グレー・マッド・マリオネット
弾、後晴れ
第1話 私の話
耳を乱雑にかき回してくるけたたましいヘリのローター。眼下に広がるまばゆい夜景は、まるでプラネタリウムのような光を放っている。開いたままのドアから強い風を感じながらその光景を眺め、少しでも心を休ませようとするが。
『クローザー。現場の状況を知らせろ。』
腰についた無線が邪魔をした。
「・・・風はありますが、計画に支障はありません。すでに現在目標地点の上空にいます。」
『相変わらず仕事が早いな。開始時刻はそちらに任せる。期待しているぞ。』
「任せてください。それでは、失礼します。」
無線を切り、自分の腰に無線機を提げた。取り付けられた武器ラックにかかるククリナイフとハンドガンを手に取り、さあ飛び出そうと身を乗り出した時、ヘリのパイロットがこちらを振り向きこう言った。
「幸運を!」
その手向けの言葉を無言のグッドサインで返し、すぐさまヘリから飛び降りた。
降り立つべき場所は、凄まじい速さで近づいてくるビルの屋上。少し風圧で目を開けにくいが問題はない。否が応でも目に入るヘリポートがいい目印になる。私はそのまま重力に身を任せ、その目標地点に足から着地することができた。
「今回の目標はターゲットとその護衛の始末。階層はここから3階下。護衛の配備は・・・ギャングの用心棒が5人か。」
すぐそばにあるエレベーターを使い下に降りる。仕事前特有の緊張を感じるが、その感情を私は押し殺した。
ポーン・・・
到着だ。エレベーターの扉が開かれる。扉の間から見える大柄の男の顔は驚愕に満ちていた。
「どいて。」
「お、お前・・・!てきしゅ・・・!
男はポケットの携帯に手を伸ばそうとするが、咄嗟に飛び掛かり口を押え喉元にナイフを突き刺す。男は、叫び声も上げず静かに死んでいった。
「あと4人。」
ホテルのような綺麗で一直線の廊下を進んでいく。近くに敵はいないようだ。恐らく一般人の目に入らぬよう部屋に固まっているのだろう。こっちとしてはこの上ない好都合だ。しばらく進んでいると、ある一室からこのような会話が聞こえてきた。
「おい。あの野郎は何してる。飲み物にしては遅すぎるぞ。」
「わかりません・・・。何度かあいつの携帯に電話をかけているのですが、一向に出る気配がないんです…。」
「まさか…。おいお前。様子を見てこい。」
「りょ、了解です…。」
人影がこちらに歩み寄ってくる。先ほどの横柄な口調で話す男と、へりくだった態度の数名の男。間違いない。ドアが開かれる。扉を開け、私を見た護衛は先程と同じような表情を浮かべ驚愕していた。
「こんばんは。」
「くそっ!」
腰の拳銃に伸ばそうとする手の平を斬りおとしその流れでドアを閉めながら体を押し込み首を切り裂く。死体とともに倒れこんだ先には、銃を構えた護衛とターゲットが待ち構えていた。
ターゲット達はものも言わずに引き金を引いてくるが、私は先程の死体を盾にし銃弾を防いだ。銃声が止み、銃弾を受け止める感覚が無くなったその瞬間に、持っていた死体を投げる。三人はたまらずうろたえ、投げた肉塊が覆い被さる形で倒れこんだ。冷静に、なお確実にターゲットを殺していく。一人は心臓を、また一人は脳天にナイフを突き立てその命を奪った。もう一人は…。
「何が目的だ…。金か!!」
尻もちをつき、裏返った声で命乞いするターゲットに、私は嘆息を突きながら答えた。
「私は仕事を頼まれただけ。それ以上でもそれ以下でもない。」
ターゲットの上に馬乗りになり、両手を斬りおとす。
「ぎゃああああああああああああ!!!!???」
耳をつんざく断末魔に思わず耳をふさぐ。
「うるさい!」
ターゲットの顔にフルスイングのビンタをお見舞いする。パシィン!という清々しい音色とともに、男の意識ははるか遠くに飛んで行った。
「ふぅ…。さ、帰ろう。」
すやすや眠る男の胸にナイフを突き立て、腰の無線機で掃除屋に連絡を取る。
「…あぁ。そう。四人はそのまま処理して両手がないやつは現場に残してある住所まで届けて。ありがとう。それじゃ、またよろしくね。」
そのついでに、司令部にもつないだ。
「こちらクローザー。作戦完了です。」
『よくやった。報酬は死体を確認した後に渡す。回収地点はその建物の屋上だ。これから5分以内に到着する。急いでくれ。」
「了解。」
そして、私は部屋を離れ、元来た道を戻り再び屋上に戻った。すでにヘリは、回収地点で待機していた。急いで飛び乗り扉を閉める。
「上昇します!」
ヘリは上昇していき、作戦地点を離れ、私は完璧に使命を果たした。しかし、まだ油断はできない。目を窓にやり周囲を警戒しようとする。が、急に激しい疲労感を感じた。瞼が勝手に閉じていく。しばらく意識を持ちこたえさせていたが、すぐに眠りに落ちてしまった。
「おはようアリア。」
眠たい目をこすりながら身体を起こす。
「昨日すごい疲れてたねー。久しぶりの仕事は緊張した?」
起こしてくれた相方の両手にはコーヒーが注がれたカップが握られていた。
「はいコーヒー。」
「…ありがとう。」
渡されたカップに口をつける。
「…!これ…」
「へへーん。アリア、ブラック渡すといつも渋い顔してたからね。砂糖マシマシ、フウカスペシャルでーす。」
その屈託のない笑顔を見ると、私もつい笑みがこぼれてしまう。
「いつもありがとう。」
「どういたしまして。」
しばらくその特別なコーヒーを楽しんでいると、部屋に設置された内線の電話が鳴り響いた。
『あぁアリアか。ターゲットの遺体を確認した。報酬を渡したい。疲れが癒えたら私の部屋に来てくれ。』
「了解です。昼頃に向かいます。」
受話器を置き、再びソファにどかっと座った。
「なんだったー?」
「報酬を渡したいって。」
「おー」
「今回は結構評価高かったからね。少し楽しみ。」
「今日の夜、なんか奢ってよ。」
「しょうがないなぁー。」
司令室
私は部屋の扉を3回ノックした。その直後、部屋の中から返事が返って来る。
「入れ。」
「失礼します。」
ドアノブを捻り、扉を開け部屋に入る。
「さて、報酬だが、今回は手渡しではない。既に君の口座に振り込んでおいた。」
その言葉を聞き、私は驚いた。司令官はいつも現金主義だ。たとえどんなに高額の報酬でもトランクケースで渡してくる。
「ど、どうしたんですか。いきなり…まさか、司令の頭が現代に追いつい…!
「ちがァう。俺も本当は現金で渡したかったんだ。そっちの方が信頼もあるしな。」
司令は一口コーヒーを啜り、深く息を吐いた。
「アリア…君はクビだ。」
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