85.お夜食!?
実は、国王様に感謝したいことがまだまだ有る。そのひとつが、夜刻に出る食事だ。
もちろん、朝刻任務や昼刻任務の時にも食事は出るけど、夜刻任務の時は格別でして。兵士たちのテンションを、確実に上げてくれるものだった。
その食事というのが宿舎の食堂に、所せましと並べられる調理された食べ物の数々。その全てが食べ放題と、年頃の兵士のやる気と胃袋を掴むもので。
食後の任務もあることから、【食べすぎ注意】の札が、各所に下げられるほど美味しいものばかり。とても、一日では全種類食べられない。だから、夜刻任務が三日間なのはとってもありがたい。
「三回に分けてやっと全種類、食べれるもんね」
「あぁ、確かにな。だがこれだけの料理だ、一度腰を据えて食べてみたいもんだな」
「ふぉぉぉ! ふぁにおふぃふぅ! ふぉれふらいふぃふぃふぃふぃふぉふぃふぇふぃふぇるふぁろぉ」
「ちなみにカーニャは、『おぉぉぉ! 何を言うぅ! これくらいなら一日ちょいでいけるだろぉ』と言ってるみたいだねっ!」
何故か、食べ物で両頬を膨らませたカーニャの言っていることを、的確に通訳できたピリカ。魔法が得意な者どうし、通じるものがあるのかな?
とはい言えカーニャの食欲はすごく、私たちが三日間かけて全種類食べれる料理を一日半で食べ終え、今は二周目に入っているみたい。
私よりも背が低いのに、あれだけの料理がどこに行っちゃうのかが不思議。ひょっとして、食べた物が凝縮し、あの突き出したお胸に詰め込まれていくのかも。
「そんなことは無いさぁ、高魔力者は魔力保持のために、沢山食べる必要があるからねぇ」
「ふぇっ!? そうなの? でも、カーニャって高魔力者だったの? 確かに剣部隊の中では、魔法は得意みたいだけど」
「何を言ってるっさぁ! カーニャは魔法師……ぶぼっ!!!」
「そぉぉいぃ! 黙らっしゃいぃ! 余計なぁ、ことを言うでないぞぉ」
そこまで言ったピリカの首筋に、手刀を叩き込むカーニャ。目から涙、口や鼻からは、元が食べ物だった何かが飛び出してて、とても見れた顔じゃなくなってる。
カーニャは日頃から、魔法の話をすることは無い。特に自分のことになると、のらりくらりと躱しているし。
本気で、ミステリアス路線を進もうとしているのかもしれないと思ってしまう。
◇◆◇カーニャ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ナゾノオンナ?◇◆◇
食後の任務は、城壁巡回。北側の門を出て、東に移動。王都の東側は工業地帯になっているために、作業をする音が城壁の外にも響いてくる。
「こんな時間までお仕事してるなんて、大変だね」
「うむ、そうだな。魔法鉱石の製鉄は時間がかかる……とは、聞いたことがあるが」
「だなぁ。魔力をなぁ、閉じ込めた鉄にするにはぁ、温度管理が大事らしいからなぁ。素材になるまでぇ、数日かかるらしいぞぉ」
「へぇ、そうなんだな。ウチ、全然知らなかったっさぁ」
王都に関しては、色んなことに詳しいカーニャ。どうせまた、その筋の人に聞いたっていうんだろうけど。
ここまでくるとミステリアスじゃなくって、単なる事情通なんじゃないの? って、思ってしまう。
そんな会話をしつつ、周りを警戒しながら移動。夜空に変化を感じ始めた頃に東の門にたどり着くと、そこには今しがた到着したであろう荷パ車が数台並んでいた。
どうやら王都に入る前の、積荷の検査を受けているみたいだ。
その中には、領地間を移動する乗り合いの荷パ車もあり、その中から、検問詰所横に設置されている公衆トイレに駆け込もうと、飛び出してくる人達もいた。
長時間の移動と、それに伴う車体の振動から解放されて、我慢の限界を超えたみたい。トイレに駆け込む人達は、殆どが眉間に皺を寄せている。
しかも、変な走り方になってるし。
「うむ、そうだな。気持ちは分からんでもない。一番近い北の領地でも、王都まで三日はかかるしな」
「だなぁ。私もぉ、初めて王都にたどり着いた時はなぁ、トイレに駆け込んだからなぁ」
「ウチも、そうだったよっ!」
「私もそうだったなぁ。何だか、懐かしいね」
マリマリやカーニャの故郷である、西の領地からは六日。ピリカの故郷の南の領地から王都まで、九日間もかかり、東の領地からでは十四日もかかってしまう。
王都にやってきて、そんなに月日が流れたわけじゃない。けど、その光景が、あの時の自分と重なってしまって、ちょっとしみじみ。
そんな懐かしい思いに、ふけっていた時だった。検査に並ぶ荷パ車の後方から突然黒い影が飛び上がり、そこに居る人たちの真ん中に舞い降りて、威嚇してきたのだった。
キッシャャャャャャッ!!!
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