第85話 目立っていく私

暫定で仲間になったメルカに敵対するということで、ガント王国第三王子の手下を脅かすつもりだった。


エネルギーを溜めて出せるようになった「沼の底」から、ファイアボアのスキル「ファイアタックル」の炎を少しだけ出した。


敵の足元、高さ数センチに少しだけだ。


どんっ。ごおっ、ぶあっ。


「ぎゃああああ」


地面がえぐれ、人が溶けている。ほぼ10メートル離れた私まで熱い。


メルカが目を見開いて驚いている。そして私はもっと驚いている。


「15人のうち、8人くらい弾けとんで即死したようです。さすがは精霊使い様」


ざわざわ。精霊使い?

どよどよ。メルカの新しい彼女だよ。

どよどよ。ノーモーションで跳んで、魔力反応なしで魔法を出したわ。


私は見誤っていた。ダンジョンで手に入れたボアのファイアタックル4・3のうち0・1を出した。


0・1の数値に騙されたが、推定レベル110の魔物が纏う炎の、10分の1の大きさなのだ。


熱量は前にレベル70の魔法使いが繰り出した、火の上級魔法を凝縮したものと同レベルと考えるべきだった。


「精霊使い様が、ボウクンペンギンで災いを起こした第三王子ガリキシに怒ってる。国賊に与するものは、死をもって償え!」


メルカは、私の名前を呼ばないところで頭が回ると思ったが、ズル賢い。私がメルカの仲間のようになっているではないか。


うおおおおお!


場が盛り上がっている。そういや、こいつは街の人気者だった。


いつの間にか私も乗せられているし、「人たらし」といつやつか。


ザク、ザク。


敵が15人のうち7人に息があったが、メルカが剣で止めを刺した。


「トコブシ姫はおらぬが、私が姫の代わり戦う。この一撃は国を憂う第一王女の怒りと思え!」


ハッキリ言って、メルカをなめていた。確かに戦闘力は「沼」プラス高レベルの私の方が上だ。


だけどメルカは強さだけではない、不思議な能力を持っている。


「私、スキルにはっきり出ないけど「直感」の何段階か上の能力を持っているんです」


「ふむふむ。ん、聞きたいことを先に答えられた?」


なぜか納得している私がいる。認めると楽だ。彼女を否定するとイライラする。それも含めて彼女の能力だろうか。



ゲルダをガント王国で連れていく店の参考に、メルカに安酒場を案内してもらった。


「私は本当は誰とも関わらず、南下してボウクンペンギンを倒せばいい。だけどあなた、リスクを負っても私に付いてこようとする。なぜ?」


「トコブシ姫に恩を返すためです」


「意味わかんない」

「私もです」


「へ?もしかして本当に勘だけで動いてるの」

「サーシャさんなら分かりますか」

「もちろん分からない」


「ふむ。あなたでも無理ですか」


頭が混乱してきた。


「ぶっちゃけ、姫の命がかかっているのです」

「ますます理解できない。エールのせいじゃないよね」


「トコブシ姫には「死亡フラグ」が立っていたのですが、サーシャさんの出現で方向性が変わったのです」



私は、巻き込まれ体質という、新しいスキルを手に入れたのかも知れない。


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