第54話 女神オルケイラ
紫水の親子宣言を、マリオン達はすぐには信じられなかった。
「どう見ても違いすぎる」
「ここで引っかかっていてはこの先の話も到底信じられないでしょう。今更嘘は言いません。信じようと信じまいとお二人の好きになさるといい。ですが、間違いなく私とこの子は親子です。白銀と石榴は私にかつて仕えてくれていた使用人ですが」
「それは納得できるが・・・」
「本当です。でも、私たちもまだ全てを知っているわけではありません。まだ自分たちの身に起ったことの全てを知っているわけではないので、お二人の疑問に完全に答えられません。それでも話すことは真実です」
マリオンとリュシオンは互いの顔を見つめ合い、やがて大きく頷いた。
「わかった。それで?」
陽妃は自分の生い立ちとこれまでのことを掻い摘まんで話した。
最初はこのガーネジアで生を受けたが、命を狙われ女神トリシュと母と父の命をかけた魔法で地球という世界へと渡ったこと。
その際に父は肉体を失い、母はその魂まで消え去ってしまった。
そして地球でのこと。日本でのこと。瀬能の両親のこと。自分の容姿がその二人から受け継いだものであること。
一年前、この世界へと再び導かれてやってきた。
髪の色はその時から変わったことも話した。
「でも未だになぜこうなるのかはわからない。瞳もまだ黒いまま。私はこのままでもいいのだけど、この先どうなるかはわからない」
一通りの話を終えると、小一時間は経過していた。
マリオン達は時折頷いたりしたが、最初のように口を挟むことはなく、ただ黙って陽妃の話を聞いていた。
「命を・・狙われているだと?」
「え、そこですか?」
「何を驚いている」
「その、もっと気にするところはあるでしょ。異世界から来たとか、魂の両親と肉体の両親がいるとか」
「嘘ではないのでしょう?」
「それは、そうですけど」
意外にも陽妃たちの話をすべて信じてくれるとは思っていなかったので逆にこっちが驚いた。
「父上やお祖父様に『月宮』が現われなかったのも、もしかしたら、彼女と同じように命を狙われたということはありませんか?」
「何のために? それに彼女の場合、まだ産まれてもいなかったのに、彼女が『月宮』だとどうやって知ったというのだ」
「ですが」
「可能性としてはあり得ると思います」
リュシオンの考えもマリオンに否定されたが、しかし陽妃はその可能性もあると思った。
「相手は人間ではありません。『月宮』に強い恨みを持つ怨念だと考えたら、何らかの方法で気配を察したのかも。もしくは女神トリシュに似た存在がいるなら」
「女神・・・オルケイラ?」
リュシオンがぼそりと呟いた。
「オルケイラ? トリシュの双子の姉神?」
この世界のことを勉強する際に陽妃もその名前を知った。
女神トリシュとオルケイラは双子の女神。かつて二人は美しい双子神として人々に崇められていたが、トリシュに嫉妬し、彼女の全てを奪おうとしたが、トリシュの力の前に破れてしまった。
以来、彼女の名前はほとんど口にされることはなかった。
「オルケイラは今もトリシュの全てに取って代わろうとしている。トリシュに祝福された者を恨んでもおかしくない」
「でも、それは何千年も前の話なのでしょ。今さら・・」
「女神オルケイラはトリシュに敗れ力を失って封印されていた。何千年という年月の間に力を蓄えて、今その力を取り戻しつつあるのでは?」
(まじか・・)
リュシオン王子の発言に陽妃は絶句する。
確かに「月宮」の存在も不可思議だし、色々と不思議なことがあるし、女神の奇跡もあるが、女神同士の過去の争いがあって、それが今も続いているの?
話が飛びすぎて色々とついていけない。
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