VSダンジョンボス
『シャアアアアアアアアアアアアアッ!』
ゴバッ!
メタルサーペントが大きく開いた口から雷撃を吐き出す。
俺はそれを【身体強化】で向上させた敏捷力ですべてよける。
魔剣を起動。
ヴンッ、という音を立てて輝く刃が低空に軌跡を描く。
『シャアッ!』
メタルサーペントの全身を青白い電流が覆った。
「雷の鎧……ギルドで聞いた通りだな」
これでは近づけない。
遠距離攻撃の雷属性ブレス。
さらに、接近戦を阻む雷属性のバリア。
この二つがメタルサーペントの持つ強力な特殊能力だ。
討伐推奨レベルは60。それも複数人が前提。
現在の俺のレベルはまだ43だ。
普通にやれば絶対に勝つことはできない。
だが、俺は一人で戦っているわけじゃない。
「いくわよ! 【フレイムアロー】!」
サリアが放った炎の矢が降りそそぐ。『ギシャアアアアアアアアアッ!?』とメタルサーペントの絶叫。
メタルサーペントの放電バリアは鱗のあちこちにある、目のような紋様から放出される。
サリアの炎の矢はそれらをおそろしい精度で射抜き、次々と破壊していく。
放電バリアが消失した。
あとは俺の仕事だ。
「おおおおおおおおおおおおおおっ!」
雷属性の特殊能力以外にもメタルサーペントにはもう一つ特徴がある。
それはこのダンジョン全体にも言える通りの圧倒的な防御力だ。
メタルサーペントの鱗はこのダンジョンのどんな魔物より硬い。
だが。
ザンッ!
『ギシャアアアアアアアアア……アア、ァア……ッ!』
ぼとり、とメタルサーペントの首が落ちる。
俺の光の魔剣はどんな防御だって切り裂ける。
首を切断されたメタルサーペントはその全身を魔力の塊に変えて霧散させた。
メタルサーペントの死体があった場所に、二つの輝く指輪が落ちていた。
「これが転移の指輪か……!」
やった! これがあれば遠くの街での仕事を受けても、毎日ファラのもとに帰れるようになる!
「やったわね、ユーク!」
「ああ!」
転移の指輪を握りしめたまま、もう片方の手同士で俺とサリアはハイタッチした。
じんじんと痺れる手を見ていると、自然と口元が緩む。
「……ははっ」
「な、なに笑ってるのよ」
「いやあ、こんなふうに喜び合うのは初めてだったから嬉しくてさ」
レイドたちのパーティにいた時は敵を倒して盛り上がっても、俺はその輪の中にいなかった。
笑い合うレイドたちの声を聞きながら、ドロップアイテムを拾う。
それが俺の役割だった。
だからこうして、一緒に戦った仲間と勝利を分かち合えるのが嬉しい。
「……私も」
サリアが小さな声で何か呟く。
「ん? どうした?」
「なんでもないわよ! それより早く奥に行きましょう」
「あ、ああ」
ダンジョンボスを倒すとコアのある最深部へと到達できる。
それに触れることでダンジョンの出口までワープすることができるという便利なものだ。
ちなみにだが、このコアはダンジョンボスを倒した人間を記録する機能もある。
記録されるとその人間はもうボスのいる広間には入れなくなってしまう。
まあ、ダンジョンからするとボスを一回生み出すのも大変だろうし、ボスを倒せるような人間に何度もやってこられては困るんだろう。
キィンッ
コアに触れると、次の瞬間にはもうダンジョンの出口に俺たちはいた。
本当にクリアしたんだな……
「ユーク、冒険者ギルドに行きましょう」
「ギルド? ……あ、そうか。ダンジョンをクリアしたら報告しなきゃいけないのか」
そういう決まりがあるのだ。
冒険者ギルドは冒険者たちの戦力を把握しておかねばならず、ダンジョン踏破など、達成したら報告必須なことがいくつかある。
冒険者ギルドに行ってダンジョンクリアの報告をする。
「だ、ダンジョン攻略……? 失礼ですが、お二人だけでですか?」
「はい。これが証拠の『転移の指輪』です」
「ほ、本物ですね」
いつも受付をしてくれている女性職員が俺とサリアの指輪を鑑定し、それが本物だと認める。
「驚きました……! それでは書類を作りますので、いくつか質問に答えていただけますか? あ、すぐに終わるので大丈夫です」
女性職員の質問に答えていく。
すると女性職員の顔色がだんだん青ざめてきた。
「ひ、光属性の魔剣……? 『魔剣士』のジョブ? スキルレベル最大の【近接魔術】……?」
「はい。あの、なにか知っていることはありませんか? どうも俺もまだ自分のステータスについてよくわかっていなくて」
「わかるわけないでしょう! 魔剣を実戦で扱える人なんて聞いたことがありませんよ!」
「こうなると思ったわ」
混乱したような女性職員の叫びに同意するサリア。
冒険者ギルドの職員でもわからないのか。
なんか怖くなってきた。
「と、とりあえずなにかわかり次第お伝えしますね」
「ありがとうございます」
「それでは最後の質問ですが、ダンジョンクリアの所要時間を聞かせてください。出発したのはいつ頃ですか?」
俺とサリアは正直に答えた。
「「今朝です」」
「え……? きょ、今日の朝ですか? ということは一日で『レイザールの岩窟迷宮』を踏破したと……?」
こくりと俺とサリアが頷く。
そういうことになるな。
「……史上最速です」
「え?」
「あなたたちが『レイザールの岩窟迷宮』の踏破タイムで史上最速を塗り替えたんです! これは歴史的快挙ですよ!?」
えええええ。
俺とサリアはその後しばらく、冒険者ギルドで攻略の詳細について聴取を受けることになったのだった。
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