番外編:猛獣になった第二王子⑦

ティタンはドキドキしていた。


婚約者候補との顔合わせ。

自分を好きになる人は、いるのか。

期待と不安が入り交じる初対面だ。




「ひぃぃ、お許しを!」


「助けて下さい、まだ死にたくないです!」


ティタンを目にし、対峙した者から齎されるは、怯えた眼差しと恐怖の悲鳴。




「……」



ティタンの目は、段々と光を失う。


どこかで、少しは期待をしていた。


兄の従者達も、懸命に情報を集め、ティタンが戻った後の事まで考えて、身元のしっかりとした気立ての良い令嬢に声を掛けている、筈だった。


それなのに、どの女性も怖がってしまう。




ティタンはただ女性達の前に立つだけだ。


傷つけるような事はしていない。




(やはり見た目は、大事だよな…)


ティタンは、段々と部屋に籠もるようになってしまった。




令嬢達の報告書もろくに読まなくなった。


読んでも、令嬢が怖がってしまって逃げるのであれば、意味がないからだ。




ずっとこのままだろうか。

獣として生きるのか…と半ば諦めていた。





本日も令嬢の泣き叫ぶ声が響く。




こっちが泣きたい。


振られ続ける心の痛みを知ってほしい。


「がうぅ…」

言葉も出せないため、何を言っても無駄だった。




誰からも愛されないのだと、数ヶ月後にはかなりやさぐれてしまった。


(いっそ、ここから出て自由になるか)

そんな事を考えて、止めた。


ここから逃げれば、家族に迷惑がかかる。


猛獣を外に逃したとあっては、王家の責任になる。


いっそ心まで獣になれば、辛くなかったかもしれない。


それならばそのまま討たれて、つらい気持ちも終わっただろう。


獣にも、人にもなれず、半端に変わってしまった事がとても辛かった。





そんなティタンだったが、一人の令嬢の言葉に救われた。




「触れても、いいですか?」


そんな事、言われたのは初めてだ。


優しくこちらを見つめる瞳、何かを思い出す。


この女性には会ったことがあったはずだ。


女性は真っ直ぐにティタンをみつめてくれる、話しかけてくれる。






「…ティ様は人を傷つけようと思って威嚇していたわけではなく、怖がっていらしたのですね」


慈しむ声と、ティタンを理解しようとする言葉。


嫌がればすぐに謝ってくれた。


自分という存在を、きちんと扱ってくれた。


この人が、この女性が俺の運命の人だ。



もっと一緒にいたかった。

もっと知りたかった。


一緒の暮らしも楽しい。



表情や仕草からティタンを知ろうと、一生懸命に理解しようとしてくれている。




獣の体を、わざわざ自らの手で洗ってくれた。

令嬢らしからぬ行動だったが、尽くしてくれた。


イヤイヤではなく、楽しそうだった。


ふかふかにしてもらえて、洗ってくれた女性、ミューズも楽しそうで満足した。



ティタンを洗ったあと、ミューズも衣類などが汚れてしまった。

そのためミューズも体を清めるという話になり、なるべく浴室から遠くに離れようと屋敷の入口まで来た。


ミューズの入浴が終わるまで、日向ぼっこもいいかもしれないと思ったのだ。


そこで、気づく。


外に出たら、折角ふかふかにしてもらったのに汚れてしまうと。




ティタンは踵を返し、他の所を探そうと歩き出した。




「困ります、急に来られては!」


侍女の声がする、誰かが来たようだ。

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