第13話 喫茶店 ドリーム
喫茶店の中で、2人はテーブルを囲んでいた。
それぞれに渡されたメニュー表を見ながら、
明太郎は顔を顰めた。
スパゲッティがメインのこの店。
あらゆる料理の名前が長い。普段、牛丼のアタマとかハンバーグ定食とかをかっ食らってる明太郎には馴染みのない光景だ。
「どれも美味しいそうですね!どれにしよう」
美友はメニュー表を見て楽しそうだ。
明太郎はメニューの中でも一際自分に馴染みのあるメニューに目星をつけた。
「そうですね!…んー、あ、…俺、決まりました!」
「え!はい、じゃ、じゃあ私も」
軽く右手を上げると、直ぐに店員がオーダーを取りにきた。
明太郎は、メニューを指指し、
「すいません、俺これで…」
「はい、たっぷりソースの明太子スパゲッティですね」
「私は、魚介のトマトスープスパでお願いします」
「かしこまりました」
「あっ!すいません!…俺のって、大盛りに出来ます?」
美友が少し微笑んだ。
+何円かで大盛りに出来ると聞き、明太郎は迷わず大盛りを選んだ。
「お飲み物はいかが致しますか?」
「私はアイスレモンティーを」
「俺は、ウーロン茶で」
「あ…、ごめんなさい。ガムシロップって2つお願い出来ますか?」
美友は甘党だ。具体的にはチョコミン党だが、
甘いものは全般的にいける。
普段太らないように調節し、ジムにも通ってる。…最近、行ってないけど。
今日は、日数が空いてしまったが明太郎の退院記念だ。食事の後は、食べれそうだったらデザートも食べよう。チョコプリンアラモードが美味しいそうだった。さっき、メニューで見た。フルーツミニパフェも良さそうだった。どっちにしよう?
店員がオーダーを取り終え、厨房に下がっていく。
「包帯…まだ痛みますか?」
美友は明太郎の手に巻かれた包帯を指差していた。
まずい。
ドルルクとの戦闘とトレーニングに追われ、たぶんもう治ってるとは思うが包帯巻いたままだった。
明太郎はガサツで、無頓着だ。
オマケに、なんか次ドルルクと戦う時に包帯はぶっ飛ぶし、限界まで包帯に拳を包んでた方が力が出そうな気がするというロマンチストでもある。
だが
「あっ、えっ…と、これは兄弟の仕事で、怪我しちゃって」
バレバレの嘘を咄嗟についてしまった。
少し気まずい空気が流れる。
ふと、変なスイッチが入ってしまった。
今、ここでドルルクとの話をしたらこの人は受け入れてくれるだろうか?
いや…。病室で一緒にテレビを見たとき、美友は泣いていた。当然だ。相手は人外の化け物…。
でも、自分はアレと唯一戦える。闘える…。
イトウと、その関係者達にしかドルルクのことは話していない。イトウはこの1ヶ月くらいでどういうヤツかわかったが、元々の明太郎から知ってるわけではない。
自分は、望んでないのに変わってしまった。
いや、望んでないってのは嘘か?
ついこの前までは、ドルルクと会うまでは、
変わり映えのない日にどこか飽き飽きしてたんじゃないか?
しかし、それでも、そんな日常でも、失ってしまえば哀しみもある。
目の前の美友に、変わった自分を自慢したいわけじゃない。慰めてほしいわけでもない。ただ、もし良ければ、ただ、受け入れてくれたら嬉しい。日常と完全に離れてしまったのではないと、誰かの言葉で示してもらえれば、どこか安心するだろう。
明太郎の深層意識はこうだが、もちろん、美友を巻き込みたくない気持ちもある…。
だが…それでも…
「俺、実はド」
刹那、耳をつん裂くような激しいサイレンが響いた。びくん、と2人の体が跳ねる。
すぐに大きな音を立て開けられた店の扉から、血相を変えたイトウが入店してきた。飛び込んできた。
「佐々木さん!!!!!」
イトウは即座に明太郎を見つけ、大声を張り上げた。
反射的に明太郎は立ち上がった。再び跳ねる美友。
「場所は?!」
「1つ先の駅です。この前の駅とは逆方向!」
「なんでアイツいつもの場所じゃねぇんだよ!!」
明太郎は素早く店を出ようとしたが、
「佐々木さん…?」
美友の声で一瞬現実に戻った。
恐怖と混乱と心配が混ざった目線で明太郎を見つめる。
少し血走ってる明太郎の目は、涙を流そうとしたのか急に目頭が熱くなった。
「…俺…」
「佐々木さん!!」
怒号に近いイトウの声で、再び戻りたくない悪夢に戻った。
「早く避難してください!」
少し人間味を無くしてしまった状態の明太郎は、美友にそう言って店を出た。
「俺が運転します!」
イトウが車に向かいながら言ったが、明太郎は答えずイトウが準備したバイクに跨った。
「コイツで行く!現場で待ち合わせだ!」
「…はい!」
時間に余裕がない明太郎は、イトウが車に入る前に出発した。
あぁ。
美友にドルルクのことを言わなくて良かった。
最悪なタイミングで来てくれてありがとうドルルク。おかげで楽しい時間がぶっ飛んだ。
それにしても、なぜ、前回の駅じゃない?
今回の出現場所には人がたくさんいるはずだ。
明太郎は唇を噛み締めたのち、堪らず咆哮した。
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