第18話 戦闘

「ありがとうございました!!」


 コンビニの店員の活気ある声が鼓膜を刺激する。


 俺は学校から帰宅後、板チョコを買うために、最寄りのコンビニを訪れた。板チョコは100円玉、1つで購入できた。


「やっぱりこの時間にコンビニに来るんだな。2日間、この時間を狙って張ってた甲斐があったぜ」


 俺がコンビニを退出した直後、聞き覚えのある声がした。聞くだけで怒りを覚える特徴的な男性の声がね。声色からして、おそらく奴だろう。


 俺は声がした右方向に視線を走らせた。すると、予想通り制服姿の時岡が佇んでいた。奴はカバンを肩に掛けながら、にやにやと笑みを浮かべる。


「なに?俺に用?」


 俺はじろりと目線だけ時岡に寄越す。時岡はぴくっと少し身体を動かした。


「ああっ。その通りだ。ちょっと俺に付いて来い。ちょっと、お前に教えることがあるんだ」


 時岡は瞬時に真顔に変貌すると、背中を向けてすたすたと前進した。気に食わないが、奴の背中は強者のものだった。直感でそう感じた。


 俺は嫌な予感がしつつも、時岡の後ろを追った。奴の考えまでは推量できなかった。それに、逃げたら面倒臭いことになるため、奴の指示通り素直に行動した。


 数分歩くと、周りが硬そうな壁に囲まれた空き地に到着した。空き地には遊具などは一切なく虚しい場所であった。


「よし。ここだ!」


 時岡は空き地の中に迷わず入ると、学生カバンを地面に放り投げた。ドサッとまあまあ大きな音が生まれた。おきべんはしてないようだ。


 奴はコキコキと首を鳴らした。


「お前、以前俺を邪魔したろ?その結果、俺は山田桃子の連絡先を聞かなかった。しかも、未だに入手できていない。お前が邪魔に入らなければおそらく入手できていた。だからな、お前には俺から罰を与えなければいけない。人のチャンスを潰した罰を」


 時岡はいきなり拳を鳴らしながら、こちらに近づいて来る。奴は決して楽しそうではなく、笑みのない真顔だった。


 そう。奴は人を殴る際は真顔になる。能面みたいに表情が消える。俺を殴っている時もそうだった。決して、笑顔を見せなかった。


 時岡の身体がどんどん大きくなる。距離が縮まるごとに大きくなる。奴が大男だと錯覚するほどに。


 それにしてもまずいな。


 俺は周囲を確認した。誰か人がいれば、助けを呼べるためだ。だが、敢えて人気の無い場所を選んだのだろう。そのため、誰1人として、人間が見られない。歩行者すら存在しない。


「オラ!」


 状況をいち早く打破するために、頭を巡らせていた最中、時岡の回し蹴りが飛んできた。


「っ!?」


 俺はギリギリのところで反応し、間一髪で脇腹へ目掛けて飛んで来た蹴りを左腕を使ってガードした。


 っ。いてぇー。


 だが、空手黒帯の蹴りは凄まじく、ガードしたのにも関わらず、吹き飛ばされてしまった。


「っ。まじかよ。やばいな・・・」


 俺は左腕を押さえながら、空き地の地面に床をついている。左腕はじんじんと痺れ、感覚は半分ほど麻痺している。神経がバグったらしい。


「おいおい。もう、堪えたか。勘弁してくれよ。これから、もっとお前には痛い目にあってもらうんだからよ〜〜」


 時岡は制服のズボンに付着したゴミを払い除けると、俺との距離を詰めようと試みる。


 顔を歪めて膝を付く俺を見下しながら。


 ははっ。どうすればいいんだこれ。絶体絶命だよ。


 俺は胸中で空笑いを漏らし、痛みに耐えながら膝を伸ばした。

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