グルトの記憶。

 グルトは幸せな夢をみていた。かつて、希星魔女院の優秀な生徒だった彼女は、弟と一緒に希星魔女院に通う夢を抱いていた。しかしその希望は夢半ばでついえた。希星魔女院には卒業はない。その代わり、研究生と学生とにわけられる。いうなれば研究生という称号を与えられ、罪さえ侵さなければ希星魔女院にいて、魔女の世界のために働き続けられるのだ。罪さえ侵さなければ……。


 グルトは、すでにある種の復讐を遂げてきた。今も忘れはしない。父と母によるいじめと、そして、何よりも自分に気を使って、この世界で誰よりも愛し仲の良かった弟。弟の死を境に、姉であるグルトの様子はかわった。弟の好きだったドラッグにはまり、弟の親友とつるみ、そして、郊外に逃げ込んだ。


 そこで見たものは、この世の地獄の光景だった。魔女は、確かに差別され嫌悪されている部分もあるが魔女の提供する魔術や魔力はこの世界のために役にたっている。そう思っていたが、その郊外では、もっと別の事を要求された。

 そう“憂さ晴らしのために役に立つ事”を

 魔女は確かに役にたっている。彼女は郊外でも優秀な働きをした。小さな工場、レストランの接客、掃除。どんな仕事も誰よりも優秀な成果をだした。だからこそ、嫉妬を受けることもあるし、恨みを買うこともあった。不必要な暴力、セクシュアルハラスメント、それが日常だった。けれどもう何もかもが麻痺してしまっていた。この矛盾に気づけないことこそが、ここちがよかった。つまり

 “優秀な生徒であろうと、優秀な人間であろうと、そうでなかろうと、どのみちこの世界にとっては、異端である”という事。

 そのことに気が付いたのは、彼の残した日記を読んでからだった。弟の残した日記には、ある魔術についての記述があった。“ネクログリモワール”死して人に魔術をかけるというものだ。そして彼女は、関係をしばらくたっていた実家に戻り、弟の部屋を探索する。そこでみつけたのは、弟の髪と爪、そして皮膚。“ネクログリモワール”に必要な材料だった。



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