第6話
私はニョッキのスープを夢中になって食べるアンディシュを、目を細めて眺めていた。やっぱり、若い子は良く食べる。身体の大きいアンディシュはなおさらだ。
「まだ、おかわりする?」
「いや、もうけっこう。いやしかし美味しかったよ。このニョッキとやらは格別だ」
私は、胸をなでおろした。
よかった。アンディシュ、ジャガイモ料理を気に入ってくれたみたい。
「じゃ、次は栽培方法を教えるね」
「あ、その前にちょっと待ってくれるかい?」
そう言うと、アンディシュはペンと羊皮紙を取り出した。
「今、食べた料理の事を書き留めておくよ」
アンディシュは、迷いのない筆致で、暖炉で焼いたジャガイモ、ジャガイモの千切りのクレープ。そしてニョッキを描いていく。そしてその横に、味や食感の感想を書き記す。くわえて私に調理法について質問すると、それを細かく書き記した。
「絵すごく上手だね……」
「僕にはこれくらいしか取り柄が無いからね」
私の心からの賛辞を、アンディシュは自嘲の返事で返す。
食器をかたずけて庭の菜園に出ると、私は種芋を植える準備をする。
種芋にするジャガイモを四等分し、その断面に暖炉の灰をまぶして切り口が腐るのを防ぐ。
一時間ほど天日で干して断面が乾いたところで、ジャガイモを深さ十センチほどの地面に植える。間隔は70センチほど。もう何度もやっているから身体に染み付いている。
アンディシュは、その様子を事細かにスケッチし、工程ひとつひとつに対して、こと細かく私に質問を投げかける。
そうして私から聞き取った情報を、熊のような大きな手で、小さな小さな文字をビッシリと書き記す。
「随分と詳細に書き記すのね」
「ああ、この食物の正体を、僕の頭では判断できかねるからね。
僕ができるのは、ありのままをスケッチするところまでだ。このスケッチを持って、いったん大学に戻ることにするよ。仲間や、バッカン教授の知恵を借りたい。種芋といったか……ソレが収穫できるまで育つにはどれくらいの期間が必要なんだい?」
「大体三か月あれば収穫できるようになるわ」
「なるほど……」
アンディシュは、私に銀貨を二十枚手渡した。
「これだけあれば、君と母君の三か月分の食料を賄えるはずだ。
三か月後、ジャガイモが実ったら、その時期に君を改めて迎えにくるよ。それまで待っていてくれるかい? ナスカ」
そう言うと、アンディシュは私から視線をはずして空を見上げた。
その瞳はうるんでいた。
私は気づいてしまった。
私がナスカではないこと。
そして、ナスカはすでに……天に召されてしまったこと。
その事実を、アンディシュが気が付いてしまっていることに気づいてしまった。
「それじゃ、三か月後」
「…………」
私は、無表情で立ち去るアンディシュを無言で見送った。
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