気を取られて、ふと足を止める上木。


 すると、上木の隣にロングヘアを一本縛りにした中年男性が現れた。サングラスをかけて、多少たしょうれはしているふう口髭くちひげ。オンライン通販で購入できる防衛省のゆるキャラ『クーちゃん』がプリントされたジャンパーを着て、年季の蒼のジーンズを穿いている。持ち物は肩掛けの黒いバッグのみ。

 一見いっけんすると風変わりな来場者だが、この男が上木の隣に来たのは無論、偶然ではない。

「部下の仕事を見に来たんですか?」

 上木はその男に話し掛ける。

「コーラには何が合うと思います?」と、立て続けに話し掛ける上木。


 すると、話し掛けられた風変わりな男は答えた。

「フランクフルトにしておけ」

「嫌なことを言いますね?フランスの戦闘機が日本を守ってるのに」

 上木はカラカラと笑う。

「売っているのがフランクフルトだけなのは、武士の情けだ。これでワインじゃ無くてクラフトビールを売っていたら外交問題になっただろ?」

 上木の隣の男は、顔色かおいろ一つ変えないで言った。それを聞いた上木は声をあげて笑った。

 風変わりな男は、上木を見ながら話し続ける。

「フランスから戦闘機を買って、ドイツ人から車を買って、アメリカ人からコーラを買えばいい。それで十分だ」

「それは名案だ」

 上木がそう言うと、風変わりな男は歩き始める。


「何人いる?」と、短く尋ねた風変わりな男。

「中国が11。ロシアが7。あと、お友達アメリカは22。みんな、日本人の誠実さを理解できないのかね?」

 上木は白々しく言う。彼が答えたのは、今日の航空祭に紛れている各国の工作員の人数。

「部下には連絡をしておく」とだけ答えた風変わりな男。

「頼みますよ。せっかく、国家転覆防止法スパイ防止法を総理が作ってくれたんだから、公僕警察は頑張らないと」

 調子の良いことを言う上木。すると、風変わりな男は怒るでもなく、こう言う。

「無論だ」と。


 その反応を見て、肩をすくめる上木。

「相変わらずだな」

 上木は風変わりな男に顔を近づけた。

「頑張ってよ。檜基ひのもとさん」

檜基ひのもと』と呼ばれた男に、囁くように言い残した上木。

 檜基の肩を馴れ馴れしく叩くと、上木は意気揚々とフランクフルトの屋台へ向かう。


「名前で呼ぶな・・・」

 檜基ひのもとは、少しだけムッとした口調で呟いた。

 少なくとも航空祭の会場で、この檜基ひのもとが現・警察庁長官『檜基ひのもとただし』の変装だと知るのは、上木だけだった。そして、檜基も使だと知るのは、上木だけだった。


 長官と別れた後、航空祭の会場内をのんびり歩きながら、上木は昔のことを思い出していた。それは、ここが茨城県であることにも関係している。

「あの人は元気かな・・・」

 寂しげな笑みを浮かべた上木。彼は以前、つとめていた大手広告代理店のことを思い出していた。もう15年前の話だが。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る