第38話 出発前に殺ること
ダンガーラに拠点を移し、そのまま私達のパーティーも別行動となる。
「じゃあ、さよなら」
「サーシャ、言い方が間違ってますよ」
「そうよ、あなたは帰って来るのよ。ほら、もう一度」
「あ、うん。メロン、カリナ、いってきます」
「行ってらっしゃい」
「元気で帰ってきてね」
待っていてくれる人がいることが、こんなに嬉しいことだとは思わなかった。
◆
「けど、これからの旅は戦いと殺しが付き物になる」
だってもう、沼様が怒っている。
半年間も特級ダンジョンに潜ってレベリングをしていた。敵は悪意を持たない無機質なゴーレムとガーゴイルばかり。あるものでご機嫌を取っていたが、刺激不足でストレスのようなものを感じる。
1人に戻った理由は、今回のブライト侵入は単独になる必要があるため。だけど沼様の絡みも少しはある。
◆
メロン達と別れて2時間ほど歩くと、悪意を持つ奴が近づいてきた。
今回の旅は、目立つ場所を限定しないといけない。
それに鍛練の意味も込めて走る必要もあるし、基本は歩きだ。
向こうから来たのは、こっちから挨拶に行こうと思っていた相手だ。
私の情報をブライト裏ギルドから来た奴らに流した、ハルピインを収める領主の次男。31人を連れてきている。
こいつのせいでメロンとカリナが危険にさらされた。
「あら次男坊君。はるばる遠くまで来たのね」
「お前に足腰を砕かれたザハル君は、治るまでに半年もかかったんだぜ」
「ここまで来たってことは、もう切羽詰まってるのね」
「うるさい! お前とペルタを取り囲んだだけでハルルキ家にギルドから抗議が来た。私の父と兄は私の意見も聞かず、私を家から放逐したのだ」
「だから復讐に来たのは分かるけど、なんでこんなゴロツキしかいないの?」
「お前1人なら、これで十分だろう」
「正確な情報を持つ、高位の戦闘職には避けられたのね。「沼体術」ミックスの訓練くらいにはなるかな。80センチ沼3個展開」
ぽちょん、ぽちょん、ぽちょん。
沼は私の真後ろに1個置いて、私を囲むように正三角形を作った。
「アレがザハルが言ってた水溜まりか?下に3個もあるぞ。うおっ、女が自分で走ってきた、速い」
私のレベルは119。
メロン達と一緒にレベリングして経験値を分けあったけど、それでも通常の3倍。単独で倒したブライト裏ギルドの経験値なんか10倍効果を丸々もらっている。
「逃がすな、囲め!」
すでに左端の奴の腹を殴り、左足を沼にはめている。
「ごんっ、ごんっ、ごんっと」
左右の80センチ沼に各4人ずつ片足を入れた。
「な、なんだ。ギルドの情報じゃ影縫いの類いだって聞いてるぞ。捕まった奴らが沈んでるぞ」
1つの穴に引きずり込まれた4人は穴の中央でぶつかった。装備を着けた胴周り80センチを優に越える男4人が、無事に直径80センチの穴に入るはずはない。
「ぎゃああああ!」
ゴギゴギゴキゴキ!
「な、なんだアレは。ザハル、大事なことを黙ってたな」
「いや、いや私も知らない」
「ぐげ、あががが」
ぽちょん。
あえて沈む「沼」では最小サイズの80センチを使った。
心の狭い私が一度は見逃してあげたのに、情報を売るわ再び仕掛けるわ。ただ沼の餌食にするだけでは気が済まない。
「次」
みんな及び腰になってるから、ザハルを除く23人の捕獲は簡単だった。練習だから、全員の腹に1発づつ入れた。
女冒険者風も2人いたから、個別に80センチ沼に沈めた。慈悲ではない。今後の計画に女の死体が必要なのだ。
ゴキゴキゴキゴキゴキ。
とぷん、とぷん、とぷん。
「私は、何を間違ったのか・・。先に生まれたからといって妾腹の子に伯爵家の継承権を取られ・・」
「興味ない」
ほぎ、ぼぎ、ぼぎ、ぼぎ。
「ぎゃあああああ!」
とっぷ~ん。
面倒になったから、最後の4人と一緒に沼様に貢いだ。
『あっはっはは。小悪党の最後の独白も途中でぶっ切ったか』
「沼様、久しぶりの獲物だよ」
『ウサギの塩焼き程度にはうまかったな。それよかデザートを頼む』
「は~い、今日はアップルパイと紅茶だよ」
なんと沼様はデザートが好きだ。
これを貢ぎ続けて、ゴーレムやガーゴイルを相手にする間の不満を緩和させてもらった。
◆
5ヶ月前だ。
優しいカリナがお菓子と飲み物を大量に持ってきた。
「黒獅子をもらったお礼になるか分からないけど、甘いものを沼様のお供えに持ってきました。沼様が嫌なら出してください」
「沼」に沈めたところ・・
『サーシャ、今のはなんだ。もうないのか!』
「わっ、こんなに食いつく沼様は初めてだ。どれが良かったの?」
『三角の奴とか、ベタベタしてフルーツが乗ってるやつだ』
「沼様、スイーツ好きなんですね。お陰でお金も稼がせてもらってますし、どんどん持ってきます」
「とカリナが言ってるよ」
『うむ』
という訳で、混沌の世界を管理する沼様はスイーツを好まれることが判明した。
ちなみに沼様のイメージを考えてブラックコーヒーをお供えしたところ、苦いから砂糖をミルクをくれと要求された。
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