第33話 禍々しいもの

「気になるものを見つけました」


探索に出ていた紫水と白銀が戻ってきた。


「ご苦労さま」


既に昼を回っている。いつまでとは期限を言っていなかったが、王宮が広すぎるため時間がかかったのだろう。


「なんだか服装が乱れていない? 大変だったのね」


よく見ればさっきより衣服がヨレヨレしている気がする。


「それが、あちこち回っていると、たくさんの人に取り囲まれてしまいまして、その人たちに服を掴まれたりしまして」

「え、大丈夫だったの?」


不審がられて職質みたいなことをされたのかと陽妃は焦った。

やはり王子たちにどこかの隠居の印籠のようなものをもらっておけば良かっただろうか。そうすれば、色々な場所で役に立ったかも。


「いえ、殿下方のお墨付きがあっても、役には立たなかったかと存じます」


白銀が首を振る。


「え、どういうこと?」

「我々を取り囲んだのは王宮で働く侍女や女官方なので」

「どこから来たのか、誰に会いに来たのか、今から一緒にお茶でもどうかというお話でした」

「ナンパ?」

「ナンパ…とは?」

「まさか、この国の女性たちがあのように積極的だとは思いませんでした」


白銀と石榴は「ナンパ」の意味がわからず首を傾げたが、紫水は日本での知識があるので陽妃の言葉に答えた。

「ナンパ」が何か説明すると、白銀も石榴も驚いた。

白銀は人生で初めての経験だったらしい。


「女性から積極的に誘いをかけるのがよくあることだとは…陽妃様のお父上のお姿のおかげでしょうか…しかし、どうも居心地が悪いものですね」


生前はそれほど女性にもてなかったのか、白銀は初めてのことに困惑している。


「ロマーノ様の時も夜会では同じようだったと聞き及んでおりますが」


白銀がそう言うと、そうだったかと紫水は考える。


「ルネ様以外の方にはご興味がなかっただけでございましょうが」

「それはあるな。ルネはまさに女神のように美しかった」


照れもせず紫水は言う。


「えっと、それで気になるものって?」


話を本題に戻す。


「温室の一角に禍々しい気が集まっていました。どうやらそこに何か埋められているようです」

「温室に?」

「庭師に聞くと、その当たりの樹木が最近枯れて、何度植え替えても育たないそうです。ですが、庭師はその場所を認識出来ていないのです」

「目くらまし?」

「意識をそこに向けないように何か仕掛けがされているようです。残念なことに私達は触れることが出来ませんでした」


それは陽妃が施した結界に似ていると言う。

彼らがその場所を知ることができたのは、そこに昨夜の音楽室の霊の痕跡があったからに過ぎない。

式といえど幽体。陽妃の霊力で実体化しているが、その場所の禍々しさには近づくことも出来なかったという。


「わかった。次は私が行ってくる」

「お供します」


紫水が申し出た。


「大丈夫? 私一人でも大丈夫だと思うけど」


紫水たちがその場所に近づくことが出来なかったことを心配する。もしそれが呪詛か何かなら、その禍々しさが彼らを寄せ付けないのだろう。


「あなたを一人で行かせるわけには行きません」

「でも、あなたに何かあったら…」

「無茶なことはしません。あなたが危険と判断したなら、命に従います」


そうは言っても、いざとなれば無茶をするのではないかと思いながら、陽妃たちは温室へと向かった。

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