変ではない話
楽人べりー
テストはいつも0点
クラスの同級生にものすごいガリ勉くんがいる。とにかく見てて可哀そうになるくらい勉強ができないでいる。よく漫画などに何をやらせてもダメな生徒が出てくるが、それを地でいっている。今日も彼は席順など無視して先生の教卓のすぐ前に勝手に座った。
「そこは僕の席だよ」
「ゆずれ」
元の席主はだまって別の席に移っていった。こんなことが重なり、席替えの場合でもガリ勉君だけは特等席にいつも座る事になる。そして真面目に授業を受けるんだがテストはいつも0点。僕は彼が一体何でそんなにもできないのか興味を持った。
「あすなろ君、ちょっとノート見せて」
「じゃまをするな」
しぶしぶあすなろ君はノートを見せる。中を見ると同じ漢字がいっぱい並んでいる。
「どうしたのこれは」
「先生の言ってる事を覚えられないから、練習しようと思って」
しかもその漢字が、口とか川とか覚える以前の問題なのだ。
「あすなろ君は、こんな漢字も書けないのかい」
「いや……うん」
「それはあとでやって、まず先生の話を聞かなきゃダメだよ」
「でもせんせいのはなしがすぐにきえてしまう」
「そこは注意を払って」
「さいしょのことばにきをつけるとつぎがわすれてしまう」
「じゃあ僕のノートを見せてやるよ」
僕はあすなろ君の前でノートを開くと、叫び声が上がった。
「すごい。みたことのないじがいっぱいある」
「あのさぁ。これはもう習い終えてる漢字だよ」
「いや、ぼくたいへんだから」
僕はあすなろ君にノートを読ませると、案の定ひらがなしか読めないのだった。
あすなろくんはバツが悪くなったのか窓際を見て口笛を吹き始めた。
「真面目にやろうよ」
僕は真剣に怒ったので、たじろいだあすなろ君は、机に突っ伏した。
「これは小学校一二年の総復習が必要だな」
「いまやってるさいちゅうだけどおわらないんだ」
僕はあきれ果てた。あすなろ君は特に問題のない普通の生徒のはずだ。このクラスにいるのが何よりの証拠だ。にもかかわらずとても勉強はできない。本人は努力を重ねている。ただし努力の方向がまちがっているような気がする。
「とにかくさぁ。社会科の時間に漢字の練習をするのはやめような」
あすなろ君は、しばしの沈黙の後、ゆっくりと頭を垂れた。そしてやや数秒遅れてから「うん」の返事。どうやらやる気が無いようだった。
考え抜いた末、担任の先生に申し出ることにした。
「先生、あすなろ君をなんとかしてください。このままじゃ彼が可哀そうです」
「先生も彼には困っているんだ。でも特に異常はないんだ」
先生にも考えがあったのか、あすなろ君にだけ特別に授業の音声を機械的に記録する事を認めた。他の生徒からは「あすなろ君はずるい」との声はあがらなかった。みんなも彼の努力を目の当たりにしていたからだ。
そして、真ん中辺のテストであすなろ君はどうだったかというと。初めて20点が取れて喜んでいた。
「そんな事で喜んでいていいのだろうか。ま、いいか」
僕は喜ぶあすなろ君の姿を見て複雑な気分になった。
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