第28話 女神の奇跡とは
陽妃の髪の色が変わることに、魔法は一切関与していないと王子たちは確認した。
「魔法でもなければ、これはもう神の御業としか言いようがありません」
暫く考えた後に、リュシオンが言った。
「女神トリシュか?」
マリオン王子の問いにリュシオン王子が頷く。
「説明のつかないことを、そう簡単に神の御業とか決めつけていいんですか?」
些か安直過ぎないかと陽妃が口を挟む。
陽妃が母の信仰のお陰で助かったのは間違いない。「月宮を守れ」と母に告げたのも女神。陽妃は会ったことも見たこともない神様だけど、父ー紫水が話してくれたことを思い起こせば、女神トリシュは本当にいて、この世界の人に時折干渉してくるのだろう。
「しかし、私の知る限り、このような現象は見たことも聞いたこともありません」
「心当たりはないのか?」
ないこともないが、髪の色が昼夜で変わることについては、ただ、この世界に来てから起こったことで女神から何の説明もない。
実は異世界から来ました。とも言えず、陽妃は押し黙った。
「隠すとためにならないぞ」
脅しとも取れる口調でマリオン王子が厳しい視線を向ける。
すでに色々失礼な物言いをしているので、とっくに不敬罪で処罰されても文句は言えない状況だ。
でも、陽妃は地球生まれの地球育ち。
魂がこの世界のものだったとしても、三つ子の魂百までというとおり、いくらこの世界のことを学んでも、地球で培った常識はなかなか覆せない。
地球では王族なるものにお目にかかったこともないので、人としての礼儀と、王族や身分のある人に対する礼儀との区別がつかない。
(どうせ死んだらみんな同じなのに)
霊という存在が視える分、殊更にそう思ってしまう。
それに、陽妃自身は別にこのままでもいいと思っている。
瞳まで変わってしまったら、目の前の二人の王子から逃げられない気がする。
陽妃にも恋愛に対する願望はある。
愛し愛されること。
出来れば地球の瀬能の両親のように。
魂の父母も互いに愛し合っていたようだが、陽妃の理想とする夫婦というのは、瀬能の両親だ。
良家のお嬢様だった母と、シングルマザーの家庭で苦労して育った父。優秀だったため大学は奨学金を貰って通った。幸い父にはIT関係の才能があり、大学在学中に友人と共に起業して、瞬く間に成功した。
モデルだった母と知り合い、すぐに二人は恋に落ちたが、旧華族という血筋の母の実家に反対され、駆け落ち婚したと聞いている。
幼い頃から離れて過ごすことは多かったが、それでも二人は陽妃にとっては理想の両親だ。
月宮だったら相手はどんなだろうがいいとか、当然相手も自分たちを受け入れてくれると疑いもしない、そんな彼らの恋愛観は、納得がいかない。
「何も隠し立てしておりません。仮にあったとして、それは私の事情であって、殿下たちには関係のないことと思います」
「何だと?」
「関係あるかないかは、我々が決めることです。まずはそちらの事情を説明してください」
「リュシオンの言うとおりだ。俺たちは月宮を何としても探さねばならない。だから胡散臭い街の占い師にも依頼をしたのだ」
「胡散臭い? しがない占い師?」
その言葉は陽妃の怒りの導火線に火を点けた。
「兄上、今のは…」
先に陽妃の怒りに気づいたのはリュシオン王子の方だった。
「ん? どうした?」
弟に袖を引かれ、マリオン王子も陽妃の様子が変わったことに気づく。
「ではい胡散臭い街の占い師からひと言申し上げます。『繋ぎの王妃』と呼ばれる王妃の霊を鎮めないことには、たとえ月宮のお方を見つけたとしても、あなた方は彼女を失うでしょう」
「何故だ」
「それは予言ですか?」
「いいえ、予言などというあやふやなものではありません。彼女たちの魂は未だ無念の中を彷徨っています。そしてその先に待ち受けているのは憎悪。その憎悪がすべて月宮に向かっている」
「信用出来ない。相手は肉体も持たない存在だ。第一、本当に存在するのかも怪しいものだ」
「信じてもらおうとは思っていません。信用できないのであれば結構。ですが、その代わり、あなた方は永遠に月宮には会えないでしょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます