第19話 音楽室の怪異
次にやってきたのは音楽室。
「確か『音楽室で誰もいないのに楽器を奏でる音がする。』でしたね」
「そうだな」
黒髪のカツラを被った陽妃にマリオン王子が答える。
「あの、髪のことはひとまず忘れてくれると有りがたいです。なぜ色が変わるとか、こっちもわからないんです」
じっと何か言いたげにじろじろ見られて居心地が悪くて仕方がない。
「それに、付いてこなくていいです。あったことは全部お話しますから。案内も、どなたか付けてもらえれば、王子様方にご足労頂かなくても結構です」
「仕事を依頼したのはこちらだ。確認する義務がある」
「そうです」
二人の王子が承服しかねると陽妃の提案を撥ね除けた。
彼女はハア~と額を抑えてため息を吐いた。苛立ったような態度をあからさまに見せつけられることがない彼らは、それもまた新鮮に思った。
「はっきり申し上げますと、邪魔、何です」
「邪魔?」
「そうです」
「なぜだ」
「お二人の気が強すぎて、幽霊も怖がって出てきません。彼らはとても繊細なんです」
「繊細? 幽霊に繊細などあるのか」
「ええ、あります。ですから、ここから先はお控えください。殿下方も私に仕事を頼んだからには結果をお求めですよね。なら、私の邪魔はしないでください」
きっぱりとした拒絶に二人はたじろいだ。
「ご理解いただけましたか?」
「わかった」
二人は顔を見合わせ、うなずき合った後に答えた。
「ただし、報告は逐一上げること。私かリュシオンのどちらかに必ず日に一回はな」
「わかりました」
そう言って二人はチラチラとこちらを見ながらも、陽妃の願いを聞いてくれた。
「ふう」
「お疲れ様です」
「本当ね」
始める前からすでに疲れ切っていた。
彼らに言ったことは半分は本当だった。大勢で物見遊山のようにやってきては、幽霊だって出るに出られないし、王子二人は陽の気が強すぎて、陰の気の幽霊は怖がって出てこない。
それに、やはり先ほどの件で気まずいのだ。
月宮の件はできるだけ関わりたくない。けれど王子達といるとどうしても意識してしまう。
自分が月宮の主として生を受けたのだと聞かされ、そのせいで命を狙われることになった。
誰に狙われているかもわからない状況で、王子達と関わりを深くすることは更に危険が増すのではないだろうか。
「とりあえず、行ってみよう」
石榴と二人で音楽室の扉を開いた。
静まりかえった真っ暗な部屋。それでもじっと目を凝らしていれば、部屋にある物の輪郭が浮かび上がってきた。
中央にどんと据えられたピアノ、その周りにもいくつか大きな弦楽器が並べられている。
扉を閉め、入り口に立って辺りを窺っていると、やがてぼんやりと白い物が浮かび上がってきた。
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