第1話 音楽が紡いだ奇跡?

~4年後~


中学3年生になった私は今もあの時の塾に通ってる。


齋藤くんがいつか帰ってきてくれるかもしれない。


そんな有り得るわけもない期待を抱きながら。


その日、恋愛に関しての物語の読み取りの授業をしていた。


「お前ら初恋はいつだ」


先生がそういう。


「じゃあー澤田!」


なんで当てられるの…。


『しょ…小学5年生です』


「澤田は小学5年からこの塾にいたよな!俺の知ってる男子か!」


『知ってます…なんなら元生徒です…』


「頭文字は!」


なんで突っ込んでくるのよ…。


『Sですけど…』


「佐々木か!」


『違います!』


佐々木も齋藤くんと仲良くしてたやつ。


なんやかんやであれからずっと塾での同じクラスの腐れ縁だった。


「じゃあ誰だ?他にSっていたか?」


そりゃ先生も忘れてるよね…。


だって忽然と姿を消したんだもん。


佐「澤田ー!俺のことが好きなら好きで…」


『違うって言ってるでしょ!』


佐「じゃあ誰だよ!」


『齋藤くんだよ…。もう会えないけど元気にしてるかな…』


佐「齋藤…齋藤…あー!懐かしいな!俺も忘れてたわ!引きづってるのか?」


『ちょっとね』


そして高校1年になり、おばあちゃんに連絡手段がないと怖いと言われ、ケータイを買ってもらった。


初めてネットで調べたのは齋藤くんの事だった。


元気にしてるのかな。今何をしているのかな。


調べたら本名でTwitterをやってたらしくすぐに出てきた。


齋藤誠斗 相沢学園高校 軽音楽部ベース


齋藤くん志望校に無事に入れたんだ!


良かった…。


…って


え?!


軽音楽部ベース?!


私も軽音楽部に入ろうとしていた。


もしかして大会に出場したら会えるのかな…。


そして私は軽音楽部にヴォーカルとして入部。


親睦会とも称されるコンサートも終わり、同い年の友達、由香里、佳奈、雫と『MARS』を結成。正式に入部した。


そんなある日、顧問の先生からある話がされた。


「夏に大きな大会があるのだが、来月その大会メンバーに出場するメンバーを決めるオーディションをする。受験があるから3年のバンドは出場なしで1年のバンドと2年のバンドで争って貰う。大会出場メンバーは6月に相沢学園高校の大会出場バンドと合宿するから頑張れよー」


相沢高校軽音楽部…。


齋藤くんの居るとこだ…。


由「良かったじゃん!まい!」


佳「頑張ったら齋藤くんと会えるね!」


雫「私達も齋藤くんと会いたいし頑張ろうね!」


頑張ったら齋藤くんと会える…。


さらにこの1週間後、


相沢高校軽音楽部の大会出場バンドが決定。


『Spaces』というバンドで、そこには


ベース 齋藤誠斗 1年


と書かれていた。


齋藤くんも同じ1年生メンバーで大会出場を勝ち取ったのだった。


しかし、私達には強敵がいた。


『Aqua』という2年生バンド。


息ぴったりでヴォーカルのあい先輩は2年生ながらプロのスカウトも見に来るほどだった。


由「Aquaを倒さないと齋藤くんには会えないし大会にも出場出来ない」


雫「Aquaを倒すにはどうしたらいいの」


『オリ曲…』


由「え?」


『オリ曲を作ろう!』


佳「オリ曲って…この1ヶ月でどうしろって…」


『大丈夫!私に任せて!』


そして私は先輩達Aquaに勝つべくオリ曲を作りながらボイストレーニングを繰り返した。


そして遂にオーディションの日がやってきた。


「続いてはAqua!歌う曲は高嶺の花子さん!」


先輩達が歌うのはbacknumberの高嶺の花子さん。


堅実に大会出場を勝ち取りに来た。


そして最後…私たちの番。


円陣を組む。


『ここまで私たちは頑張ってきた。後は自分達の力を最大限出すだけ!頑張ろう!Let's GO MARS!』


「最後のバンドは1年生エースと称されるバンド!MARS!歌う曲は君に伝えたい言葉、なんとオリジナル曲です!」


ザワつく中会場。


私は合図を出した。


そして曲が始まった。


『初めてあったのいつだっけ あの寒い冬の日だったね あれから数年、私は君のおかげで強くなれた あの時は言わなかった言葉 言えなかった言葉 今なら言えるよ』


盛り上がるサビ


『大好きだよ 初めてあったあの日から 大好きでした あなたの事が 暗かった人生夢が無かった私は あなたのおかげで変わることが出来ました ありがとう!』


そして…ついに発表。


堅実に大会出場を決めようとしたAquaかオリジナル曲で攻めたMARSか。


決めたのは…


「MARS!」


私達は肩を寄せあって泣いた。


大会に出場出来る…。


齋藤くんにも会える…。


やった…。


これは音楽が紡いだ奇跡だった。


あい「MARS」


『あい先輩…Aquaの先輩方…』


あい「完敗よ。まさかあんなに泣かされるとは思わなかった。まいちゃん…」


『はい』


あい「君って誰?この作品を作った意図って…」


『あー…』


由「話してもいいんじゃない?」


雫「うん」


『ここでは話せないんで後で機材片付けたら話します』


そして機材を皆で片付けてAquaとMARS以外の部員が帰った後、あい先輩が話してくれて、教室にはAquaとMARSの8人だけになった。


『私、幼い頃から虐待されてて学校では障害者扱いされて居場所無かったんです。暗く俯いて歩いてるような子で友達なんて居なかったんです。そんな中で小学4年の時に通いだした塾でとある男の子と出会ったんです。それが齋藤誠斗という男の子でした』


あい「齋藤誠斗って…相沢学園の大会出場メンバーのベース…」


『齋藤くんは暗い私でもみんなと同じように接してくれて虐めてられてたら止めに入ってくれました。今思えば王子様みたいな存在でした。そして私、12月末に齋藤くんに告白されたんです』


あい「え?!」


『けど私齋藤くんの気持ちについていけなくて断ったんです。でも、齋藤くんは諦めないからって言ってくれて…』


あい「そんなことが…」


『その後齋藤くんのことを好きなことにようやく気づいてバレンタインに改めて告白しようとしたんですけど、その10日前に忽然と姿を消しちゃって…。それ以来一切行方が分からなかったんですけど今年の春に齋藤くんが相沢学園の軽音楽部にいることが分かったんです。そして先生に合宿の話をされた時に齋藤くんに会うためにも頑張ろうってバンドメンバーにも言われて頑張ったんです』


あい「あの曲は齋藤くんに届ける歌って事か…」


『あの歌は合宿の最後のお披露目会まで取っておくつもりです。練習は高嶺の花子さんでいきます』


あい「私達の分も頑張ってね」


『はい!』


これは音楽が紡いだ奇跡なのかもしれない。


頑張ろう。


そう思った。






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