第8話 ど~んとしてて

 翌朝。車を適当な方向に流しながら町か村を探す。


 兎にも角にも、自分が今、居る国がどこなのかを知らないと、言語の取得が出来ないからだ。


「現地住民さん、どこですか~」


 ハルが調子っぱズレな歌を歌い始めたのでツッコミを入れてみる。


「お前さんは呑気だね」

「それはまぁ。楽しまなきゃ損ですから!」

「その強心臓を俺にくれ」

「不安なんですか?」

「当たり前だろ」

「男らしくド~ンとしてたらいいのに」

「俺のド~ンは経験によるものなんだよ。だから未知の体験には弱いんだ」

「あらら」


 そんな弱音を吐き出してみる。年下の女の子相手に何を言ってんだろうな。するとハル。


「しっかりしてくださいよぉ。加瀬さんがド~ンとしてないと私まで不安になっちゃいますよぉ」

「お前のド~ンは俺頼みかよ」

「当然でしょ? 一人だったら心細かったです」

「そんな事を言われたら、男としても大人としてもド~ンとしてないといけないな」

「はい! 加瀬さんはド~ンとしてて下さい!」


 そうだな。ここで頑張らないで何が大人だって話だな。


「んじゃあ、少し見栄を張ってド~ンとしてみるか」

「はい!」


 こうして道なき道を進むこと少し。遠くの方に町並みが見え始めてきた。ちょうど見下ろす形なので窪地になっているようで、町の中央に大きな川と湖が見える。ハルが感嘆の声を上げた。


「うわぁ。可愛い!」


 俺も同感だ。確かに見栄えのする町だ。城壁らしきものも見える。


「このまま車で行くんですか?」

「どうすっかなぁ」


 そんな悩み。異世界に車はあるのだろうか?


 そんなことを思いながら進んでいると、町との間に馬車の姿が見える。


「加瀬さん! 馬車ですよ! 馬車!」


 どうやらこの世界では、まだ馬車が現役のようだ。


「車で町に行くのはヤバいかな?」

「でも、それだと車ごと私達を異世界に飛ばしますかね?」

「あいつは愉快犯だからな。面白そうだからという理由でやりかねない」

「困りましたね」

「とりあえず馬車の住人と接触してから考えよう」


 そういう結論にいたり、少し車のスピードを上げて馬車を追いかけるのだった。

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