第13話 去勢手術
二ヶ月が過ぎ、私が育てた子猫たちはすくすくと育っていた。
母猫のもとへ戻そうという気はなかった。これだけの期間、別々に暮らしたのだから、母猫だってもう自分の子供とは認識できないだろう。私が責任を持って育て上げなければならない。
子猫たちは、彼らのご飯の支度をしようとする私の足によじ登ろうとして、後ろ足立ちして、私の足に前足の爪を立てる。
痛いってば。
でも子猫たちは、かまわず私の足を上ってくる。だから、痛いってば。
しょうがないので、私は子猫たちが落ちないように、手で押さえながら座る。すると彼らは、私の手を一生懸命舐める。そして時々カプッとかじる。
それは食べ物じゃないよ。
まさに至福の時間だった。
ただ、問題もあった。
子猫が大きくなるにつれ、ウサギ小屋が狭くなってきた。スペースの半分近くを猫トイレが占めているから、尚更だ。
私は子猫たちをウサギ小屋から出して解放した。この部屋には元々彼らしかいない。ここまで大きく育ったら、解放しても危険はないだろう。
いやいや、危険な目に遭ったのは、部屋の方だった。
元気な子猫たちによって、カーテンはボロボロにされ、壁紙は爪とぎにされた。この部屋は物置としても使っていて、本やCDやDVDが詰まった段ボール箱を七個ぐらい置いていたが、それもボロボロにされた。
段ボール箱の中身が傷つけられる前に、私はそれらを廊下に出さざるを得なくなった。
もう一つの問題は、もう少し深刻だった。
子猫は、ハチワレの方がメスで、サバトラの方がオスだとわかった。だから少なくとも、サバトラのオスの去勢手術はやらなければならないだろう。
ネットで調べたら、去勢手術の時期は一般的に生後六ヶ月から九ヶ月頃とのこと。そこで私は七ヶ月ぐらいをめどに考えていた。
やはりというか、甘かった。
そろそろ生後七ヶ月になろうとする頃、私は子猫たちの部屋から、発情期のメス猫特有の鳴き声を聞いた。
まずい。ハチワレのメスが発情期になっている。
私は動物病院に電話して、サバトラのオスの去勢手術をお願いしたが、予約が取れたのは確か三日後か四日後だった。
病院では、私にとって恒例の儀式が待っていた。命名式だ。この期に及んで、まだ私は子猫にちゃんとした名前をつけていなかった。
サバトラの方は、母猫が育てているサバトラと同じ『カミナリ』と呼んでいたのだが、実はこっちのサバトラの尻尾はクニャッと一回しか曲がっていない。稲妻っぽくはないのだ。
そこで私がとっさにつけた名前が、『なめこ』。
いや、オスだろうと突っ込まれそうだが、実際お医者さんにも言われた。でも、ハチワレよりこっちのサバトラの方がよく私を舐め回してくれるので、『なめこ』。
あれほどおかしな名前はつけまいと思っていたのに、とっさに思いついたのが『なめこ』。
バカか、私は。『なめこ』よ、許してくれ。
ちなみに、ハチワレのメスの正式な名前は『ハチコ』にした。
ところで、私は入院したことがない。だから手術したこともない。そのせいか、外科手術に対して極端に臆病になっている。手術シーンのある医療ドラマさえ見られない程だ。
それなのに、お医者さんは摘出した睾丸をわざわざ私に見せた。
成果報告なのだろうが・・・いらないよ、やめてよそんなこと、と言いたくなったのを私は我慢した。
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近況ノートに、なめこの生後二ヶ月くらいの頃の写真を公開しましたので、よろしければご覧ください。
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https://kakuyomu.jp/users/windrain/news/16817330648106404071
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