不思議な少女 (Side ユリアス)

 冒険者。


 それは、死と隣り合わせの職であり、実力主義な厳しく険しい、広い道である。


 実力がある者は明るい人生を謳歌し、実力が無い者から死んでいく。


 そんな地獄とも天国とも取れるこの世界は、ランクという階級で分けられている。


 全7ランク存在し、一番上のSランク冒険者は、歴史上5人しか存在していない。


 そんな過酷な世界を突き進むとある紫髪の青年は、現在依頼の真っ最中だった。


 その青年の名はユリアス。


 Dランク冒険者であり、初心者を脱したくらいの実力である。


 ユリアスが受注した依頼は、ゴブリン5体の討伐。


 依頼をこなすため、「初心者の狩り場」とも呼ばれる【デビリス草原】を、1人歩いていた。


「ゴブリンが見つからない……もう日が暮れそうなのに……」


 ユリアスは、そう呟きながら当たりを見回す。


 すると、戦闘中の人影を見つけた。


「あれ……戦ってるのって少女と――スライム?」


(スライムか、懐かしいな)


 スライムは、殆どの冒険者が初めて倒す魔物だ。


 最弱魔物として有名で、体内の核を壊せば簡単に倒せる。


 しかも攻撃されても殆どダメージは無い。


 だが逆に言えば、核を壊さない限り倒すことはできない。


 小さい子供は体当たりされ転んだ時にケガをするなど、小さな被害が出ているれっきとした魔物だ。


 少女はスライムを斬り続けているが、核を破壊できてないためすぐに再生してしまう。


 スライムもやられるだけでなく、少女に体当たりを繰り返していた。


 その戦いを見ていたユリアスは、ある違和感を覚えた。


「あの子……本当に初心者なのか?」


 スライムに切り口ができるので斬っていることはわかるのだが、その彼女の剣が速すぎてか、全く剣筋が視えないのだ。


 ユリアスがその少女とスライムとの戦いを眺めていると、不意に少女がこちらに走ってきた。


「そこの人間っ…じゃなかった、君! お願い、このスライム倒して!」


「へ!? あ、ああ……」


 突然のことに驚きつつも、少女の後を追ってきたスライムに対し剣を構える。


「はぁっ」


 ユリアスはスライムの横から、核に向かって剣を突き刺した。


 剣はスライムの核を真っ二つにした。


 その体は溶けるようにして地面に消えていく。


「ふぅ……」


「ありがとう、本当スライムだけは昔から倒せないんだよね……」


 そう呟く彼女に、改めて目を向ける。


 すると、ユリアスは思わず目を見開いた。


(なんでこんなところに――絶世の美少女が!?)


 少女は腰まで垂れた長い青髪に、右目が黄色で左目が青色と色が異なる瞳を持っていた。


 顔は幼さが残るものの、鼻筋が通った綺麗な顔立ちをしている。


 体は細くスラッとしているが、女性らしさも持ち合わせていた。


「どうかしたの?」


 固まって動かなくなったユリアスに、少女は首をかしげた。


 見惚れてぼーっとしていたユリアスははっと正気に戻る。


「う、ううん何でもないよ。僕はDランク冒険者のユリアス」


「わたしはノアだよ」


「そういえばさっき、スライムだけは倒せないって言ってたけど……他の魔物は倒せるの?」


 ユリアスは先程の彼女の言葉を思い出し、遠回しに訊いてみた。


「他の魔物なら倒せるよ」


 ノアは自信満々な様子で答える。


 しかし、その顔はすぐに悔しそうな悲しそうな表情となった。


「スライムは他の魔物と違って匂いがしないから、核が何処にあるのかわからないんだ。だから今まで一度も倒せたこと無いんだよね……」


 スライムの核は、体の色と異なる色が殆どだ。


 似ている色の核を持つスライムはいれど、同じ色の核を持つスライムは聞いたことがない。


「色が違うからわかりやすいと思うんだけど……」


「わたしは目が視えないもん。わからないよ」


 ノアはそう口にすると自分の両目を指差す。


「え……? 目が視えないって――」


 ユリアスが言いかけた瞬間、頭上で凄いスピードの何かが通った。


 その後、生き物の体が地面に落ちる音と、液体が飛び散る音が響く。


 よく見ると、ノアが腰に差していた剣は引き抜かれ、その剣先には赤い液体が滴り落ちていた。


 ユリアスは恐る恐る後ろに振り向く。


「……っ!」


 そこには頭を斬り飛ばされた、ゴブリンの死体が転がっていた。


 しかも、1体だけではなく4体分の死体があったのだ。


(まさか…4体同時に斬り飛ばしたのか……? でもさっき、目が視えないって……)


 ユリアスが混乱していると、ノアは優しげな微笑みを浮かべた。


「危なかったね。気をつけないと死んじゃうよ? 簡単に。君はわたしと同じで――人間なんだから」


 日の光を背に受ける、ノアの右目は何故か、金色に光っている。


 そう、ユリアスには見えたのだった。

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