Fランクの光魔術師ですが、チートな魔剣士に覚醒しました
ヒツキノドカ@書籍発売中
プロローグ
「悪いけどユーク、君は今日でクビだ」
パーティリーダーにして、神託の勇者でもあるレイドがそう告げた。
「ま、待ってくれ。なんの冗談だ?」
「悪いけど冗談なんかじゃないよ。君は僕たちのパーティにふさわしくない」
俺は慌てて周囲を見る。
若き天才魔術師キャシー。
数々の戦場を潜り抜けてきた歴戦の戦士ウォルド。
聖女セシリア。
一年間ともに戦い抜いてきた彼らは、俺を庇おうとする素振りすら見せない。
むしろ馬鹿にしたように俺を見て笑っている。
そんな、嘘だろ。
俺たちは絆で結ばれたパーティメンバーじゃなかったのか。
「ユーク、君は珍しい光属性魔術の適正を持っていた。けど、それが何の役に立った? ろくな遠距離攻撃もできないじゃないか」
レイドの言う通り、俺は光属性の魔術適正がある。
しかしいくら適正があっても魔術の才能が俺にはなかった。
遠くの敵に当てようと思っても、俺の体から二メートルも離れると魔術が消えてしまうのだ。
遠距離攻撃ができない魔術師に価値なんてない。
「け、剣術でなら役に立てる」
「前衛は間に合っている。はっきり言って君はお荷物なんだよ」
レイドはゴミを見るような表情で吐き捨てた。
「ま、待ってくれ! お前たちも知ってるだろう。俺には病気の妹がいるんだ。頼む、ここでの稼ぎが俺には必要なんだ!」
妹の病気は普通のものじゃない。
治すどころか、無事に生きていくための薬代だけでかなりの金が必要になる。
俺は必死に頭を下げた。
両親をすでに失った俺にとって妹は――ファラは今やたった一人の大切な家族なのだ。
「妹ねえ……」
「そ、そうだ。頼む。俺にできることなら雑用でもなんでもする!」
俺が言うと、レイドはにやにやと笑いながら首元のペンダントを外した。
木彫りで素朴なデザインのそれは、俺の妹が作ったものだ。
パーティメンバーを守ってくれるように、と願いを込めて一つ一つ手作りしたお守り。
バキッ!
レイドはそれを粉々に握り潰した。
「ああっ!」
木くずと化したペンダントの残骸をレイドは床に捨てる。
「こんなダサい首飾り、いい加減つけてるのも恥ずかしくてね。妹さんに言っといてくれよ。わざわざゴミをプレゼントしてくれてありがとうってね。はははははははっ!」
笑い声を上げるレイドに脳が沸騰しそうになる。
――いつもごめんなさい、兄さん。
――私にはなにもできないけど、これくらいはさせてください。
――バーティのみなさんが無事でいられますように。
ペンダントを作っていたときの妹の様子が脳内にフラッシュバックする。
レイドはそんな妹の気持ちを踏みにじったのだ。
「本当よねー。もっとかわいいのなら着けてあげてもよかったけどぉ」
「気持ち悪いんだよ。こんなもんが何の役に立つってんだ」
「お二人とも、あまり言わないで差し上げましょう。彼の妹にとっては精いっぱいの贈り物なのですから」
キャシー、ウォルド、セシリアの三人も口々にそう言い、揃いのペンダントを外して俺の足元に投げつけてくる。紙くずでも捨てるみたいに。
それを見て、俺の中でなにかが弾けた。
「お前らぁあああああああ!」
ガン! と視界が揺れた。
目の前のやつらを殴ろうとしたら、逆にレイドに殴り飛ばされたのだ。
レベル差がありすぎて、たった一発で俺は立つことすらできなくなる。
「はっ! 勇者の僕にゴミがかなうわけないだろ、バカが!」
「待て……妹に……ファラに謝れ」
「なんで僕が謝らなきゃいけないんだ? さっさと出ていけ、この役立たず!」
俺は抵抗すらできずに宿を追い出された。
それが一年間所属した勇者パーティとの別れだった。
▽
「くそっ……くそっ! 何が勇者だ! ふざけるな!」
レイドたちの宿を追い出されたあと、俺は街の路地裏で叫んだ。
悔しかった。
仲間だと思っていたパーティメンバーに見下されていたことも。
大切な妹を馬鹿にされたことも。
そして何より、そんなレイドたちに反撃すらできない自分の弱さが。
「……ステータスオープン」
俺の眼前に半透明のウインドウが表示される。
ユーク・ノルド
種族:人間
年齢:18
ジョブ:魔術師(光)
レベル:22
スキル
身体強化【Lv5】
魔力強化【Lv1】
持久力強化【Lv2】
忍耐【Lv2】
これが俺のステータスだ。
冒険者歴三年でこれは、はっきり言って弱い。レイドは俺とは同い年だが、レベルが70を超えていたはずだ。
「……もっと強くならなくちゃな」
もう馬鹿にされるのはごめんだ。
自分のことも、妹のことも。
それには今のままではいけない。
気持ちを切り替えて前に進もう。
強くなるんだ。
俺は路地裏を出てなじみの武器屋へと向かった。
「いらっしゃい! ……って、ユークの坊主じゃねえか」
「まあ、よく来てくれたわねえ。嬉しいわ」
「お久しぶりです、ダンカンさん、ハンナさん」
大柄でこわもての巨漢がダンカンさん、年に似合わず若く見える美人がその奥さんのハンナさん。
この二人は俺が小さい頃からよくお世話になっている恩人だ。
レイドたちはもっと高級な武具店に行くが、俺はずっとここを利用している。
「そんで今日は何しに来たんだ?」
「剣のメンテナンスをお願いしたくて」
魔術師のジョブなのに魔術が使えない俺にとって、剣は生命線である。
強くなるといってもすぐに結果が出せるわけじゃない。
まずは自分にできることをしつかりとやるのが正しいはずだ。
「よしきた、任せな――と言いたいとこだが、こりゃ無理だな。使い込みすぎだぜユーク。もうこの剣は寿命だ」
「寿命、ですか……」
確かに今の剣は冒険者になったばかりの頃、ダンカンさんにもらって使い続けているものだ。さすがにそろそろ限界がきてもおかしくない。
「じゃあ、替えの剣をいただけますか? あまり高くないもので……」
「値段のことなんて気にすんな、いくらでもツケさせてやる」
「助かります」
今はレイドのパーティを追い出されたばかりで金がこころもとない。
「ああそうだ、ちょっとしたツテで、面白いもんが手に入ったんだ」
「面白いもの?」
「ハンナ、持ってきてくれ」
ハンナさんが店の奥から取ってきたのは銀色の輝く美しい剣だった。
「ミスリルを使った特別な剣――いわゆる魔剣ってやつだな。このままだと切れ味はゼロだが、魔力の高い人間が使うと刀身にマジック効果がつくらしい。炎や雷を纏ったりな」
「面白い剣ですね」
「だが、よっぽど魔力が高くないと起動すらしないらしい」
試しに握ってみな、と言われて俺は魔剣を受け取る。
魔力の高い人間、か。
俺もいちおう魔術師の端くれだ。
なぜか魔力が遠くに飛ばず、たいした威力の魔術は使えないが、それでもレアな光属性魔術の使い手である。
少しくらい期待してもいいかもしれない。
「ところでダンカンさん。これで魔剣が発動したらちょっとまけてくれませんか?」
俺の軽口にダンカンさんが笑った。
「おう、いいぞ。発動したらな。でもそれ、宮廷魔術師でも滅多に使えるやつはいないらしいぜ」
「そうですか。まあ、さすがにそうそううまくいくわけがないですよね」
「ははは、まあ世の中そんなもん――」
俺がそう言いながら剣を握って魔力を込めると。
ヴゥンッ、という音を立てて、刀身を覆い尽くすほど膨大な閃光が噴き出した。
「「うまくいったぁあああ――――!?」」
「あらまあ」
俺とダンカンさんは声を揃えて叫び、ハンナさんは驚いたように目を丸くしていた。
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