第46話 悪魔の提案をする私
会ったばかりのゲルダという女、私としては信じていいと思った。
なぜか。
「沼」スキルを介して見ると分かる。私自身を利用する気はあるが、私自身から何か奪おうとか考えていない。
ここでダメなら私に殺されるか、子爵と戦って死ぬ覚悟だろう。私は純粋な願いに弱いみたいだ。
今まで沼に沈めてきた奴らは私のことをなめていた。
だけどこの女は私が「水魔法で大量の人間を殺したサーシャ」と当たりを付けて頼んでいる。
何の復讐か聞く気はないが、誰かの為に戦う奴。
「本当の沼の秘密」を知る寸前、命がけで私を守ろうとしてくれたメロンとカリナの顔を思い出してしまった。
そして、銀髪で平凡で美人改造前の私と何となく似ている。
「質問以外のことに答えたら殺す・・」
「・・はい」
「あなたは殺人鬼サーシャになる覚悟はある?」
「え・・・・あります」
「水魔法で水をまくことはできるの?」
「ウオーターボールを地面に向けて何発か撃てばやれると思います」
「ナンタラ子爵を殺してあげてもいい。だけど、私の計画に乗るなら矢面に立つのはあなたよ」
「本当ですか。私の故郷を襲った子爵、三男、四男、五男を倒せるなら、それから命を狙われ続けてもかまいません」
「交渉成立。ブライト王国に逆襲する殺人兵器の力を見せてあげましょう」
◆
次の日、ゲルダと出会った場所から東に10キロ動き、マツクロ子爵が飼っている盗賊団のアジトに来た。
元要塞で石山に三方向を囲まれ、残りの1面は幅10メートルくらいの掘に水が溜まっている。鉄板で補強した跳ね橋式の通路を上げ下げして出入りする感じた。
「盗賊団のくせに堂々としたものね。子爵の子飼いで50人規模よね」
「あの、この中にはレベル40くらいの戦士がたくさんいます。レベル50を越える猛者もいて、盗賊団自体がかなり強いですよ」
「大丈夫よ。ゲルダ改め赤のサーシャが、今からここを壊滅させるの」
「私がですか?」
「そうよ、そのために岩山に登ってきたの」
彼女は私が持っていた収納指輪から探し出した、真っ赤なミスリルインナーの上下に真っ赤な胸当てと赤マント。
私は久しぶりにブライト王国紋章付きのフルフェイス白銀騎士に変身している。
「ま、まさか、サーシャさん」
「ここからはサーシャがあなたで、私はナイト」
100メートルのくらいの断崖の下に盗賊達が見える。推定レベル140の私には、岩の割れ目を利用してロープの起点を作り、降りることは簡単だ。ゲルダを抱えても苦にならない。
危ないときには「泥団子」を岩に張り付かせれば、そこから10メートル以上は落ちない。
「いっくよ~」
「ひえええええええ!」
◆
ゲルダの悲鳴で盗賊が集まった。
「なんだお前ら、いきなり山から降りてきて」
「姉ちゃん、なにもんだ。逃げ場なんかねえぞ」
「ナイトさん、あっという間に降りましたけど囲まれてますよ」
「我が主、サーシャよ。水溜まり召喚術をお願いします!」
やけくその「サーシャ」は打ち合わせ通りにウオーターボールを地面に向けて撃った。
「なんだこりゃあ。泥を跳ねるためのウオーターボールかよ」
「ひゃっはっはっはは」
私は同時に沼の底を発動させ、水と同時に奴らを出した。
どっす~~ん。
ぺたっ、ぺたっ、ペタペタペタ。
「沼」から大型爬虫類軍団を出した。
「サーシャ跳ぶよ、つかまって」
収納指輪から高さ3メートルの魔鉄製コンテナを出して、屋根に上がった。そこから下を見たゲルダは驚いた。
「うわあああ!女が撒いた「水溜まり」と一緒にワニやオオトカゲが出てきた」
「ぐわ、でけえスッポーンに噛みつかれた!」
「建物の壁も噛み砕かれる!」
「ぎゃああああ、門を開けろ!」
門は跳ね橋式で根元の巻き取り機で上げ下げするから、中々開かない。その間に被害が大きくなる。
「ほらゲルダ、セリフ」
「あっ。水溜まりから出でし我が眷属どもよ、盗賊どもをくらい尽くせ!」
「うわあああ!寄るな」
「いでえええええ!」
コメンの森の野良ダンジョンで生け捕りにしておいた爬虫類が死なないと思ったら、食わなくても半年とか生きるらしい。
そんで沼の中に放置してたけど、いい使い途があった。特に15メートルのワニなんか圧巻だ。
「わっはっは。我が主の眷属どもよ。腹が減ったか。たっぷり食べるのじゃ」
「ひいいい」
「きっとあいつだ、あの赤いのが国境に現れた「人食い水溜まりのサーシャ」だ」
ぽちょん。ぽちょん、ぽっちょ~ん。
「え、うわ!」
「なんだ、水溜まりに沈む。助けてくれえ!」
「み、水にも食われるうう!」
私は屋根を降り、特に濁った場所に80センチの「沼」を3つ出して追加の演出を仕込んでいた。
阿鼻叫喚の中、ようやく門が開いて盗賊が4人だけ逃げ出した。
せいぜい、白銀騎士と一緒に現れた「殺人鬼サーシャ」を宣伝してもらいたい。
「さ、ゲルダはお宝小屋の物を、この収納指輪に回収して」
「は、はい。もうこの砦に人の気配はありませんね」
食事にありついて日向ぼっこしていた大型爬虫類20匹を再び「沼」に回収。彼らには死なない程度に飢えてもらって、「召喚獣」として役立ってもらわねばならない。
「はいサーシャさん。収納指輪にあったものを全部入れておきました」
「あとで半分こね。そんでいい?」
「え?お金もかなりありましたよ。半分ももらっていいんですか」
「敵に財政的なダメージを与えるのも大事だよ」
「ありがとうごさいます。久しぶりをお酒が飲めます」
「ま、祝杯くらいいいか」
「へへへ」
死に直結する危険な役目をやらせてるのは分かっているくせに、軽い女だ。
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