第7話 まぁ、うん色んな家庭があるからね

 翌日。

 俺は、盗賊団が占領している村へと向かっていた。

 理由は単純明快。

 退治してこい、とギルドマスターから直々に頼まれたからだ。

 あと、借金を一気に返せそうだし。

 わざわざ荷馬車まで用意してくれた。

 要するに、この荷馬車に盗賊団の首を乗せてこいというわけである。

 まぁ、確かに生死問わずで指名手配されてるんだから、遺体を運ぶ為には必要だ。

 本来なら、Eランク冒険者にはまず回ってこない依頼だ。


「安心してください!!

 最悪、手足がとれてもくっつけることができますので!!」


 手網を握る俺の横で、エールがそう意気込んだ。

 いや、二人とも殺される可能性だってあるんだけど。

 全然考慮してないな、この子。

 まぁ、負ける気はないけどさ。

 それよりも、今しがた彼女が口にした内容が気になった。


「……そんなことも出来るんだ」


 待てよ?

 それなら……。

 俺にある考えが浮かんだ。

 エールに確認してみる。


「それって、くっつけた上で普通に動かせる状態に戻せるってこと??」


 エールがキョトンとする。

 そして、頷いた。


「凄いな。

 じゃあさ」


 さらに俺は確認した。

 すると、エールはその確認した内容にこれまた頷いて見せた。


「出来ますよ。

 でも、それが??」


 エールが不思議そうに首を傾げる。


「まぁ、ちょっと、考えがあるんだ」


 そして、俺はその考えをエールに話した。

 エールが目を丸くする。


「え、えええ?!

 正気ですか!!??

 というか、出来るんですか?!」


「んー、まぁ正気かな?

 あと、出来る。

 母さんに覚えさせられた」


 俺の返答に、エールはしばらく言葉を続けられなかった。

 しかし、やがて、


「わ、ワイルドなご家庭だったんですね」


 なんて感想を漏らした。


「とにかく、エールは絶対に回復魔法は使わないでくれると助かる」


「わ、わかりました!!!」


 そうこうしていると、件の村が見えてきた。

 その入口を見て、エールが息を飲んだ。

 村の出入口には台が設けられ、そこに村人のものらしき生首が並んでいた。

 凄惨な光景だ。


「気分悪ぃ」


 見せしめとはいえ、ここまでする必要あるか?


「同感です」


 基本サポートとはいえ、エールもやはり冒険者でこういったことには慣れているのか、怯えずにいた。

 さすが、中堅といったところだろうか。

 馬車を離れたところに停めて、俺たちは村に入った。

 すると、植わっている木。

 そこに、絞首刑台のごとくブラブラと揺れる吊り下げられた遺体が目に入った。

 悪趣味にも程があるだろ。


 顔を歪める俺たちを、どこからともなく現れた盗賊団が取り囲む。

 全員が全員、武器を手にしている


「今度は乳臭そうなガキが二人。

 冒険者ギルドは俺たちの事を馬鹿にしてるのか??」


 俺達を取り囲んだ有象無象。

 その中から、明らかに別格と思われる男が現れた。

 この男が、盗賊団の首領だ。

 手配書の似顔絵通りの顔をしている。

 一昨日の夜に喧嘩したクランの総長よりも体が大きい。

 俺との体格差を客観的に表現するなら、大人と赤ちゃんと言っていいだろう。

 それほどの巨躯だ。


「人手がいないんですよ。

 だから、生贄として捧げられたんです」


 ニコッと自虐を含んで言ってみる。

 ゲラゲラと、俺の言葉に首領と、周囲を取り囲んでいる盗賊達が笑った。


「でも、名を上げるには丁度いいので倒しに来ました」


 あと借金も返せるし。


 途端、いっそうゲラゲラ笑いが大きくなった。

 首領が、ゆっくりとこちらに近づいてきた。

 笑いながら、近づいてきた。

 その手には、大きな斧。

 これが首領の獲物か。

 俺は、肩に引っ掛け包んでいた相棒を取り出すかどうか考えて、今回はやめる。


「ちょっとこれ持ってて」


 この前と同様に、俺はエールへ相棒を預けた。

 エールも慣れたもので、それを受け取ると俺の背後に控えるように立つ。

 そして、俺は首領を見た。


「生意気なガキだな」


 首領が指をポキポキ鳴らしながら、俺の前に立った。


「よく言われます」


 俺が答えるのと、首領が斧を手に襲いかかって来るのは同時だった。

 斧が振り回され、俺の体を真っ二つにしようと向かってくる。

 それをよく見て、避ける。

 避ける。

 避ける。

 避けて、避けて、避け続ける。

 首領の顔がわずかに、焦り始めた。

 おそらく、この力技だけで今まで勝ち抜いて来たのだろう。

 ほかの攻撃がない。

 魔法が使えないのか??

 だとすると、この首領は文字通り腕っ節だけで、ここまで登りつめたということだ。

 純粋に凄いと思った。


「ははは」


 楽しくなってきた。

 俺は、またも斧を避けて跳ぶ。

 そして、首領の横っ面を蹴りつけてみた。

 おお、飛ばされないか。

 硬ぇな。

 俺は、着地する。

 首領が、こちらを見た。

 そして、


「今、なんかしたか?」


 余裕綽々とばかりに、そんな言葉を投げてきた。

 その時の表情に、先程までの焦りはなかった。


「岩みたいに硬いな、ちくしょーめ」


 俺は、そんな毒を吐いてみる。

 それをどう取ったのか、正確なところはわからない。

 けれど、首領の顔に余裕が戻ってきた。


 その息は、しかし上がっている。

 もうちょいかな?

 いや、ほかの連中も処理しなきゃだし。

 ちと早いけど、そろそろ終わらせよう。


 そう考えた時だ。

 首領が一際大きな一撃を放とうと、斧を握りしめる。

 その斧が炎に包まれる。

 これが首領のスキルなのだろう。


「中々動けるみたいだがな、終わりだ、小僧!!」


 言って、首領が炎を纏った斧を振り回した。

 おお、さっきよりもスピードが上がった!!

 けれど、


「うん、自信満々なところ悪いけど。

 俺からすると遅いんだよ、それ」


 なんて言って、俺はその斧の攻撃をヒラリと避ける。

 振り回され、結果的ち振り下ろされた斧はそのまま地面に突き刺さる。

 深く突き刺さったのか、簡単には抜けないようだ。

 その首領の背後を取って、俺はここで初めてスキル【身体強化】を使用する。

 強化したのは、利き手の右手から右肩にかけて。

 その右手で、首領の首へ手刀を放つ。


 トン。


 静かに、手刀をあてる。

 傍目から見ると、軽すぎて攻撃には見えなかったことだろう。

 でも、それだけ。

 たったそれだけで、首領の体が力を失って倒れ込んでしまった。

 しかし、気絶はしていない。


「て、てめぇ!!何をしやがった!?」


 体がピクリとも動かせないことに気づいたのだろう。

 首領が叫ぶ。


「んー、体を動かすための神経を絶たせて貰いました。

 魔法でも、なんでも無いですよ?

 スキルを使用した、物理攻撃です。

 殺しても良かったんですけど、生け捕りにした方が名を上げる時に箔が付くかなって思って。

 そうなった以上、一生寝たきりですよ。

 まぁ、貴方の場合、死刑台に上るまでのことでしょうが」


 ニコニコ、俺は笑顔だ。

 反対に、首領は怒りと絶望の混じった表情をした。

 希望を与えないために、心をおる為に、あえてエールの回復魔法のことは言わないでおく。


「さて、と。じゃあ残りを片付けましょうかね?」


 俺は取り囲んでいる、他の盗賊たちを見回した。

 首領がやられて怖気付いたのか、こちらに向かってくるかどうか迷っているようだ。

 それを、俺は拳一つでボコボコにした。

 トータル三十人位だったけれど、頭がやられたからか簡単に終わった。


 こうして、退治は完了。

 その後は、怯えて家の中にいたらしい村人が、ゾロゾロと出てきた。

 村人達にお礼を言われる。

 そんな村人達に事情を説明し、手伝ってもらって、盗賊団をふんじばる。

 とりあえず、首領と幹部数人を荷馬車へ放り込み、一旦街に戻ることにした。


「あとでまた冒険者ギルドか、お役所から人が派遣されてくるので、残りの盗賊たちはその時に回収されるはずです」


 そう説明したのはエールだった。

 再度、村人は俺達へ頭を下げたのだった。

 こうして、俺たちは一度村から街に戻った。

 冒険者ギルドへ報告に向かう。

 その道すがら、エールが言ってきた。


「本当に動かなくなるんですね」


「そ、体の中にある、体を動かすための神経はそれだけ大切なんだよ。

 操り人形の糸を思い浮かべるとわかりやすい。

 アレを切られたら、操り人形を操ることは出来なくなるだろ?」


「でも、合点が行きました。

 大工さんとかが事故で屋根から滑って落ちた後に、体が動かなくなってしまうのはそれが原因だったんですね」


「まぁ、でも神経だけを切る、傷つけるにはそれだけ強い衝撃も必要で、あと場所によっても、動かせなくなる場所が違ってくるらしいよ」


 たぶん、医療従事者向けの専門書とかに書いてあると思う。

 けれど、話を聞く限りエールは回復魔法の使い手で医療従事者とは違う。

 どう違うのか、と言われると説明は難しい。

 ただエールは、そういった知識を身につけずにお兄さん達を治していた。

 回復魔法というのは、そういった知識が無くても怪我を治したりできる代物だ。

 やはり、すげーなー、と思う。


 そんなこんなで、冒険者ギルドに戻ると盛大に驚かれた。

 しかも、首領と幹部を生け捕りにしてきた、という事実もその驚きに拍車をかけることになった。

 これで少しは、【神龍の巣シェンロン】の知名度が上がればいいんだけどな。

 あと借金返そう。

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