女神が地上に舞い落ちた(笑)なんなら天界に帰れなくなって、俺と冒険することになった

泉水一

プロローグ

「播磨政次さん、お久しぶりですね。かれこれ2年ほど経ちますが、私のことは覚えているでしょうか?」


河川敷で大の字に寝そべっている俺に向かって彼女が告げた。


ちょうど大きなあくびをかました時、目の前に雷のごとく眩ゆい光を引っ提げて彼女は姿を現した。


曇りひとつない金髪と文句の付けようがないほど整った容姿。


ニッコリと微笑んだ表情からは、少し幼さを感じるが、年齢的には俺とほとんど変わらないだろう。


装いは魔法使いを彷彿とさせるローブを羽織っているが、合間から覗く純白な肌はやはり、そこはかとなく人間離れした存在であることを主張しているようだ。


あえて人間のカテゴリーに分類するなら美少女一択だろう。


そんな完璧な美少女は、笑顔を絶やすことなくこちらを見つめている。

頭に怒りのマークを乗せながら。


俺は美少女が最初に言った言葉を思い出す。


そうだ、あれはちょうど2年前のことだったか⋯⋯。


____________________


「落ち着いて聞いて下さい。播磨政次さん。あなたは不幸にも、つい先程死んでしまったのです」


夢か現実か区別がつかない薄暗い空間で、俺は唐突に告げられた。


「うそだ⋯⋯。だって、俺は、ついさっきまで⋯⋯」


そこまで言って口を閉じる。


「ついさっきまで? 何かしていたのかしら?」


会話をしながらも、美少女は必死に笑いを堪えている様子だ。


ということは、目の前の美少女は知っているのだろう。


俺が死ぬ間際にしていたことを⋯⋯。


だが、あの状況からどうやって死んだのかは、皆目見当がつかない。


いやいや、忘れよう。


どうせもう終わったことなんだから。

今さら掘り返した所で、何の生産性もないのだから。


それよりも、今はこれからの話しだ。


「それで、俺は今から何を⋯⋯」


「床上死(とこじょうし)。それがあなたの死因よ」


俺の言葉を遮って発言する美少女。

しかも、あろうことか腹を抱えて転げ回っているではないか。


床上死などと言う、聞き慣れない言葉に戸惑いながらも、美少女が俺を笑い者にしていることは分かる。


なんだ、このムカつく女は。

待て待て⋯⋯てか、床上死ってなんだよ。


「あー、おかしい。その様子からすると、死因については、あまりピンと来てないみたいね」


美少女は目に涙を溜めながら話す。


「いいかしら。播磨政次さんも知っての通り、死ぬ間際にあなたはオナニーをしていましたよね。そこであなたはパイレーツドットコムで清楚系ビッチの動画を見て⋯⋯」


「いやあああああああああああ! やめてくれぇぇぇぇ!」


何でそんなこと細かに説明する必要があるんだよ。


それより、どうやってそこの場面から、俺の死に繋がると言うのだろうか。


荒い呼吸を繰り返す俺の元へ、目元の涙を拭いながら美少女が近寄ってくる。


ゆっくりと俺の周りを回って、肩に手を置いき、口を耳元に近づけて、


「あなたはパイレーツドットコムで、清楚系ビッチ⋯⋯」


「それはもう分かったから、早く次の話に進んでくれぇぇぇぇ!」


顔から火を吹きそうになるのを堪える。

いや、多分吹いてる。


「全くからかいがいのある男ね。もう十分楽しませてもらったから簡潔に話すと、あなたはオナニーでイッた際に死んじゃったってこと。ほら、腹上死って聞いたとこあるでしょ。あれの一人バージョンよ」


「そんな残酷な死があってたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


両手で頭を抱えて地面にへたり込む。


汚点だ。

いや、これはもう点ではなく面だ。

面で汚い⋯⋯汚面としか言いようがない。


俺は最後に何てことをしてしまったんだろう。


「ちなみに、第一発見者はあなたのお母さんで」


「もうその話はやめてくれぇぇぇぇ!」


「クスクス。ちょっとからかいすぎたかしら。まあいいわ、それじゃあ、そろそろ本題に入ってもいいかしら」


「本題⁉︎ じゃあ今までの話は何だったんだよ」


「笑える小話よ」


「全然笑えねーわっ!」


今まで生きてきた時では見せたことのない、鋭い視線を向ける。


まあ、ここはこっちが大人の対応をしよう。

てないと話が一向に進まないと思うから。


「それで本題ってなんだよ」


「コホン、とりあえず自己紹介をすると、私の名前はオリビア。とある世界の女神をしているのだけど、ひょんなことからあなたを導くことになったの」


「ひょんなこと? ひょんなことってなんだよ」


「偶然あなたの死因を目撃して、爆笑してしまったことよ」


「どこがひょんだ! ただ失礼なだけじゃないか!」


「いちいち突っかかってこないで。あなたは私を笑わせてくれるだけでいいんだから」


俺は拳にはあらん限りの力が加わっている。

爪が食い込んでいるのが、手のひらを通じて伝わってくるがお構いなしだ。


絶対にいつか殴ってやる。

俺は心に固く誓った。


「それでお願いって言うのは、私の世界を救ってほしいの」


一転して真面目な表情を作るオリビア。


ほーう、これは興味深いな。

まさか本当に先程の話は前戯だったとは。


ん、待て待て、だったら尚更俺の死因なんて言う必要のない話だったんじゃないか。

ムキー!


自問自答を繰り返して怒りの自家発電中の俺に、うんざりした様子でオリビアが言った。


「それで、この私からのお願いだけど引き受けてくれるのかしら?」


「しょうがないな。見た感じ、オリビアの性格では、他に頼れそうな人もいないだろうから引き受けてやるよ」


「初対面で何が分かるって言うのよ。このお笑い担当!」


「はっ、なんだよお笑い担当って! あれか、俺は笑いで世界を救えってか?」


「救えるなら、笑いでもなんでもいいわよ」


自分の伝えたいことを終えてやる気がなくなったのか、オリビアは髪をいじりながらぶつぶつと呟く。


「よし、そうと分かったから早くその世界に送ってくれよ」


「はいはい、じゃあ送る場所はどこがいいかしら? はじまりの町でも、砂漠でも、床上でもいいけd⋯⋯」


「どこでもいいから早くしろっ!」


オリビアが指を振ると、途端に体が光に包まれる。


「では愚者よ、願わくばあなたが世界を救わんことを、笑いながら祈っております」


「真面目に祈っとけやゴラァァァァァァァァ!」


目の前が真っ白になった。










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