第53話 親子
観念した陽妃を見て、マリオン達はしたり顔で微笑んだ。
「もう地上に戻してもらえませんか」
「ユーレシア、降りよう」
マリオンがそう言うと、ユーレシアはゆっくりと下降し、地上へと降り立った。
「ありがとう、ユーレシア」
陽妃はここへ来る前にマリオンが用意してくれたショールを頭に被り、すっかり変わってしまった髪色を隠す。
三人で地上に戻ると、すぐに世話係や他の竜騎士達が駆け寄ってきた。
「殿下、さっきのは『竜の歌声』ですよね」
「ああ、俺も初めて聞いたが、どうやらそうらしい」
「と、いうことはそちらの女性が・・?」
「お前達、今日ここであったことは暫く黙っていてほしい。百年前、竜達が『月宮の主』に対して歌ったことは事実だが、まだ他にも理由があるかも知れない。変に騒いで大事になって後で間違いでした、なんてことになっては大変だ」
「そ、そうですね」
マリオンの脅しが利いたのか、竜騎士達は許可無く今日あったことを話さないと誓った。
ユーレシアを厩舎に戻し、厩舎の奥にあるもうひとつの建物に入った。
そこは竜騎士や竜の世話係が寝泊まりする部屋があり、三階建ての一番上が貴賓室になっていた。
そこは二間続きになっていて、奥に寝室があるようだ。
陽妃たちはそこにあるソファに座った。
陽妃を真ん中にして右にマリオン、左にリュシオンが座る。
「さて、話してもらおうか」
「その前に、紫水達を呼んでもいいですか? 彼らにも事情を知っておいてもらいたいと思います」
「呼ぶのはいいが、まさか逃げたりはしないな」
「姿を現したり消えたりできるのは彼らだけで、私は消えたりできません」
「本当か?」
「そう疑われても仕方がありませんが、逃げるならとっくに竜の背中にいる時に逃げています」
きっぱりそう言ったが、まだ二人は半信半疑で陽妃を見ている。
「まあいいだろう」
胸元にあるポケットから形代を三枚取り出すと、陽妃はそこにふう~っと息を吹きかけた。
三枚の形代はそれぞれ紫水、白銀、石榴の姿となった。
「陽妃、どうしましたか?」
紫水が現われてすぐ、その場のただならぬ雰囲気に気づいて訊ねた。
「『竜の歌声』って知ってる?」
陽妃がそう訊ねると、紫水の美しい顔が順次に険しくなった。
「まさか」
その言葉に陽妃がこくりと頷いた。
「最初から知って黙っているとは、ずいぶんと無礼では無いか」
「会ってすぐに気づかなかったのに、何を今更」
マリオンが紫水に言うと、臆せず彼は言い返した。
言われた言葉が二人に突き刺さったらしく、今度はマリオン達が顔を険しくした。
「最初から知っていたのか?」
もう一度マリオンが問い質す。
その言葉は陽妃にではなく、紫水へと向けられていた。
「だったらどうだというのですか」
「開き直ったか」
「私は陽妃の命令しか聞きません。陽妃以外の人間にどう思われようと、私はまったく気にしません」
人の理の外にいる紫水達に、人の国の法など通用しない。
故に紫水はマリオンをまったく恐れていなかった。
「陽妃、こちらへ。そんなところにいてはいけません」
「そんなところ?」
「失礼しました。三人では手狭でしょう。陽妃様はこちらへおいでください」
紫水は陽妃の肩を抱いて、マリオン達から引き離した。
「お前は、彼女の何なのだ。他の二人は従者のようだが」
「私はこの子の父親です」
「は?」
紫水の言葉に、二人は目を丸くした。
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