不定の殺し屋たちへ不

エリー.ファー

不定の殺し屋たちへ不

 赤い殺し屋がやってきて、二人の男を殺した。男たちには帰る家があった。しかし、その家に男たちが帰ることはない。寂しさが家の中を充満していく。

 青い殺し屋がやってきて、町に毒を撒いた。多くの人が倒れた。死人こそ出なかったが、体を動かすことができなくなり、苦しみ続けている者が大勢いる。

 殺し屋たちの憂さ晴らしに付き合わされる町は、民は、社会は、徐々に疲弊した。しかし、民は気付いてる。

 その殺し屋たちが、自分たちの中から生まれたと。

 あぶれた者たちであったと。

 悲しいかな、殺し屋たちと自分たちに差はないのだと。

「信じたくない」

 民が呟く。

 その周りの者たちが叫び出す。

「信じたくない」

「信じない」

「信じない」

「信じない」

「信じない」

 受け入れることなどできない。不安を内包することなどできない。光を信じることはできても、闇の所在を信じることなどできない。

 ありふれた民の日常には影が色濃く生まれていると、誰もが知っていた。民だけではない、神も、蛙も、太陽も、雲も、蜘蛛も、空も、隣町の民も、水も、川も、森も、草木も。

 皆、知っていた。

 でも、目を伏せた。

 自分の中にある、言葉を響かせないようにした。

 しかし。

 失敗したのである。

 何もかも、大きく誤解していた。

 いや、誤解など何もなかったのかもしれない。

 事実の蓄積でしか、社会は動かない。真実によってでしか、認知は生まれない。嘘も、偽りも一切ないという事実が、命を縛り始める。

 また、殺し屋が生まれた。

 今度は黒色だった。

 けれど。

 その殺し屋は何もしなかった。

 ただ、公園に立っているだけだった。

 ただの黒い殺し屋だった。

 ある日。

 民はその黒い殺し屋を、殺した。

 殺すことについて、誰も賛成しなかった。しかし、恐ろしいことに、反対もしていなかった。

 けれど。

 なんとなく。

 黒い殺し屋の命を奪うことにした。

 黒が怖かったのか。殺し屋というものを恐れたのか。黒い殺し屋に禍々しい何かを感じたのか。

 もう、今となっては分からない。

 誰かが、黒い殺し屋の墓を建てた。

 皆が墓の前で黒い殺し屋のために涙を流した。

 ある日。

 白い殺し屋が生まれた。

 白い殺し屋は、次から次へと人を殺したが。

 町の民は、黒い殺し屋の件で教訓を得ているため、簡単に殺そうとはしなかった。

 まずは、観察から始めることにした。

 七人殺された。

 次に民の方から接触を試みた。

 十二人殺された。

 言葉が通じるのかを確認した。

 二十六人殺された。

 食べ物を与えてみた。

 一人殺された。

 そして。

 白い殺し屋だけが住む町になった。

 隣町では、こんな言葉が飛び交っている。

「あの町で白い殺し屋が暴れたせいで町民は全員殺された」

「白い殺し屋に、町民たちは全滅させられた」

「あの町は、死の町だ。一人残らず殺されてしまった」

 ある小説家が、白い殺し屋だけが住んでいる町を訪れて、その白い殺し屋と話すことにした。

 町の真ん中には、大きな噴水があり、その周りにベンチがある。

 二人は座って、静かな町を眺めた。

 およそ、二分ほどであったと思う。

「あなたは白い殺し屋と呼ばれているそうですね」

「そうだね」

「この町の民は全員、殺されたと聞きました」

「隣町の奴らは、皆そう言ってるね」

「どう思われますか」

「間違っている」

「どこが間違っていますか」

「僕は、この町で生まれてこの町で育った白い殺し屋だよ。それなら、一人は住んでいることになる」

「まぁ、そうですね」

「ここに住んでいた奴らも皆、そうだったよ」

「どういう意味ですか」

 小説家の首から血が漏れ出る。

「こういうことさ」

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