魔剣
「こんな出力の魔剣なんて聞いたことねえぞ。普通、刀身をうっすら魔力が覆うくらいって話だが……」
ダンカンさんが俺の握る魔剣を見て呻く。
いや、これはもうそんなレベルじゃないんだが。
魔力の出力が高すぎて刀身がもはや見えない。剣の形をした光の塊が柄から伸びているような感じだ。
「せっかくですから試し斬りでもしてみたらどうですか?」
ハンナさんがそう提案する。
「それじゃあこの『ハードメタル』の塊でどうだ」
「ダンカンさん、いいんですか?」
「いいってことよ。なんせこれ、ノリで仕入れたら硬すぎて加工できなかったあまりものだからな。邪魔で仕方ねえんだ」
この人自由だなー。
まあ、そういうことなら遠慮なく試し斬りに使わせてもらおう。
「いきますよ」
俺は魔剣を構える。
そんな俺を見て、ダンカンさんは肩をすくめた。
「ま、さすがにこれは斬れねえと思うけどな。なにしろハードメタルは市場に出回ってる鉱石の中じゃあ世界一硬いって言われてるくらいだ。加工には専用の器材が必要になる。そんなもん、そうそう斬れるわけが――」
スパンッ
「斬れてるじゃねえか!?」
目を丸くするダンカンさん。
すみません、正直こうなる気がしてました。
「光属性の魔剣、か。光属性の魔力はあらゆる魔力の中で一番攻撃力が高いって聞いてたが、魔剣にするとここまでの威力になるのか……」
「すごい切れ味ねえ」
ダンカンさんとハンナさんが驚いたように呟く。
世界にはいくつもの種類の魔力がある。
炎、水、風、土、雷、樹の基礎六種に加えてその他の特殊属性。
俺が使える光属性は特殊属性の中でももっともレアとされており――その特徴は圧倒的な威力の高さだ。
同じ魔力を込めた魔術でも、基礎六種の中でもっとも攻撃力の高い雷属性の十倍以上火力が出るらしい。
だからこそレイドはレベルの低い俺をパーティに入れていたのだ。
もっとも俺は遠距離魔術を使えなかったせいで、レイドたちにはお荷物扱いされていたが。
そう、俺は落ちこぼれだったのだ。
けれど見つけたかもしれない。
俺の光魔力を活かせる戦い方を。
「ダンカンさん、この魔剣を売ってくれませんか!? 金は必ずいつか払いますから!」
レイドのパーティを追い出された今、俺には一人で金を稼ぐ力が必要だ。
それにはこの魔剣がどうしても欲しい。
ダンカンさんはにやりと笑った。
「せっかく面白いモンを見せてもらったんだ。タダでいいぜ?」
「いや、さすがにそれは」
「やれやれ、じゃあこうするか。条件一つ飲んだらその魔剣を譲ってやる」
条件?
ダンカンさんはこう告げた。
「実は東の森にはぐれワイバーンが棲みついたらしい。ワイバーンの鱗と牙はいい素材になるが、討伐するのは簡単じゃねえ。……ワイバーンの素材と交換でどうだ。もちろんその魔剣は使って構わねえ」
神妙な顔で言うダンカンさんに俺はごくりと喉を鳴らす。
ワイバーンは強敵だ。
推奨討伐レベルは40。
レベル22の俺が倒せる相手じゃない。
だが、この光の魔剣があれば勝てるかもしれない。
「……わかりました。やってみます」
俺は頷き、東の森に向かった。
▽
『ガルアアアアアアッ!』
「うおっ……」
ワイバーンが口を開けて襲い掛かってくるのをかわす。
俺は武器屋を出たあと、東の森でワイバーンと戦っていた。
ワイバーンは数ある魔物の種類の中でも『竜種』に分類される。
このカテゴリの魔物はとにかく全体的な能力が高い。
動きも早く、攻撃力も高い。種類によってはブレスも吐いてくる。
だが、ついていける。
【身体強化】のスキルのおかげだ。
俺はもともと近距離での戦いのほうが得意なのだ。
そのため、今までは魔力が完全に死にステータスだった。
だけど今の俺には、光属性の魔力を活かす手段がある!
「はああああっ!」
【身体強化】で脚力を強化し、ジャンプしてワイバーンを斬りつける。
ジュウッ!
『ギャアアアアアアアアアアアアアアア!』
ワイバーンは胴体を二分割されて墜落する。
これが光属性の威力か!
とんでもない攻撃力だ。
光属性魔力。
さらに得意だった近接戦の技術。
それらが信じられないくらい上手く噛み合った感覚があった。
この魔剣こそが俺に足りないピースだったのだ。
――しゅわんっ。
と、俺の体が淡い光に包まれる。
これはステータスに変化があったときの現象だ。
俺は慌てて自分のステータスを確認する。
ユーク・ノルド
種族:人間
年齢:18
ジョブ:魔剣士(光)
レベル:27
スキル
【身体強化】Lv5
【魔力強化】Lv1
【持久力強化】Lv2
【忍耐】Lv2
【近接魔術】Lv10
ジョブが変わっている!
魔剣士……? 聞いたことがない。どういう特徴があるんだ?
また、レベルが5も上がっている。
気になるのは【近接魔術】というさっきまでなかった新しいスキルだ。
名前からすると、射程が短い魔術の効果が上がるものだろう。
やたら魔剣の威力が高いのはこれのせいか。
どうりでワイバーンを一撃で倒せるわけだ。
というかスキルレベル10って、上限じゃないか!
スキルは経験によっていきなり出現することがある。また、スキルレベルは素質によってはいきなり高い数値から始まることもある。
だが、いきなりスキルレベルが上限だなんて聞いたことがない。
いや待てよ。
俺は今までだって魔術の訓練を続けてきた。
しかし遠距離魔術を強化する【遠隔魔術】のスキルは全然現れなかった。
もしかすると、あの訓練は【近接魔術】の修行としてカウントされてたのか?
その可能性はある。
というかそうとしか考えられない。
「ははっ……そうか、俺の努力は無駄じゃなかったのか……」
目に涙がにじむ。
ずっとレイドのパーティでお荷物扱いされ、プライドなんてなくなっていた。
だが俺は久しぶりに強くなる高揚感を思い出せた。
俺はこれからもっと強くなる。
レイドたちに頼らなくてもいいくらいの実力を身に着けてやる!
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