メスガキ、渓谷に死す。
塩麹 絢乃
プロローグ
プロローグ
まるで、ミンチだ。
なぜ、彼女がこんな目に遭わなければならなかったのか。
確かに、彼女の普段の振る舞いはそう褒められたものではなかった。
うざったいし、小生意気だし、そのことを反省する素振りすらない『メスガキ』だった。
(けど、だからといって……こんなことをされて良いわけがない)
むせ返るような濃厚すぎる血の匂いに、吐き気が込み上げてくる。
一体、どれほどの殺意を抱けば、人をミンチになるまで損壊しようと考えるのだろう。
例えどんな極悪人だろうと、ここまでメチャクチャにされる謂われはないはずだ。
俺は、視界いっぱいに広がる血と肉と暗闇から目を離すことができず、食い入るように眺めながらふらふらと倉庫の地面にへたり込む。そして、「うっ」とえずいた。
(犯人は……まだ近くにいるのかもしれない)
ふと、そんな考えが頭を過ぎる。
彼女の死体はまだ新しい。
それもそのはず、彼女は昼頃まで元気に俺たちと会話をしていたのだから。
その彼女が今――死んでいる。
倉庫の暗がりで、ミンチのように滅茶苦茶にされて。
――事故などではありえない。
そう思い至った瞬間、言い知れぬ恐怖が俺を襲った。
(犯人は外部犯? それとも、俺たちの中に……?)
どちらにせよ他人事では済まされない。
俺も彼女のように殺されない保証がどこにある?
これは――『異能事件』だ。
こんな山奥で、何の前触れもなくミンチになったバラバラ死体を見せられてはそう考えるほかない。
犯人は『異能者』だ。
ほぼ、間違いなく。
恐ろしい――日常生活において、あまり経験することのない『死の恐怖』が俺の心を蝕む。嵐が過ぎ去るのを待つように、今すぐどこか安全な場所で暖かな毛布にでもくるまり、ただ震えていたい……そんな気分だった。
しかし、それは叶わぬ願いだ。
犯人の殺意がこれで収まるとは限らない。向こうに殺意ある限り、殺人は何度でも起こるだろう。その場合、いくら待とうと犯人は去ってなどくれない。見逃してなどくれない。命乞いをしても無駄だ。
ならば、怖がっている場合ではないはずだ。
自分の身を守るためにも、皆の身を守るためにも、そして何より無惨にも殺されてしまった彼女の無念を晴らすためにも、勇気を奮い立たせて行動に移るべきだ。
犯人を突き止め――次の殺人が起こる前に食い止めるのだ。
(今いる全員が確実に生き残る術はそれしかない……!)
決意を胸に、俺は血の海から再び立ち上がる。
そして、事件を紐解く手がかりを求めて『サマーキャンプ』の思い出を振り返り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます