血売り身売り、時に時売り

酒井小言

第1話

全2幕


人物

入院者は全員男、病院関係者は全員女


漫画家

無職

美容師

料理人

職業不詳

学生

会社員

先生

声楽家

写真家

旅行家

治験コーディネーター

看護師1

看護師2

医者1

医者2


第1幕


第1場


安宿の相部屋。漫画家が入ってくる。荷物の置かれた寝床が一つだけあり、そこに目を留めてから離れた寝床に荷物を投げて横になる。


漫画家   ああああ……、3000ポンド、5泊が2回……、抗ガン剤の副作用を  

      抑える薬か……。


無職が部屋に入ってくる。


無職    あれっ、いつ来たの?

漫画家   あっ、今来たところなんです、どうも、こんにちは。

無職    治験、治験に参加するの?

漫画家   えっ? まあ、はい。

無職    一緒一緒、おれも治験、治験なんだ、よろしくね。

漫画家   あ、はい、どうも、よろしくおねがいします。

無職    さっきパンとチーズとソーセージを買ってね、今から食べるんだけど食

      べる? これがすごい安くておいしくて、こっちに来たらまず買って食

      べるんだ、あとオリーブとピクルスと、ビールもたくさん買ったから、

      飲んで食べようよ。

漫画家   えっ?

無職    ビールは黒じゃなくて黄色いので、チーズは青いのじゃなくて白くて固

      いので、ソーセージはかちかちになっているのじゃなくて瓶詰めの細く

      長くて茶色いのだからさぁ、とてもおいしいものだからね。

漫画家   いや、病院からここに来るのに、食い放題の中華を食べてきたので。

無職    あれもいいよね、初めはね、手軽で、わかりやすくて、でも足りないよ

      あれじゃ、やっぱこっちに来たらスーパーがいいよ、日本とぜんぜん違

      うし、安いしおいしいし、中華もちょっと違うけどねぇ、やっぱり味付

      けは安い中華だし、ねえ、一緒に食べよう。

漫画家   でも、腹一杯なので、休みなしでパリから乗り継いで来て、片づけや準

      備もあるので、ちょっと遠慮しておきます。

無職    パリからでしょ、近いじゃん、平気だって、疲れてないって、おれも乗

      り継ぎで日本から今来たばかりだけど、すごい元気だよ、ほら、一緒に

      食べたほうがいいって、片づけることなんてないし、準備なんて後です

      ればいいよ、明日入院じゃないんだから。

漫画家   けど、暴飲暴食は避けて、整えないと、アルコールもだめじゃないです

      か。

無職    ええぇ、なに、ただの昼ごはんだって、まだ何も暴れてないし、酒だっ

      てなんだって大丈夫だからさぁ……、あっ、今回が初めてなんだ。

漫画家   いえ、日本で何度も受けてます。

無職    そうなの、ベテランなんだ、すごいね、おれは日本じゃないよ、すごい

      ね、ならわかるじゃん、そんなにならなくても大丈夫だって、一緒に食

      べよう。

漫画家   知っているからそうするんですよ、せっかくここまで来て、入院できず

      に帰らされたら、金も時間も無駄になるじゃないですか。

無職    あぁあぁ、やっぱこっちは初めてなんだね、よっぽどじゃなければみん

      な大丈夫だって、ねえ、一緒に食べようよ、一人で食べたって何もおい

      しくないからさぁ、嫌なら食べなくてもいいし、飲まなくていいから、

      ねえ、積もる話もあることだし、ただテーブルに座っているだけでいい

      から。

漫画家   遠慮しておきます。ふん、なんでこんな疲れているときに、こんな馬鹿

      の相手をしないといけないんだ。

無職    なんだよ、一人で食べるなんて、寂しくて、もったいないじゃんか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る