罠の先には……

「こんなところに道があったのか」


 俺は好奇心を刺激され、そっちに進んでみる。

 何があるんだろうか?

 こういうスリルや冒険も、ダンジョンに潜る醍醐味だ。

 少しわくわくしながら進んでいくと。


 ……いきなり地面に穴が空いた。


「うおおおおおおおおおおおお!?」


 そういえば冒険者ギルドの職員が説明していた。

 ダンジョンは生きている。

 だからこそドロップアイテムなどの仕組みを作り、人間を呼び寄せようとする。

 また、呼び寄せた人間を罠にはめようとすることもある、と。

 俺は見事に罠にはまったらしい。


「……っと!」


 なんとか両足を踏ん張って着地。

 落とし穴の下は天井の高い広間となっていた。

 前方には巨大なゴーレムの姿がある。

 俺の姿を認めると、ギュウン、という音を立てて顔の真ん中に目のような光が灯る。


『宝ガ欲シケレバ、我ヲ倒スガイイ』


 喋った! こんなこともあるのか。


 ゴーレムの奥にはアイテムボックスがある。


 あの中にはダンジョンが人間を釣るために用意したエサ――何らかのアイテムがあるはずだ。

 それは強力な武器だったり、特殊なアイテムの素材だったりする。

 目の前の巨大ゴーレムは恐ろしいが、ここで引いたら冒険者の名が廃る。


『オオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

「うおっ!?」


 ゴーレムが次々と撃ちおろしてくるパンチをかわす。

 俺を見失ったのかゴーレムが動きを止める。チャンス!


 ザシュウッ!


「浅いか!」


 ゴーレムの胴体が分厚すぎて、俺の魔剣のリーチじゃ両断できない。

 なら、足だ。

 俺はゴーレムの巨体を支える足の関節部分を狙って斬りつける。


『グゥウ……ッ!』


 ゴーレムは自重を支えきれずに倒れ――俺はその頭部へと魔剣を突き入れた。

 ゴーレムには動力源となる核がある。

 それを貫かれたゴーレムは、『見事ダ』と唸り、力尽きた。


「勝てた……!」


 強敵だった。ワイバーンより強かったと思う。

 ドロップアイテムとして、水晶の塊のようなものが落ちたので拾っておく。

 普通の鉱石じゃないな。

 魔力効果がついてるものだろうか?

 まあ、ドロップアイテムについては今考えても仕方ない。

 ギルドに持っていけば鑑定してもらえるし、考えるのは後回しにしよう。


「さて、これの中身は何かな」


 いよいよ巨大ゴーレムが守っていたアイテムボックスを開ける。

 アイテムボックスというのは中身が完全なランダムで、入っているのは超レアアイテムから外れアイテムまで色々だ。

 ダンジョンは人間の需要を細かく把握できていないんじゃないか、とはギルドの論。


 とにかく、このアイテムボックスは魔物のアイテムドロップと並ぶダンジョン攻略の魅力と言っていい。

 わくわくしながらアイテムボックスを開ける。


 中に入っていたのは、特殊な魔術陣が刻まれた古い鞄だった。


「これ、まさか魔法鞄マジックバッグか!?」


 似たようなものを見たことがある。

 レイドが確かこんな外見のものを持っていた。確か魔王討伐のために国王から貸し与えられた国宝だとかなんとか。あれ、ダンジョン産だったのか。

 容量は限られてこそいるものの、これがあればダンジョン探索が大いに楽になる。


 俺は背負っていたリュックや、ゴーレムからドロップした水晶を魔法鞄の中にしまう。


 ちなみに魔法鞄は内部が異空間化しているため、どれだけものを入れても重くならない。

 本当に便利な鞄である。


 そうだ、一応ステータスもチェックしておこう。



ユーク・ノルド

種族:人間

年齢:18

ジョブ:魔剣士(光)

レベル:35

スキル

【身体強化】Lv6

【魔力強化】Lv3

【持久力強化】Lv2

【忍耐】Lv2

【近接魔術】Lv10

【気配感知】Lv1



 俺自身のレベルはさっきと比べて5も上がっている。

 スキルは【身体強化】のレベルが1、【魔力強化】のレベルが2上がっている。

 ……一日でこんなに上がるものだろうか?

 【気配感知】のスキルが発現したこともそうだ。

 レイドのパーティに参加していたときは、こんなに一気にステータスが変化することはなかった。

 なにか理由でもあるんだろうか。


 まあ、今は考えていても仕方ない。

 さて、ここにはもう用はなさそうだが――


 ガラガラガラ


「出口を作ってくれるのか。親切設計だな」


 広間の一部が崩れ、通れるようになった。

 ダンジョンは自らが生み出した魔物によって人間を倒すことで、その人間の魔力を吸収するとされている。

 この広間にはさっきのゴーレム以外の魔物は生み出せないから早く出ていけ、ということだろう。


 遠慮なく脱出させてもらう。


 で、ここはどこなんだ?

 落とし穴のせいで正確な場所がわからないんだが。


『――きゃあっ!』

「……!」


 なんだ今の、悲鳴か?

 声の感じからして遠くない場所だった。


 俺は思わず声の聞こえたほうに駆け出した。

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