第7話 企み

「5中隊が出たというのは本当か?」

 袁上校は報告に来た情報課の将校を問い詰めた。

「敵が連合共和国に送り込んでいる工作員ほどではありませんが、我が方も百人を下らない数の工作員を送り込んでいます」

 将校は自信ありげな顔で言った。

「その内の複数のルートから5中隊が出撃したとの報告を得ています。元ソースが別であることも確認済です。間違いない情報だと思われます」

「数や装備は?」

「人数に直接言及した報告はありません。ただし現場に投入された戦力はMCー4型機一機で移動したとの情報があります。MCー4はフル装備の兵士十二名を搭載することが出来ます。よって最大でも十二名だったと思われます」

 将校は言葉を切ると、バインダーに挟まれた報告書類をめくった。

「また装備についても不明ですが、強化スーツを使用する専門部隊である5中隊が投入されている以上、強化スーツが使用されたものと推定されます。もしスーツが必要ないならば1中隊から3中隊が出撃することになったと考えられます」

「となると人数は十二を下回るな」

「はい。スーツの具体的仕様の情報がありませんが、我が軍での開発データを考慮すると最大でも8人であったと推定できます」

「重装備の特殊作戦部隊8名と小銃だけの工作員8名か。戦力を推し量るデータにはならんな」

 一方的な展開になっておかしくない戦力差では参考にはならない。袁上校は顎に手をやり思案顔だった。

「囮を使って誘き出すか」

「囮……ですか?」

 袁上校は肯くと机の引き出しから一つのファイルを取り出した。それは人名や階級が書かれたリストだった。彼は人差し指でそのリストをなぞると下から3行目で指を止めた。

「こいつの詳細を報告しろ。内容次第ではこいつを餌に使う」

 差し出されたリストを覘き、その名前を見た将校は眉根をしかめた。

「ダミーでもよろしいのでは?」

「お前も先ほど言っただろう。送り込まれている工作員の方が多いはずだ。オキアミでは鯛は釣れん。鯛を釣りたいなら伊勢海老を餌にする必要があるということだ」

「了解しました。詳細は明日までに準備します」

 袁上校は「うむ」と鷹揚に答えた。彼は椅子を回して横を向くと、シートのクッションに体を沈めた。

「さて、ミズシマはどう出るかな」

 そう言った顔は悪意に歪んでいた。

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