第4話 婦人科診療の復興
岩手県立高田病院では、医師不足のため平成16年4月に産婦人科が撤退したそうだ。
産婦人科医の前病院長が定年になり、外科医の石木院長が赴任するというタイミング。
その当時、産婦人科病棟の閉鎖に関連してNHKの取材を受けた際、インタビューの最後に「婦人科が再開したら、また取材に来てください」と、石木院長はディレクターと約束したそうだ。
それまでは分娩も取り扱っており、被災した旧高田病院の三階には分娩室や産科と小児科の病棟がある。そこで赤ん坊を取り上げた経験のある助産師が、現在でも総師長を含む3名の看護師として勤務している。
岩手県立高田病院の臨時医師として働き始めて2ヶ月も過ぎたが、岩手県の医療局からは未だ「婦人科」標榜に許可が下りない状況だ。非常時という認識がないお役人には、「医療で震災復興を」という願いも届かないらしい。
しかし毎日の内科外来では、よくよく話を聞いてみると婦人科的な問題を抱えている患者さんが少なくない。
そういう場合に婦人科医として、「大船渡まで出かけていって婦人科で診てもらってください。」と追い返せるだろうか?
患者さんとの会話の流れで自然に、更年期障害や自律神経失調症として、手書きの処方箋で治療を始めた。
このような患者さんからの口コミもあって、婦人科医がいるという情報はケセン地域に広まりつつあるようだ。
3月末には隣町の住田町から、不正出血のお年寄りが紹介されてきた。
この婦人科患者さん第一号の診察にあたって、中央処置室に急ごしらえの婦人科診察室を準備してもらう。
さすがに助産婦さんだけあって、「腰枕も持ってきて!」とか言いながら診察を手伝ってくれたのである。きっと、婦人科診療の復興を待っていたのだろう。
しかし、婦人科の診察のたびに中央処置室を準備することについては、何よりも診察を受ける患者さんに申し訳ないので、総師長さんと早急な対策を検討していた。
そんな折、シバタ医理科(弘前市)の阿部社長から、思いがけない電話が掛かってきた。
「医療機器メーカーのアトムメディカル株式会社から、婦人科用診察台を貸し出ししてくれるように話が付いた」という内容。
次の問題は、手狭な仮設病院でスペースを確保すること。
婦人科用診察台の設置場所として、総師長さんが解決策を持ってきてくれた。
「外来棟入院棟とも目一杯の使用状況ですが、手術室だけはしばらく使う予定がないので、そこを婦人科診療室にしましょう!」という提案。
4月20日の昼、アトムメディカル株式会社の仙台営業所から、婦人科用診察台を積んだトラックが到着。
それに併せて、シバタ医理科の阿部社長みずから設置作業のため、わざわざ弘前から足を運んでくれた。
前日までに医療材料などが運び出された手術室は、婦人科用診察台を設置すると完璧な「婦人科診療室」だ。
まだNHKから石木院長と約束のインタビュー依頼は来ないようだが、既に地元のミニFM局ではこんな情報を流している。
「JOYZ2AK-FM。こちらは、陸前高田災害FMです。周波数80.5MHzでお送りしております。次は、陸前高田市内の医療施設からのお知らせです。県立高田病院では、4月23日からクィーンズクリニックの診療を始めました。対象は、更年期障害でお悩みの方、子宮ガン検診やピルなどをご希望の方、そのほか女性特有の悩みをお持ちの方などです。予約制でゆったり診療しますので、受診をご希望の方は高田病院まで御連絡ください。電話番号は、54局の3221番です。」
高田病院の理念「地域の医療と健康を守るため、地域に寄り添い、地域と共に歩みます」に従い、ケセン地域の震災復興をこれからも中村臨時医師は婦人科医療で応援したい。
(陸奥新報 2012・05・17)
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