第31話 女子トーク

陽妃はそれから数時間後に目覚めた。

目を覚ますと紫水と白銀、石榴が彼女を護るようにその場に控えていた。


「どれくらい眠っていた?」

「ほんの数時間です」

「何か召し上がりますか? 先ほど軽食をいただいてきました」


すでに冷めてしまったパンとハム、茹でた卵とフルーツが盆に乗せられていた。

それらを食べながら陽妃は今後について三人と話し合った。


「あの王子達の要望を聞き入れるのですか?」


当然聞いてくるだろう質問を紫水が口にした。


「でも、このままにしておけば、私は助かってもこの先の『月宮の主』も同じ目に合うと思う。私が魔力の代わりに霊力があるなら、それで何かしろと言うことなんじゃないかな」

「このまま何事も無かったのように消えることもできますよ」

「それじゃあ、ルネお母さんやお父さんが何のために命を落としたのかわからない。怯えて隠れていろと言うの?」

「それが陽妃の選択なら、従いますよ」

「我々も、一度肉体を失った者です。陽妃様のお好きなようになさってください」

「うん、だから頑張ってみる」


紫水も白銀も、石榴も陽妃に使役されている式ならば、彼女の意に従うと言った。


「それで、どうするのですか?」

「それなんだけど、この世界にも呪術、呪詛、黒魔術みたいなものってあるのかな」

「あることはありますが、そういうものはやはり禁忌とされています」

「やっぱり」

「黒魔術はここ百年の間に使える者は殆どいなくなりましたが、古い文献なら残されているかも知れません。ここは王宮ですから、書庫のどこかに封印されているのではないでしょうか」

「やっぱりそういうのって特別な許可とか必要?」

「許可があっても閲覧すらできず、封印されているやも知れません」

「そっか」

「王子達に頼んでみますか?」


そう紫水に聞かれて、陽妃はちょっと考えてから首を振った。


「私が使うわけじゃないし、見てもわからない。でも呪いがあるなら呪具みたいなものがあるかも。あの音楽室の霊は他の霊を集めていたでしょ。あれってそう簡単にできるものじゃないと思う。どこかに依代があるんじゃないかな」

「探してみますか?」

「見つけられそう?」

「音楽室の霊の思念波を探れば何とかなるかと」


紫水と白銀が頷き合う。


「わかった。じゃあお願い」

「わかりました。石榴は引き続き陽妃の側にいて彼女を護ってください」

「承知しました」


二人はそう言って部屋を出て行った。


石榴と二人きりになると、石榴がお聞きしてもよろしいですか、と声をかけた。


「何?」

「陽妃様は、あちらの世界でどなたかお好きな方はいらっしゃらなかったのですか?」

「え、もしかして恋バナ?」


日本で憧れていた恋バナを、まさか異世界ですることになるとは思わず、陽妃は興奮した。何しろそんな話をする友人がいなかったのだから。


「恋バナ?」

「えっと、恋バナって言うのは恋の話の略です」

「そうですか、それで、どうなのですか?」

「う〜ん、いたと言えばいたかな」

「どんな方なのですか?」

「なんでそんなこと聞くの?」

「『月宮の主』としてでなくとも、陽妃様にはいずれどなたか素敵な男性と結ばれて幸せになっていただきたいと思っています。紫水様はどちらかと言えば、娘を誰にも嫁にやりたくないといった気持ちがお有りになるようですし」

「あ、やっぱりそう思う?」

「はい」

「そうだよねぇ。王子たちがいると紫水の機嫌が殊更悪くなるもの」

「それで、どうなのですか?」

「いたよ」


苦笑いして陽妃が答える。


「まあ、それはどのような方なのでしょう」

「死んだ男の子」

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