現実で大嫌いだった幼なじみと別の世界で記憶を失くして再会したら、思ってなかった甘い関係になっていました。(仮)
かるねさん
プロローグ―大嫌いな幼なじみ
……私がずっと瑠華のそばにいてあげるから、安心して?
小さかった頃、両親は仕事でアタシはいつも近くに住んでいた幼なじみの家に預けられていた。そしてその時いつも、彼女はいつ迎えに来てくれるかもわからない親を待っているアタシにそう言った。
でもそんなの子供のアタシを落ち着かせる為、慰める為の言葉だ。……それなのに、アタシの幼なじみは今でもその言葉を引きずっているんじゃないかと思ってしまう程、高校生になった今も、幼なじみ兼姉兼母親として接してくる。
「……瑠華、また提出物出さなかったの?今日その分の課題も出たはずよね?私、今日は何も用は無いから、瑠華の家に行くわ」
当たり前のようにそう言ってくる幼なじみの怜。アタシはその言葉にうんざりした。
っていうか、あんた隣のクラスなのになんでんな事まで知ってんだよ……。こいつといるとアタシのプライバシーなんて無くなってしまう。呆れてため息をつけば、聞いてる?と顔を覗き込まれた。
「……来なくていい。今日、美穂たちと遊ぶから」
「ダメ。それは断って。いいわね?瑠華」
「……はぁ!?なんであんたにそんなこと言われなくちゃっ……!」
思わず机を叩けば、教室に残ってたクラスメイトが振り返る。アタシはその視線が嫌になって席を立った。
「……瑠華っ!」
「っ、付いてくんなよっ!」
アタシと怜のやり取りに、周りはまたかって顔。それを見ないフリして教室を出る。
「……怜、いつまで付いてくるつもりなんだよ」
なんでアタシがあんたに遊ぶ日まで管理されなきゃいけないんだ。
しばらく廊下を歩いた後、友達との待ち合わせに向かおうとして足を止める。
「私、瑠華と一緒に帰るから」
「……はぁ!?勝手に決めんな!」
「……瑠華がこの学校を辞めることになったら……私が辛いの」
振り返れば、怜に真剣な顔で見つめられて、それ以上言えなくなる。ごくっと唾を飲み込んだ後、周りに誰もいないのを確認して怜に言った。
「……あんた、いつまでアタシにお節介焼くつもり?もうほっといて」
「っ、……怜のことはおば様にも先生にも言われているわ。その髪も服装も……メイクだって。瑠華はそんなことする子じゃなかった。ねぇ……一体何があったの?私に教えてくれたら、考える」
怜はアタシの姿を見た後、スカート短い、と裾を引っ張ってくる。
何があったって……そんなの、あんたのせいだよ、あんたの……。そうひとりごちる。
脱色して染めた髪、化粧やネイルに着崩した制服。昔からアタシを知ってる怜には受け入れられない今の自分の格好の方がアタシは好きだ。
「……あんた好みじゃなくて嬉しいよ、怜」
「っ……瑠華、お願いだから話を聞いて」
「……うるさい」
「瑠華っ!……私にも言えないことなの?」
っ……なんだよ、その怜はアタシにとって特別なんだ、って自信。ただ近くに住んでただけだろ?アタシたち。
「はぁ……もうほっとけって。怜、あんたはうちの近くに住んでるご近所さんってだけ。だからアタシにそこまでする必要ない」
……いつからこうなったのか、なんて考えたくもない。いやそんなこともう考える必要もなかった。だってアタシと怜は根本的に違うんだから。子どもの頃から延々と続く鬼ごっこにアタシ自身ももううんざりしてる。
……だからもう理解することもやめた。それが一番腹が立たないってわかったし。
「っ…………」
掴まれた手を振りほどいて、アタシは怜の肩を押し返した。
みんながみんな羨ましがるアタシの幼なじみの存在。
美人だし、勉強も運動も出来て、出来の悪いアタシにずっと寄り添う世話焼きで責任感強い女の子。……はたから見れば、怜は高嶺の花ってやつなのかもしれない。
……だけどアタシは、そんな怜が嫌いだった。いつも一緒に居るからと比べられて、出来ない子、ダメな子扱いされるのはもううんざりだ。
「……怜も、自分のこと優先させなよ。……アタシのことなんてもう考えなくていい」
「……瑠華……」
「っ、わかったら……」
「―わかんないよっ!!」
「―っ!?」
怒鳴った怜に思わずひるんで後ずさる。
そしてボロボロ泣き出すあんたを見て、アタシはどうしたらいいのかわかんなくて狼狽えてしまう。
「私っ……私は瑠華のことっ……ずっとずっと、……そば、……いたのに」
嗚咽に紛れて、途切れ途切れに聞こえる声。
っ、そばにいて、なんて……そんなの……そんなの、頼んでない!
「っ、……いつまで保護者面するつもりだよ。このバカッ!」
発した言葉に思わず口を押さえると、怜は涙を溜めた目でアタシを見た。
「保護者面なんて……私はっ……!!」
伸ばしてきた怜の手がアタシの前で空を切る。
「!?っ、……ぁ……」
怜の手から逃げようとして、アタシは後ろにあった階段から逃げようとして足を踏み外していた。
ガクッと足が滑ってバランスを崩した体が宙を浮く。
ヤバッ……。
そこからは何もかもスローモーションだった。
「―瑠華っ!!!」
怜の声がやけに遠くに聞こえる。
その間も一秒が1分ぐらいあるんじゃないかと錯覚するぐらい、ゆっくりと後ろ向きに倒れていった。
階段の一番上から落ちるとか、それも頭から落ちるなんて、……これ即死んじゃうやつじゃない?なんて考える余裕があることに驚く。
あー……これが死ぬ間際ってやつか……。
あーぁ……今日雑誌の発売日だったのに……。友達との約束を思い出し、心の中でごめんと謝る。……いつも周りに反抗ばっかしていたから罰が当たったのかもしれないな。
そしてアタシの最後に目に映ったのは、驚いて目を見開いた怜。
……最後まであんたの顔見るなんて……よっぽど怜とは腐れ縁だったんだろうな、って諦めて笑っていた。
でもこれでお節介な幼なじみとの縁は切れる。……怜もアタシのことなんて気にしなくて済むし、だから……。
「――だめっ!!!!!」
「――っ!?」
このままこの世界が終わると思っていたアタシは怜の声でハッと我に返る。するとおかしなことにアタシは怜に抱きしめられていた。
「瑠華は私が守るからっ……!」
「は?」
普通だったら驚いて身動きなんて取れない。それなのに怜は何も考えずアタシに手を伸ばしたんだろう。それで落ちるのが止まるわけなんてないのに。アタシたちは二人揃って頭から落ちていく。
なっ、なんで……!?
「――っ、ぐぅっ!!」
背中に激痛。その後はもうよくわからないまんま落ちていた。
全部痛くてどこを打ったとかわからない。だけど暗い意識の中で、ただ怜の温もりだけはよくわかった。
「っ、こ、……バカッ……」
……あんたはいつもそうだ。
アタシの母親かっ!って何度も思ったし言ったけど、怜の態度は変わることはなかった。……ほんとにそのお節介な所も優等生でいつもいい子ちゃんぶる所もだいっきらい。
あんたがアタシのこと気にしなければ、アタシたちはもっと楽しい学校生活を送れたはずなのにっ……!!
「……る、…………か」
こういう時って、もっとアッサリ逝くもんだと思ってたのに、アタシは大嫌いな幼なじみの腕に抱かれていた。
耳元で聞こえた声に反応しようにも、目が重くて開かない。
「……ぅ」
……たった数秒がこんなに長いなんて思わなかった。お決まりとばかりに走馬灯ってやつが頭の中を巡るけど、アタシにあった記憶には怜ばっかり。……こんな時まであいつの顔って……アタシの人生って。
……ほんと何なんだよ、次の人生始まったら、
もう、こいつとは幼なじみやめる……!絶対やめてやるっ!!
……あんたの近所になんて絶対生まれてやるもんか。
……そしたらもう、あんたのこと嫌わなくても、すむ。
そう思ったら、心が軽くなった。
だって、アタシは……あんたを……ほんとは、
「――っ……」
……アタシの中にあった本音に気付いた時、アタシの意識はプツッと落ちた。アタシは結局迷惑ばっかかけて、この世界からもいらない子だった。
……たった一人だけ、アタシのこと最後まで諦めてなかったけど、……もうそんなことどうでも良かった。
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