その助言師、実は大嘘つき〜持ち前の運だけで成り立ってる仕事です〜
でずな
第1話 助言師イーズ
ここラキラス王国は、世界的に見て一位二位を争うほどの国力があり何をするにも注目の的だ。
故に国を運営する者は、何事も慎重かつ冷静に対処しなければならない。
「こ、これはどういうことだ!」
一人の男は一枚の隣国諸国を観察している者からの報告書を見て拳を机に殴りつけた。
頭の上に黄金の冠をかぶるその男は普段一国の王として君臨しているのだが、出身は世界の中でもごみと呼ばれる人たちが住むスラム街。まだ着ている服がゴワゴワして気になるような、根はただの一人の男なので異常事態が起きても俯瞰なんてできなかった。
「何で俺らの国を攻め入る準備なんてしてんだよ。何かしたか? ちょっと前までは一緒により良い世界を作ろうと語り合っていたのに……」
国王は自分が何か気づかぬ間に相手の逆鱗に触れるようなことをしてしまったのかと考えたが特に思い浮かばず……。
攻め入ってくるのなら全力で抵抗するが理由がわからなければ納得がいかない。
「よし。あいつを呼ぶか」
国王は心の中のもやもやをどうにかできる者を呼び出し、会議を開いた。
王国軍総司令、王国経済大臣、王国外交大臣と各所のリーダーや隣国に詳しい元 国王などそうそうたるメンバーを揃え隣国諸国の事を報告書をもとに話した。
「国王様。あなた様の一声で国を滅ぼすことなど造作もないことです。……話を聞く限り、おそらくあちら側は奇襲を仕掛けるつもりなのでしょう。ならば、先手も打つことも視野に入れて頂けると幸いです」
最初に口を開いたのはラキラス王国の紋章である鷹のマークを胸に掲げた王国軍事総司令だった。
「できれば俺は戦いなんてしたくない。……この今の状況を考えると君の意見の方が正しいのかもしれないが、すまない。俺は自分勝手な王なんだ」
「自分勝手だから我々はあなた様についていくんです」
国王は王国軍総司令の言葉に会議室にいる者たちが首を縦に振るのを見てやはり自分の部下は変わってるなと実感した。
「して、国王よ。この局面、どう切り抜けるつもりなのだ?」
この会議室の中で唯一現国王にタメ口で話すことができる、元国王バガリスが一歩前に出た質問をした。
国王は思わず唸る。
「さっきあんなことを言っておいて申し訳ないんだが、俺もこれといってどうするべきなのかわからない。……だから俺のことを何度も窮地から脱してくれた、この場に最も関係のないイーズ。君の助言を聞きたい」
国王が向ける目の先にいる人物は、肩まで付く長髪を後ろで一つにまとめた女性のような凛とした顔立ちの男。
名前を出したというのにあくびをしている彼こそ、どんな未来も見通し我々に最善の助言をしてくれる助言師疑うようなものはいない。
この会議室の中に彼のことを
「やはり、人のことは容易く信用するべきではないな……」
「イーズ。それはいったいどういうことだ?」
「……ん? あっ。うん。そういうことに決まってるだろ!」
「国王様発言を許していただけますか?」
国王の顔色をうかがってきたのは全身真っ黒な服を着た、密偵隊隊長だった。
「自由に発言してもらって構わない」
「ではイーズ殿に問いたいのだが……。貴殿は私の隊の中に裏切者がいると、そういいたいのだね?」
「ああーそういう捉え方もあるかも、な」
「私はあなたの助言は正確で讃えるべきものだと思っている。だが、仲間が裏切ったなどと言われ素直に受け入れることはできない。……私やこの会議室の者を納得させる証拠はなんだ?」
密閉隊隊長の言葉に会議室が静まり返った。
きっとすぐ納得できるような証拠の数々が出てくる。皆そう思っていたのだが10秒20秒経ってもシーズの口は開かなかった。
「まさか証拠もないのに裏切者がいるだなんて言ってないだろうな?」
元国王バガリスはイーズに鋭い視線を向けた。
会議室にいる人たちを代表して声を上げたのだが依然としてイーズは沈黙を突き通す。
誰もが本当に証拠などないのでわないのかと疑いの眼差しを送っているなか。
「もしかして!」
一人の眼鏡を掛けたやせ細った男がイーズに信じられないと言う瞳向けながら立ち上がった。
「もしかしてあなたはあの資料を見たんですか?」
「資、料。あぁあれな。そう、あれを見たから裏切り者がいると言っている」
「そんな、まさかあなたは私にこの事実を気づかせるために沈黙していたのか!? いやでもそんなことありえない。あの商人に関する資料はまだ私しか見ていないはずなのに……」
「あのぉー信じられないのはわかったんだが、何を言っているのかわからないから、俺たちにもわかるように説明してくれないか?」
「あ、国王様。申し訳ございません。実はですね……」
男は国王に褒められたい一心で完全独断で商人に目をつけ、ラキラス王国に取り込むことに成功した。他国の情報や、人の行き来を教えてもらう変わりに多額のお金や、特権をあげお互い納得がいく関係だった……はずだった。
すべてがうまくいっている。そう信じていたある日、男の元に取り込んだはずの商人が何やら怪しい動きをしているという資料が届いた。
困惑しどうするべきなのか悩んでいる中、会議が開かれイーズが密偵隊の中に裏切り者がいると口にしこれは必ず何か関係があるのかもしれないと考え今に至る。
「今回は私の独断でこのような自体を招いてしまい、本当申し訳ございませんでした!!」
膝を地面に。両手を合わせ地面に。
男は会議室にいる人たち全員に向かって勢いよく土下座をした。
「独断で事を進めていたことはあまりよろしくないが、今回のことは許そう。なんたってそのおかげでお金や特権以外で、我が王国に相反する別勢力に加担するような者がいるということがわかったからな」
「あ、ありがたいお言葉……」
「そしてイーズ。今回もまた君に助けられたな。ありがとう」
「ふっ。いいってことよ」
イーズのさも当たり前のかのような一言に皆はやはりこの人はすごい、とより一層一目置かれる存在になった。
その中には男にチャンスを与えるために自分がどんなふうに思われようとも沈黙を貫いていたイーズへの、尊敬の眼差しもあった。
その後裏切り者を逆に嵌める、という方向で会議は終了し会議室にいた者はそれぞれ自分の仕事に。
王城から出てきたイーズは、近くにある仕事の後いつよもよっている喫茶店に足を運んでいた。
「お? ここに来るってことはもしかして旦那。今回もまた旦那が王国のこと救ったのかい?」
「ああ。もちろんだ」
店主はイーズの言葉を聞き何も言わず仕事に戻った。
仕事に集中しているので、今イーズのコーヒーカップを持つ手が小刻みに震えていることなどきずくはずもない。
何でうまくいったんだよ。
イーズは会議中漫画のことを考えていた。先日発売された最新話で裏切者が出てそのことを勘違いした人が話を進めて、いつの間にか会議は終わっていた。
少し前なら「勘違いしてくれた!」と、嬉しかったがもう何度もこう言う風に助言の仕事を繰り返しているのでさすがに慣れた。
「けど裏切りなんてびっくりしたな……」
あの王様はいつも休みがないな。
懐に隠している封筒の中には、普通に働くと半年以上かかるほどの大金が入っている。イーズはお金を見て、もし国王に自分は適当な事しか言ってないとばれたらお金以上の命で罪を償う事になるだろうと思い鳥肌がたった。
でも今更仕事をやめられない、か。
もしやめます、だなんて言ったら王国の障害になりゆると消されてしまうかもしれない。
「はぁ」
運だけで歩んできたこの先の自分の人生は一体どんなものになってしまうのかという不安と、どうしようもない現状にイーズの口からため息が出た。
憂鬱な気分になり店主自慢のブレンドコーヒーを飲んでいた時、音もたてず一人の男が対面に座って来た。店の中にいる客は男と俺だけ。
「何ですか?」
少しの沈黙の後男はおもむろに口を開いた。
「特に今は用なんてないんです。……ただ、あんな溜息を吐いていたらご自慢の運が逃げていってしまうと思いまして」
見えない剣で心臓を貫かれたような気がした。
ヒマワリのように微笑む笑顔の中には親身に寄り添う温かみがあったものの、すべてを見通ような死んだ瞳の中には光がなかった。
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