『転移のブレスレット』
「はいよ、これが『転移の指輪』と魔力吸収結晶を使って作った、『転移のブレスレット』だ。大切に使うんだよ」
「「ありがとうございます」」
ダンジョンをクリアした翌日、俺とサリアは冒険者ギルドに勧められた魔道具の店にやってきていた。
さすがはギルドが紹介してくれた場所だ。
まさか半日で完成してしまうとは思わなかった。
店主のお婆さんが説明してくれる。
「この『転移のブレスレット』があれば、無制限にテレポートを使える。ただし一日の使用回数に制限があって、一度使ったあとは二十時間の魔力チャージが必要だよ」
まあ、だいたい一日一回使えると覚えておけばよさそうだ。
「ただしブレスレット一つで最大十人までまとめて移動できる。そのときはブレスレットの持ち主に触れ合ってなきゃいけない。移動先はブレスレットに登録しているところのみだから注意するように。他に質問はあるかい?」
俺とサリアは首を横に振り、それぞれブレスレットを受け取った。
代金を払って店を出る。
「話には聞いてたけど、本当にすごいものが手に入ったな」
一日一回しか使えないとはいえ、無制限の転移アイテムなんて破格すぎる。
しかも俺とサリアので二つある。
行きにどちらかのブレスレットを使い、帰りにもう片方のブレスレットを使えば、俺とサリアが二人でいる限り世界中のどこでも日帰りで行けてしまうのだ。
すごすぎないか?
「サリア、一回試してみよう」
「そうね」
まず、魔道具屋の前をブレスレットに登録する。
登録の仕方はこんな感じだ。
まずブレスレットに手を当てて魔力を流す。
そうすると登録モードになってブレスレットから魔力が返ってきて、使用者の足が光る。
この状態で登録希望地点に足をつけ、一分間立ち続ける。
これで仮登録が完了。
再びブレスレットに魔力を流すと、ステータスウインドウのような半透明の小さな画面が出てくる。そこには空欄があるので、「フレグルの魔道具店前」と登録名を宣言する。
これで手続きは終了。
いよいよ使ってみる。
街の端まで移動し、サリアには俺の腕を掴んでもらう。
『転移のブレスレット』に魔力を流し、ウインドウを出す。『フレグルの魔道具店前』を選択。
シュンッ!
すると目の前には、ブレスレットを作ってもらった魔道具店が。
「本当に転移した……」
「ユーク、ブレスレットの転移残数が減ってたりはしない?」
「ちょっと待ってくれ。えっと……残数の表示はないな。『回復まで残り19:59:11』だそうだ」
「二十時間で残数が回復するって嘘じゃなかったのね。すごいアイテムだわ」
サリアが感動している。
最強パーティにいたというサリアがこの反応なんだから、『転移のブレスレット』の性能の高さがわかるな。
と、なんだか道行く人々に微笑ましいものを見る目で見られている気が。
『ほら見てよ、あの二人』
『あんなにしっかり腕組んじゃって……可愛いわねっ』
……
「「あ」」
『転移のブレスレット』の適用を受けるため、サリアは俺の腕を掴んでいる。
しかも離れないように、ぎゅうっと体を押し付けるようにしてだ。
サリアの胸のあたりが寄せられて、ふわふわと柔らかい感触がする。
「ち、違うから! これはそういうんじゃなくて」
「わ、わかってる。転移するときの事故防止だよな」
サリアは慌てて手を離し、俺もしばらくサリアの顔を見られなかった。
なんか微妙に恥をかいた気もするが、とにかく『転移のブレスレット』の実験は終了した。
サリアと一緒に家に戻る。
「おかえりなさい、兄さん。サリアさんも来てくれて嬉しいです!」
「ただいま」
「なんだか悪いわね、連日来ちゃって……」
サリアが微妙に居心地悪そうにしている。
別にこっちが誘ってるんだから気にしなくていいのになあ。
ファラは真面目な顔で言った。
「サリアさんは兄さんのパーティメンバーなんですから、一緒にいるのは自然なことです。それに親睦を深めるのは必要だと思います」
「そ、そうかしら」
「そうです」
もっともな理由で諭されてサリアの表情から硬さが抜ける。
「ファラはいいことを言うな。今日も本当に可愛いぞ」
「兄さんはあっちでお皿でも運んでいてください」
「……わかった」
最近ファラが俺に対して冷たい気がしなくもない。
「「「いただきます」」」
今日も三人で夕食を囲む。
年の近い同性がいるからか、ファラがいつもより楽しそうだ。
こんなふうに目を輝かせて喋っているファラを見たのはいつぶりだろうか。
サリアのことを、少し年上の友達のように思っているのかもしれない。
ファラは病気のせいで家から出られないので、こういう機会は貴重だ。
……ふむ。
「サリア、お前どこに宿を取ってるんだ?」
「冒険者通りの宿だけど、それが?」
「お前も今日からここに住まないか?」
「は、はあっ!?」
サリアが裏返った声を出す。
「い、いきなりなに変なこと言ってるのよ」
「サリアと一緒にいられる時間をもっと作りたいんだ」
「そんなこと急に言われても困るっていうか……」
「それに――一緒に寝たり風呂に入ったりすれば、もっと仲良くなれるだろう?」
「あんた本当になに言ってんの!?」
ファラとサリアは同性だし、男の俺にはできない過ごし方もできる。
せっかく知り合ったんだからぜひ関係を深めてほしい。
「兄さん……多分言葉足らずですよ……」
「そうか? 単純に、ファラとサリアが仲良くなれればと思ったんだが」
俺が言うと、サリアが顔を真っ赤にして「わかるわけないでしょうが……!」と睨んできた。
そんなにひどい言い方をしただろうか。
「えっと、私もサリアさんがこの家にいてくれるなら嬉しいです」
ファラも俺の提案に賛成のようだ。
「ファラがいいなら、ありがたくお言葉に甘えようかしら」
「いいんですかっ?」
「パーティの打ち合わせとか、近くに住んでる方が色々やりやすいもの。パーティで拠点を借りるっていうのもよくあることだし」
というわけで、サリアが一緒に暮らすことになった。
賑やかになるな。
「ただし、ユークが変なことしたら燃やすから」
「神に誓ってなにもしない」
家が燃えるのは冗談抜きで色々と困る。
「それじゃあさっそくサリアさんのお部屋の準備をしてきますね!」
ファラは嬉しそうにそう言い、部屋を出て行った。
「……ユーク。ファラってなにか訳あり? ずっと包帯巻いてるけど」
そうか。
そういえばファラの病気について、サリアには説明していなかった。
「あ、言いたくないならいいわよ」
「いや、別にむしろ知っておいてもらった方がいい。ファラは病気なんだ。……呪いの一種を受けてるみたいで、定期的に解呪薬を飲まないとすぐに倒れてしまう。この家には特殊な魔法陣が刻まれてるから、家を出ない限りは酷いことにはならないけど」
「呪い……」
呪いは毒よりさらに高位の害をなすものだ。
その効力は肉体のみならず魂にまで及び、解除するには高価な薬が必要になる。
「なるほどね。この家にも不思議な魔力が充満してると思ったら、ファラの体を守るためだったのね」
「ああ。家を建てるときに母がそういう仕組みを作ったらしい」
「呪いの原因に心当たりは?」
「それがまったくない。ある日突然、ファラの体に黒い影のようなものが浮かび上がったんだ。医者を呼んだり色々したが、どうにもならなかった」
結局対症療法として、汎用の解呪薬でごまかしていた。
解呪薬にも種類があり、効き目の強いものは値段が張る。
それを買うために俺はレイドたちのパーティに参加していたのだ。
「……あたしに神聖魔術の心得はないわ。けど、約束する。ファラのためになるようなことに気付いたら、必ず言うわ」
「ああ。ありがとな」
サリアは優しいな。
この言葉が聞けただけでも、サリアと組んでよかったと思えた。
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