第3話 入学式後


 時刻は午前11時。旭西中学校の入学式が終了した。その後、俺達のクラスは簡単な学活の授業をして解散になった。俺のクラスメイトは過去のメンバーと全く変わっていなかった。


 その中に1人だけ俺に害を及ぼす奴がいるが、まだ大丈夫だ。だって、そいつに目を付けられるのは今年の7月ぐらいだから。


 嫌な思い出だ。


 そのクラスメイトの男子にいじめほどひどく扱われなかったが、1週間に1回は殴られていた。だから、俺に害を与えていた同級生と定義してもいいだろう。本当に色々な身体の箇所を殴られた。


 過去を回顧していると、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。だが、残念ながら今は発散できない。


 現在、俺は全体的に草や木に囲まれた学校の校庭を歩いて帰路に着いていた。


 周囲にはもう友達を作ったと思しき生徒達が仲良さ気に雑談に勤しんでいた。


 ああいうのは、まだ俺には早いな。なぜなら、この時の俺は県外から引っ越してきたばかりだから、他の生徒と比べて共通点が少ない。そのため、もう少し静かにしておく必要がある。


 理想としてはクラスメイトから進んで話し掛けられたときに上手く対応することだ。これが出来ればまず大丈夫だ。嫌悪感を抱かれることは皆無だ。


 そんなことを胸中で考えていると、正門の近くに設置された体育館が視界に入った。記憶としては体育館には2面のコートがあり、バスケットゴールは合計6つあった。


 体育館のドアは開け放たれており、室内の様子が確認できた。


 男子バスケ部のメンバーがアップでブラジル体操をしていた。


 1、2、3っと声を出していた。


 3年生が先頭で2年生から1年生と順に並んで規則正しく準備体操をしていた。


 皆、勝った顔だった。もちろん、それらには良く知る同級生の1年生の顔もあった。それらは1年生であるため、まだ全員顔が幼かった。


 バスケ部の練習風景を見るだけで、嫌な思い出が想起された。気分が悪くなった。きつい練習や先輩や同級生に罵倒された出来事が脳内にフラッシュバックした。


 その上、1年後に入学する後輩の意地悪な顔やいじられた言葉まで鮮明に脳内に復活した。


 身体が熱い。顔や背中から嫌な汗でも噴き出している。


 顔を手で拭ってみると、ベタッと液体が付着した。俺の体内から放出された汗だった。


「ふぅ〜。俺にはもう関係ないし。あんなきつくて悲しいことはもう体験したくない」


 俺はなぜか冷たい口調で吐き捨てるように独りごちるなり、素早く体育館から視線を逸らした。


 その数秒後、歩を進め、逃げるように学校の正門に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る