7.大激戦!

 ◇◆◇セントウチウ◇◆◇◆◇◆◇セントウチウ◇◆◇



「えぇいっ! やぁっ! とおぉっ! はいぃぃぃっ!!!」

「バーニング・スラーッシュ!!! アイス・ブラインドーッ!!! ウインド・アローーーッ!!!」

「ぅほぉぉぉ……あちょあちょあちょあちょあちょあちょあちょょょっ!!!」


 お聞きの通り、全力の死闘。各々すっごく気合を入れて、戦っている。まさに命をかけた、大激戦だ。


 実際にお見せできないのが、とても残念。


 しかしまぁ、兵士に志願したとは言え、本物の剣を持ったのは、四日前のこと。


 教育指導の時に、初めて剣の使い方を教えて貰った。実際に使ったのも、昨日バウドッグを倒した時くらいなもので。その時も、無我夢中で振り回していたら、偶然当たって倒した感じだったし。


「おぉぉぉ! ハッキリぃ言ってしまったなぁ。本当にぃ、ヒヨリは正直ものだぁ」

「いや、気持ちは分からんでもない。ただ、少しくらいはボヤかしても良かったんじゃないのか?」


 …………てへっ!


 それもこれも、王宮支給のプレートアーマーの、性能の良さのおかげ。だから、防御を気にすることなく攻撃をしまくれたのだ。


 その性能の良さが、王国内に知れ渡っているのが大きくて。だから両親も、娘が兵士になりたいと言っても止めることは無い。


 昨日だって、鋭い牙を持つバウドッグの攻撃にも、傷一つ付くことはなかったし。


 ――と言っても、衝撃はあるのですよ?


「はぁぁぁっ……とぉぉぉうっっっ!!!」


 最後は私の渾身の一撃で、こちら側のモンスターは全滅した。


 倒したモンスターを眺めつつ、皆んなで無事を確認。一年兵全員が無傷で、当然ながら鎧に傷一つ付いていない。


「はわわぁぁぁっ! いっぱい倒したねぇ」

「あぁ、そうだな。十人でバウドッグ五体に、ジャンプモンキャー八体。それと、大ネズミィが六匹。上出来なんじゃないか?」


「だなぁ、殊勲賞はぁヒヨリだぁ。一番多くぅ、倒したしなぁ」

「いやぁ、それほどでもぉ。えへへへぇ」


 ――そりゃまぁ頑張りましたよ、私。だから賛辞や賞賛、成長の糧をもっともっと。


 その後も同期達に褒められ、本当に頑張って良かったなぁって思っていた、その時だった。浮かれた気分を引き締める事態が起きたのだ。



 突然、私の後方から、おじさんの悲痛な叫びが聞こえてきた。


「ちくしょうっ!!! 返せっ! 返しやがれっ!!!」


 直ぐに声のする方に向かうと、ひとりのおじさんが大きめのモンスターに向かって、棍棒を突きつけて叫んでいた。


 ――ふえっ!?!? あれはっ!!!


 そのモンスターは、クロウベア。大柄で、鋭くて長い爪が特徴的。そんなモンスターが両腕を大きく広げ、おじさんを威嚇しているのが視界に飛び込んできたのだ。


「危ないですっ!!! 下がってくださいっ!」


 そう言って、そのおじさんの前に立つ私。後ろから、おじさんが悲痛で訴えてきた。


「兵士さんっ! お願いしますっ! アイツの、アイツの爪に引っかかっているスカーフを取り戻して下さいっ!」

「ふぇっ!? スカーフ?」


 その声を聞いてクロウベアを見ると、確かに右前足の爪に、薄い赤色のスカーフが引っ掛かっていた。


「あれは娘が、俺の誕生日にくれた物なんです。だから、あれだけは失いたくないんだっ!」

「分かりました、任せてください! あのスカーフは、必ず私が取り返してみせますっ!」


 そう言って、モンスターに向かって飛び込む私。


 出来るだけ、スカーフのあるの右前足を攻撃しないように、兵士剣を繰り出す。クロウベアは左前足で剣を止め、スカーフの引っかかった爪を繰り出してきた。


 その爪が左の肩口に当たり、弾き飛ばされてしまう。


「きゃぁっ!!!」


 衝撃は強く、思わず地面を転がってしまった。けど、すぐさま起き上がって、兵士剣を構え直す。


 クロウベアを強く睨みつけ、ジリジリと距離をつめる私に対し、クロウベアは一歩も動かずに、両前足を高々と上げ、喉をグルグルと鳴らして威嚇していた。


「(むぅぅっ……絶対、絶対に私が取り返してやるんだからっ!)」


 再びクロウベアに飛び込もうと地面を強く踏みしめた、その時だった。別の場所で戦っていたサリッシュ先輩がこちらにやってきて、大声を出してきたのだ。


「クロウベアの群れが来るぞっ! 体制を整えろっ!」


 どうやら私は、目の前のモンスターに夢中になりすぎていたようで。荷パ車の向こうの砂埃にも、地響きにも、全く気がついていなかったようだ。


 でも、ここで引けばおじさんのスカーフを取り戻すことは出来なくて。でも、命令に逆らうことも出来なくて。


 ――もう……だめ……なの……


 そう思った瞬間だった。


 突然、私の横を通り抜けた一陣の風が、戦場を駆け回ったのだった。

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