君へのセレナーデ
yuzu/tappo
第1章 伊原悠
夢想曲(トロイメライ)
その子は先の見えない暗闇の中に、
独りぽつりと立っていた。
歩みの最初の一歩が踏み出せない、
そんな様子に見えた。
僕はなぜか、「止めなければ」と思った。
しかしちょうど、その子は
力を振り絞るようにして足を前に出した。
足を出した先に道は無かった。
その子は踏み外したように自由落下を始める。
無限の奈落に吸い込まれていく。
その子が小さくなっていく。
その光景を見て、
恐怖と、鮮烈な既視感に襲われた。
あの子が、
自分であるような、
他人であるような。
この光景が、
過ぎた未来であるような、
これからやってくる過去であるような。
この感情はまるで…
この光景はまるで…
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