第8話

第3場


変わらない部屋、全員無言で仰向けになり、二人の看護師が一人一人から採血をしている。


職業不詳  ゴミめ。

職業不詳  このゴミめ。

職業不詳  ゴキブリめ。

職業不詳  糞っ、ゴキブリめ。

職業不詳  ゴキブリめ。

看護師1  何かありましたか?

職業不詳  糞め、死んでしまえ。

看護師1  えっ。

職業不詳  この世から消えろ、ゴキブリめ。

看護師1  採血で、痛みがありましたか。

職業不詳  死ぬべきなんだよ、蛆虫め。

看護師1  はぁ。

職業不詳  汚らわしい、蠅め。

看護師1  すいません、何か問題があったみたいですね、あとで詳しく伺いますか

      ら、すいません。(時間を気にして採血の流れに戻ろうとする。)

職業不詳  糞め。

職業不詳  うんこめ。

職業不詳  腐ったアヒルめ。

職業不詳  死ねゴキブリ。

職業不詳  くせぇんだよ、蛆虫。

職業不詳  潰れてしまえ。


先に採血を終えた看護師2が近寄る。


看護師2  一体なんですか、さっきから。

職業不詳  死ねブス。

看護師2  なっ、な、何が不満なんですか、採血ですか。

職業不詳  醜い女め。

看護師2  わかりました。


看護師2は採血の終わった看護師1に近づき、こそこそ話して共に退室する。


職業不詳  糞虫どもめ。

職業不詳  汚らわしい。

職業不詳  ゴキブリめ。

職業不詳  クズめ。


治験コーディネーターと医者1が部屋に入ってくると、職業不詳に近づいて話しかける。話しかける動きだけで声は出ず、職業不詳も受け答えするも声は聞こえない。身振りだけ。間。二人に促されて職業不詳は一緒に退室する。


旅行家   おいおい、あいつやべぇんじゃねぇぇの。

料理人   ちょっとおかしいなぁ。

先生    いや、かなりだろ。

漫画家   あれじゃぁ、強制退院ですね。

声楽家   恐ろしい。

無職    すごい怖かったんだけど、まだ耳に残ってる。

学生    なんっすかあの人、完全にいっちゃって。

美容師   何か気にくわないことでもあったんでしょうか。

会社員   わからないけれど、異常極まりない言動だった。

漫画家   これで一人脱落ですね。

料理人   おかしいやつだとは思っていたけど、本当におかしいやつだったかぁ。

旅行家   おれは一目でわかってたぜ、こいつはやべぇって。

先生    ぶつぶつと、独り言が多かったしな。

無職    そうかなぁ、とてもいい人だったけど。

美容師   たしかにちょっと変わっていましたけど、根は良い人だと思っていたん

      ですが。

学生    あんなのは、どんな事があってもなかなか言えるもんじゃないっすよ。

声楽家   声のトーンに、呪いがたっぷり詰まってましたね。

会社員   あんなことを言うなんて、よほどの原因があったのだろう。

先生    採血している時は、何もなさそうだったけどな。

旅行家   痛けりゃいてぇって、普通言うよな。

料理人   ありゃ普通じゃねえよ。

漫画家   針が、どこかの神経を突いたんですかね。

美容師   無神経というよりも、神経質な感じの人でしたからね。

学生    どっか、ツボを突かれたんっすよ、きっと。

声楽家   豹変する為のスイッチが押されたとか。

会社員   それはありうるな。

声楽家   じゃないと、あんなならないですよね。

旅行家   いいや、おれはあんなようなやつを、いくらでも見たことがあるぜ。

先生    へへぇ、どこで。

料理人   あんなのいるかぁ、ありゃ事件性が高いぜ、ああいうのが犯罪をおこす

      んだ。

漫画家   あれは珍しいというより、初めてですよ。

旅行家   パーティーに行きゃぁ、あんなのよりもおかしいのがごろごろしてる

      ぜ。

学生    パーティーっすか。

声楽家   くるくるまわる、おめかしした。

美容師   テクノとか、トランスですか。

旅行家   屋内じゃなくて、野外だとああいうのが多いねぇ、もう、海岸とか、森

      とか、高原とかだよ。

料理人   ああ、ああ、あのうるせぇのか、タイのどこ行ってもやってた。

旅行家   入れすぎて、あいつみたいに一人ぶつぶつつぶやくのがいたぜ、焦点が

      合わずによ、ああいうのはなぁ、だいたい踊り場の端っこで、トカゲの

      しっぽみたいにうねったり、陸に上がった魚みたいに泡吹いて一人狂っ  

      てんだ。

無職    天然の治験かな。

会社員   検査はまずないだろう。

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