デジャブ
泣き顔の仮面は記憶をたどっていた。デザとトールズが守られる様子をみて。
(なんだこの既視感は、本当はあいつらが悪いのに、最初から潔白で何の罪もおかしてこなかった自分がこんなみじめな目にあい、むしろ罪を犯して、悪いことをしたやつがもてはやされる……あいつはかつて俺の友人をいじめ転校させ、彼はつい最近自ら命を絶ったというのに、なんでああいう奴らだけ、自由に生きているんだ)
その時、エージェントグインが口火を切った。
「デニー君」
「!」
「君は魔女の話が全て本当だと思っているのかい?」
「!?」
「魔女は、時にうそや詭弁によって人を洗脳する事がある、君が彼を恨むのはよく理解できるが、その話の中に整合性のない事はないかい?」
「何を、わけのわからない事を、今はそんなことどうだっていい、長年の恨みは本当だ!!」
泣き顔の面をつけたデニーの右手は、白くなりもりもりともりあがりまるで怪物のように尖ったツメをてにいれた。
「デニー君、待て、君にグルトが嘘をついている場合、君は嘘のために人を傷つけることになるんだ」
「長年いじめられてきた、この怒りは本物だ!!」
その間にトムがたちはだかり、体に風をまとった。
「倒すなら俺も倒せ、俺たちは奴の度を過ぎた悪さをとめられなかった、でも、お互いの事を本音で話せるなかでもなかった、俺たちは、悪さをする事でギリギリ親友だったのさ、あいつの悪さをとめたら、仲間じゃないといわれる気がして……」
「だまれえ!!」
決着はあっけなかった。デニーのほうが右手にさらに強い風の魔法をまとわせて、トムを吹き飛ばす。そしてその目はエージェントグインのほうをむいて、徐々に速度をはやめていった。
「うあああああ!!!クソがあああ」
次にデニーとデザ、トールズの間に両手両足をひろげ、グインがたちはだかった。デニーはグインを勢いよくなぐりつける。
《ゴンッ!!》
だがグインはびくともしなかった。その足は、地面からもりあがった土と同化していて、そこから一歩もうごかなかった。
「くそ、土魔法使いか!!」
グインはデニーの左手を掴んだ。
「君の魔法はまだ不完全だ、今なら戻れる、本物の“魔獣化”したら、人を苦しめ殺すまで人に戻れなくなるぞ!」
「それが何だっていうんだ!!」
そういってデニーは、人差し指のツメでグインを刺した。
「う、うう」
デニーはトールズとデザを追いかけた。そしてすぐ背後にまでに迫ったころ、その瞬間、結界がとけ、突風はきえさり、ロズ刑事とリーヌが中にはいってきた。ロズ刑事が叫び声をあげる。
「動くな!!動くと撃つぞ!!その手を下ろせ、少年、今ならまだ間に合う」
ロズ刑事はすかさずホルダーから銃をとりだし、デニーに向ける。
「何のつもりだ?刑事、まさか俺を撃つのか?悪いのはあいつらだ」
「だとしても解決策はそれじゃない、君は自分を不幸にしてまで、そいつを憎むのか、死にたいのか?」
「死の覚悟なんてある!!」
右足に力をこめた、その時何かを踏んずけた気がした。そして体中を痛みと衝撃が走った。下を見ると、ロケットペンダントのようなものを踏んづけていてそのフタが開き、デザと老婆の写真が写っていた。
「この老婆は……」
デニーには覚えがあった。以前一人で廃墟に入ったとき、幽霊のようなものを見たことがあった。そのことをグルトに相談すると“魔力と霊感は似た性質を持つ”といわれて、ぼんやりと納得していたが、あの時運わるく不良たちも廃墟にはいってきて、いつものようにいじめられると思った瞬間、体中から力が湧き出てきて、何者かに憑依されたような感じがした。それがこの写真の老婆だった、そのあと落ちていた古びたナイフをひろい、不良たちをおいはらい、あの時はいじめられずにすんだのだ。
「くっ、そんなことはどうでもいい!!」
謎の既視感と衝撃が駆け巡ったあと、刑事のいうこともきかずいっぽふみだした。
「あははは!やっとだ、やっと」
狂ったように笑うデニー。そして勢いよく走りぬける。デザがかばおうとするが、その背後に回り込んで、腕を振り上げさけぶ。
「むかつんだよ!!そういうなれ合いが!!」
そしてついにトールズの首を引き裂いた。
《グシャアア!!》
デニーの手に血がしたたり、デニーは空をむいて叫んだ。
「やったぞ!!やった、ついにやった!!」
地上ではトールズがたおれこみ、デザが叫んでいた。
「うわああああ!!」
だが次の瞬間、容赦のない痛みが全身をつらぬいた。いや、すでにそれは体をつらぬいていたのだ、そのあと遅れてすでになっていたはずの銃声が脳内にひびき、自分がハチの巣のようにうちぬかれたのだとさとって倒れこんだ。
《ドサッ>
そして先ほどと同様に足元から体中を痛みと衝撃が走り、背筋が寒くなる感覚を覚えた?
「ハッ!?」
デニーは、たった今倒れたはずの自分の姿が、先ほどまでと同じ位置にたっていて、グインが刺される前の体制で立っていることにきがついた。
「今、何がおこった?」
デニーは思わずつぶやいた、周囲の人間は誰も、彼の様子の変化に気づかなかった。いわば彼だけが数分先の自分の選択の結果の未来をみてしまったような形だった。
デザは後ろをふりむき、トールズをかばいながらその様子をみて、ぽつりつぶやいた。
「予言だ」
「は?」
「祖母ちゃんはもう一つ予言をのこしていた、あのペンダントが切れるとき、お前の選択の被害者がそれをふみつけると、彼だったんだ……彼はきっと……」
ロズ刑事が叫ぶ。
「武器をすてて、両手をあげろ!!」
「わ、わかったよ、ホラ」
デニーは右腕の“魔獣化”をとき、降伏した。
「若い子が死の覚悟なんてそうそういうものじゃない」
ロズ刑事は、デニーを捕まえ、手錠をかけパトカーの中におしこんだ。
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