第7話 お礼


「すいませんでした。廊下であんな大きな声を出してしまって」


 女子生徒はテーブルに座った状態で頭を下げた。彼女の頭はテーブルにぶつかりそうだった。


「い、いや、大丈夫だよ。そんな謝らなくても」


 俺もテーブルに座った状態で謝罪を拒否するようにバタバタっと顔の前で両手を振った。


 あれから俺達は注目から逃れるために、速攻で廊下に到着すると、靴に履き替えた。それから、中学の正門を抜け、山を降り、近くのカフェに入った。


 そのため、今はそのカフェのテーブルの席に座っている。


「あ、ありがとうございます。優しいんですね」


 目の前に座る女子生徒は心底、安堵したような表情を示した。


「大したことないよ。それに俺に対して敬語は使わなくていいよ。おそらく、1年生でしょ?俺も1年だから同級生なんだよ。だから、必要ないよ」


 この言葉には女子生徒の緊張を和らげる魂胆があった。正直、敬語で話されたら、色々とやりにくい。


「えっ。でも、この前助けてもらった人にそんな敬語なしでなんて無理です」


 女子生徒は目を瞑りながら、ぶんぶんとかぶりを振った。何が彼女をそうさせるのだろうか?


「この前っていうのは、無理やりデートに誘われていた時だよね。まぁ、とにかくこちらとしても何かと違和感があるんだ。同級生に敬語を使われていることがね。だから、俺のためにもやめてくれないかな?」


 流石に俺がお願いしたら、向こうも受け入れると思った。だから、先ほどのような言葉を紡いだのだ。これは俺の作戦である。


「わ、わかりました。迷惑ならばすぐにやめます」


 女子生徒はしょぼんとした様子だった。どうしたのだろう?情緒が不安定な子なのだろうか?それとも、俺の前で緊張でもしてるのだろうか?


「申し遅れました。私は川崎桜といいます。旭西中学校の1年生です。以前はしつこく誘ってくる男子から私を救っていただきありがとうございました!」


 川崎さんは丁寧に腰を折って頭を下げてきた。その姿勢から誠意は伝わってきた。


「俺は服部勇紀。川崎さんと同じ学校で同級生でもある。あの時のことは大したことないから。そんなに感謝しなくてもいいよ」


 本心だった。実際、俺は清水に対して恨みや怒りがあって行動したのだから。本当に川崎さんのために行動したわけではない。


「そ、そんな感謝が必要ないなんて。私はあなたのおかげでどれだけ救われたか」


 川崎さんは明らかに納得していない様子だった。この人は恩をしっかり受け入れるタイプなのだろう。


「一旦、カフェに来たんだから、飲み物を頼まない?それからあれやこれやと話そうよ」


 俺は川崎さんにはとにかく落ち着いた場所が必要だと直感した。だから、メニューを手に取り、彼女の前に差し出した。


「うん。確かに。私もちょっと落ち着かないといけないかも」


 川崎さんは俺からメニューを受け取り、商品の絵を眺めた。


「私はカプチーノで」


 数秒後、川崎さんはオーダーを決めて、俺にメニュー差し出した。思った以上に早く注文が決まったみたいだ。


 俺はメニューを受け取り、ざっと簡単に一覧した。メニューを閉じ、呼び出しベルをプッシュした。

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