愉怪人戦隊ダルメシアン
鱗青
一限目 悪の組織の首魁となるのもやぶさかではない
日曜日の朝。福岡市のとある一軒家のリビング。外からはランニングに勤しむご近所さんと、玄関先の掃除をしているお隣さんが爽やかな挨拶などを交わす声がほんのり聞こえてくる。
大人なら激務の疲労を癒すべく惰眠を貪り、学生ならば勉強の
「ごっははははは!我が子孫・
画面の中で暖色系(赤とかオレンジとか)のピッチリタイツに全身をくるんだヒーローが
「何いっ!そうはさせんぞ⁉︎」
などと叫ぶ…それがヒーロー番組のセオリーだよね。うん。
だけどここは撮影セットじゃないし、ていうか僕ん
窓から差し込む和やか&うららかな初夏の木漏れ日が、すっかり後退した禿げかけの
寝ぼけ眼を手の甲でこすり、よく目を凝らす。うん、何の変哲もないいつもの我が家のリビング。
「お
「今日は何の日だ、我が子孫・尚宏よ」
「普通に
「違う!」
ぐわっ、と獅子が
「お前が成人した日、つまり我が組織に正式な入隊を許された日である‼︎」
「…何?いきなりおかしかこと言い出して。僕まだ十六才やん。用事ってそれだけ?じゃ僕二度寝してくるね」
「ちょおいおいおい待て、ちょ待てヨ!」
腕をグインと伸ばして僕の肩を掴み、無理矢理対面に座らせて、お爺ちゃんは
「よいか」
「ダメ。眠かっちゃん…」
「よかけん、目ん玉かっぽじってよう聞きんしゃい!ゴホン。──
「そがんこと耳タコどころか生まれた時からしつっこく聞かされよるやん。アレでしょ?悪による世界征服ば
「リモコンから手ば離しんしゃい。…うむ、その通り。ついては代々我が家の男子直系が福岡支部の
「知ってるってば。でもそれなら、パパがお爺の
「…であった、のだが、な。あやつめ───」
口元まで持っていった茶碗が、お爺ちゃんの手の中でクッキーのように崩れた。
「今の仕事が忙しい、急に
「あー…」
僕は「いつもニコニコ⭐︎頼れる気さくな弁護士!」がキャッチフレーズの父親の顔を思い浮かべる。確かに腕はそこそこらしいし、仕事にやりがいを見出してる熱血派だからいきなり悪の組織に転職とか納得しないだろう。いくら
「それでなんか
「
しゃわしゃわと
「大体
「その
「全く最近の若者は年長者の話ば聞けんけん、つまらんばい…ほらこっち」
「?」
ぐわし!と
「
「
お爺ちゃんはもう片方の手で天井を指差し、高らかに
「
毛穴から熱い何かが侵入してくるような感覚。
やっと放してくれたとき、僕はテーブルに
「…これでよし。ワシの
「さ、最近の老人は待つことが苦手かっちゃんね…せめてもーちょっと
「それでも悪の首魁ね
「効果…?」
「そなたに最も
ようするにこの一連の流れが組織のトップになるために必要な
まだなんにも変化していない。平均よりちょっと高い身長で、まあごく一般的な高校生のまま。
「あー!もうこがん時間ね。いけんいけん、遅刻じゃ!」
急にわたわた立ち上がったお爺ちゃんは、マントやズボンをその辺に脱ぎ散らかしてリビングから続く自分の和室に引っ込んだ。
「あれ?お爺も何か用事あったと?」
「こないだ買い
「社交ダンスの人?」
「うんにゃ。公民館の
僕は立ち上がる。何だよもう、お爺ちゃんの鉤爪が食い込んだこめかみも
「その、悪の組織の──」
「
「はいはい…アルバなんとかのトップばなって、僕に何かトクあると?」
スターン!軽やかに襖が開く。先ほどの世間的には常識外れの衣装とは打って変わり、お爺ちゃんはどこに出しても恥ずかしくない渋めのスーツ姿になっていた。…胸に造花の小さなバラまで付けて。
「最近の若者は
「浪漫でご飯が食べられる時代とは違うんだよ。あ、お爺ネクタイ曲がってる」
僕は
「誰かがやらんばならん大事な役割や。お前はワシにとって生意気じゃが
「それは信じてます。…できた。うん、
お爺ちゃんは
「うむ、ご苦労」
と財布から札を出して渡してくれた。
「ありがと!お爺♬」
「くれぐれも南子さんには内緒じゃぞ。あ、
「
「ほんなごて
赤くなって
我が家ではコーラやポカリは置いていない。
チルドに並んでいるのはそれぞれ
コックを
「三分の一は貯金、あとは友達との遊びとゲーム!」
お腹も少し空いてきた。僕は
次の日。カレンダー通りの月曜日。
妙に鼻がむず痒い。ベッドの上で大きなくしゃみをして夢から覚めた。妙にリアルな怖い夢だった…ような、気がする。
ううう、暑い。冷房壊れた?
体を起こした。毛布の感触がやけに強い…あれ、眠ってる間にパジャマ脱いじゃった?
手で探った。ベッドの中に千切れたボロ布がある。
いや、違う。これは
僕が中学に入ってから愛用してる、まだサイズ的に充分着られる象さん
「えっ?」
と
「も゛っ?」
の中間地点、みたいな。
や、これ。
姿見の前に立つ。
「ウソやん…」
そこに映っていたのは、白地に黒の
とにかく、丸々としたホルスタイン牛の頭を持った
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