第3話
私は比較的飲み込みが早い方だと思う。
練習だって、説明を一度聞けばわかったし、その通りとは言わずともなんとなく形にできるくらいには動けていた。
「あの子はバスケの神様に愛されているんだな」
誰かがそう言ったのがきっかけだった。そんなはずがない。ずっとそう思いながらプレーをしていた。
私は決して足が速い方ではなかったし、背もそこまで高くはなかった。
ただ、誰よりもシュートフォームだけは綺麗だった。ディフェンスを崩す要となるロングシュート。それだけが私の生きがい。
その力が開花するのは案外早かった。
バスケを始めて半年でフリースローシュートを決め、小学3年生の頃にはミニバスのゴールとはいえ、スリーポイントラインからシュートを打つようになった。
監督やコーチには「外から打ちすぎだ。中に入れ」とこっぴどく叱られることもあったが、それでも100発90中くらいのシュートは中々に重宝されたものだ。
その時は楽しかった。その時までは、楽しかった。
……あの日が来るまで。
「……最悪な夢見たな」
いつの間にか寝てしまっていたらしい。スマホの電源を入れると公式LINEの通知とゆうちゃんからのLINEの通知が来ていた。
(練習あるんじゃないの?……って、言いたいけど)
ゆうちゃんのことだから、練習の合間を縫って連絡してきているに違いない。ゆうちゃんはそういう人だ。
「ゆうちゃん、絶対これ猫被ってる」
『好きな食べ物・飲み物:オレンジジュース』という選手紹介プロフィールを見て思った。昔流行ったプロフィール帳には『やきにく!』とか書いてたくせに。
「……睡眠欲しかないのは変わってないんだな……」
なんだか懐かしくなってしまう。定期的にゆうちゃんのエゴサをしていることはゆうちゃんには秘密だ。「そんなに私のこと好きなのなの?じゃあ試合来てよ〜!」と言われるのが目に見えてわかる。
(……凄いなぁ……手の届かない人になっちゃってまぁ)
楽屋のネームプレートとゆうちゃんの写真。
ゆうちゃん、そういえばテレビにも出てたなぁ……昔から笑顔は変わらないなぁ……あの時、私の手を引いてくれたゆうちゃんのままだ。
「……私、過去に囚われすぎだな」
というか、ゆうちゃんに囚われすぎなのかもしれない。ゆうちゃんは人を惹きつける天才だと思う。
(……帰ろ。部活も終わる時間だし)
最後に部室に行ったのいつだっけ。3ヶ月前くらいかな……流石に叱られるな。明日は行こう。
そんなことを思いながら、私は帰路についた。
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