第2話 きっかけの猫
私が猫を飼うようになったのは、一匹の白黒ハチワレ猫がきっかけだった。
当時、仕事の都合で実家を出てアパート暮らしをしていた私は、隣家の裏小屋に住み着いた子猫が、実家に遊びに来て、猫嫌いの母の心を掴んだという話を耳にしていた。
ある日実家に帰ってみると、裏手で洗濯物を干していた母のそばに、ハチワレ猫がいた。その猫は私と目が合うと、おもむろに私の方へ近寄ってきて、いきなり座っている私の膝の上に乗った。
誤解しないでほしいが、ほとんどの野良猫はこんなにフレンドリーではない。この猫が特殊なのだ。
だが、その頃の私は猫について全く詳しくなかったので、猫とはこういうものだと錯覚してしまった。
やがてその猫は実家の家猫になり、私は休みの日になれば実家に帰るようになった。その猫は『ニャン』と名付けられていた(なんて安直な・・・)。ニャンは、日中は外で遊び、夜に家に帰ってくることが多かった。
一年位そういう生活が続いたが、ある日、猫が帰ってこないと連絡があり、実家に帰った際に探し回ってみたが、見つからなかった。それっきり、ニャンに会えることはなかった。
後になってわかってきたことだが、猫は車に轢かれると、どこかに隠れてそのまま死んでしまうことがあるらしい。これは最悪の場合の想定だが。
それ以外の可能性としては、ニャンはオスだったので、発情期のメスに惹かれてさまよっているうちに、迷子になって戻ってこれなくなったとも考えられる。猫の行動範囲はせいぜい半径百メートル位なので、遠出してしまうと帰れなくなる。
しかしそうなっても、ニャンは人懐こいので、誰かに飼われて生きてゆけるだろう。そう思うしかなかった。
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