おまけ 終わりなき◯◯◯帰属論争!!

 これは、第5話で洛楽倶楽部に名称変更した後の教室内での話である。


「駿河さんはどこ出身なの?」


 標準語を話すアユミに少し懐かしさを感じたトオルはふと尋ねた。


「静岡県だよー」


「え、まじか!俺山梨なんだよ、お隣さんだ」


「え!そうなんだ!私山梨よく行ってたよ」


 トオルとアユミは見るからに高揚していた。関西人だらけの中から同じ地方出身者を見つけたことが相当嬉しかったようだ。


「山梨よく来てたの?自分で言うのも何だけど、正直何もないとこなのに」


「ああ、私、両親がかなりアウトドアで、よく登山とかキャンプとか連れてかれてたんだ。まあ私も普通に楽しんでたんだけどね」


 トオルは、ふうんといった様子で口元に手を当てる。


「うん、確かに駿河さんはアウトドアっぽいよね」


「え!?そうなの?えー、どこがだろ、なんかガサツなところ出しちゃったかな」


 アユミは頬に両手を当て、自分の行動を振り返ってみる。そんなアユミを見て、トオルは、いやいや、と手を横に振った。


「性格とか行動じゃなくて、服装がそれっぽいっていうか。動きやすそうな格好してるから」


 なんだ、とアユミはほっと胸を撫で下ろすと、自分の服を見回す。


「実は、アウトドアしてるうちに汚れても罪悪感のない服を選ぶようになっちゃって、そんなことを続けていくうちにこういう系統のファッションが好きになっちゃったんだ」


 性格に似合わない彼女のファッションはそういう経緯から生まれたものだったのかと、トオルは納得した。


 そうして2人がご近所トークを繰り広げているところに、ススムが口を開く。


「そういえば、静岡も山梨も富士山が見えるで有名でございますけど、富士山ってどっちに帰属しているんでございますか?」


「ああ、それよく聞かれるけど、どっちに帰属とかそういうのはないよ。どっちにも跨ってるし、両方の物だね」


「うん、そうそう」


「へえ……そうなんでございますね」


 ススムは何となく気持ちのこもっていない2人の発言に違和感を感じつつ、頷いた。


「でも、まあ、そうだな、強いていうなら–––––––」


「うん、強いていうなら––––––」


「富士山は山梨のものかな!」

「富士山は静岡のものだね!」


 トオルとアユミは、同時に全く違う意見を言うと、瞬時に睨み合った。


「は!?いやいや、何言ってんの駿河さん!富士山は山梨でしょ!メディアとかカレンダーとかで取り上げられる富士山は大体山梨なんだから!」


「いやいや!甲斐くんこそ何言ってるの!富士山は静岡!日本人が生で見る富士山は大体新幹線から見る静岡側の富士山だから!」


 2人の討論は止まらない。


「うちは富士五湖持ってますけど!」


「そんなこと言ったら、静岡は4つある富士山の登山道のうちの3つ持ってます!」


「それを言うなら、登山者が1番多い登山道は山梨の富士吉田口ですから!登山者の多くが山梨を選んでますから!」


「でも、登山者の目標である頂上を含めた八合目以降は、静岡にある富士山本宮浅間大社の所有地だって法的にも決まってますから!」


 トオルとアユミはその後も論争を続け、それぞれ主張を言い尽くしたあと、ススムに目を遣った。


「ヤマさん!」

「山城くん!」

「「どっちだと思う!!」」


 2人に同時に見つめられたススムはたじろぐ。


「あ、あの、何というかそのー」


 トオルとアユミは目を離さず、ススムの言葉、結論を待つ。


「……えっと、ど、どうでもいい、でございます」


 トオルとアユミは机や椅子が乱れるほど盛大に転けた。


 当事者は大きな問題でも、第三者からすれば、そんなことはどうでもいいことなのだ。

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